十三日目・リベルさんを探せ④
リベルさんについて、町の人に聞き込みを行う。猫目石の近くに住んでいるだろうというリリティアさんの推理を信じて、聞き込みをする場所は猫目石の周辺だ。手分けした方が効率的なので、リリティアさんとは一旦別行動をとった。次に鐘が鳴ったら、猫目石の前にて集合することになっている。ついさっき正午の鐘が鳴ったばかりなので、時間としては一時間くらいだ。
30分ほど聞き込みを行ったが、結果は芳しいものではなかった。猫目石が面している通りで聞き込みを行ったが、有益な情報はなかった。男性に尋ねても、猫目石のこと自体をよく知らない人が多い。男性客が少なそうな店だから、男性が知らないのは致し方ない。しかし、女性に聞くことは、答えてもらう時点で難しかった。若い女性には話しかけた時点で不審がられ、近所のおばさんっぽい人にはリベルさんを狙う怪しい男という目で見られた。
場所を変えようと思い、猫目石とは道を挟んだ反対側の区画へ入る。猫目石側の区画では、リリティアさんが同じように聞き込みをしているはずだ。あっちで有益な情報が得られていればいいんだが。正直、俺には情報を聞き出せる自信がない。心が折れ始めている。
結果が出ないまま、心が完全に折れた頃に鐘が鳴った。昼一つ目の鐘って呼ばれているんだっけ。そんな関係のないことが頭に浮かんだ。とても長く感じた一時間の、終わりを告げる鐘だ。前職を退職して数カ月、この間で最も多くの人と会話をした一時間だった。まあ、会話が成立しないことも多かったけど。
猫目石の前で待っていると、程なくしてリリティアさんも戻ってきた。
「お疲れ様です。どうでした?こっちは全然ダメでした。聞けたことといえば、ここ最近はほとんど店が閉まっているということくらいですね。午後の短い時間だけ稀に開いてるみたいですが、それ以外は閉まっているらしいです。リベルさんに会うために有益な情報は、精々それくらいですかね」
「そうか。こっちも、今からすぐ会えるような情報はなかった。だが、閉めている原因はわかった」
「猫目石が閉まっている原因ですね。何だったんですか?」
開けられない原因がわかっていれば、場合によっては力になることもできるだろう。
「リベルの父親が病に臥せっているようだ。数日前に突然具合が悪くなったらしい。その看病のために店を開けられないのだろうと、近くの住民が語っていた」
「そうなんですか。他に看病してくれるご家族の方はいないんでしょうかね。店を開けられないというのは厳しいでしょう」
店舗は営業して初めて利益が出る。人を雇っていないので休業中の人件費は気にしなくていいだろうけど、営業しなくても必要な経費はある。店舗が賃貸ならば、賃料もかかるだろう。それらに加えて生活費も稼がなくては、自営業はやっていけない。折り紙の件のように店の外での売上もあるらしいが、それでも店を開けられないと、経営が厳しくなるのは間違いないだろう。
「どうやら、リベルには父親しかいないようだ。聞き込みをしていた際、近隣住民がそう教えてくれた。母親不在の経緯までは聞かなかったが。家族の話には私も触れにくかったので、今まで聞いたことはなかったんだ。まさか、こんな形で家族の情報を知ることになるとはな」
母親や兄弟姉妹はいないということか。父娘二人で暮らしていて、片方が介護や看護が必要な状況になると大変だろう。病気の家族を世話しながら、家事をこなして収入も得ないといけない。ましてや医療や公共サービスが充実しているとは、到底思えない世界だ。相当厳しい状況なんじゃないかと思う。
「開店していない理由はわかったが、これだけではどうにもならないな。稀に開いているという情報の方がよほど有益かもしれない」
「理由がわかっても、お父さんの病気では俺たちにはどうしようもないですからね」
「そもそも、まずは会って話をしなくてはな」
「そうですね。会って困っていることを聞ければ、何か力になれることもあるかもしれませんし」
俺ができそうなことは、精々商品を置いてもらって売上に貢献することくらいだろう。でも、収入の不安が少しでも払拭できるなら、十分意義はあるだろう。それに、リリティアさんならもっといい解決策が出せるかもしれない。
「だが、猫目石に一日中張り込むかとなると、それも難しいな。我々にもやるべきことがある」
「いいんじゃないですか?確かに、森の方でやることはいっぱいありますが、どれも急ぎの件じゃありません。食費も一週間くらいなら、働かなくても大丈夫なくらいはお金がありますし。リベルさんに会うこと自体、この世界のお金を稼ぐために必要なことです。その点では、俺にとっては職務の範囲内でしょう」
「そうか。では、しばらくは猫目石の開店状況を、定期的に確認することにしよう。午後の短い時間だけ開いているということなら、昼過ぎから日没前までだけでいいはずだ」
これから数日の方針が決まった。店の前でずっと待つのではなく、鐘がなるごとに店の様子を確認する予定だ。店の前でずっと立っていたら不審者に見られるだろうから、この方がいいだろう。
次に鐘がなるまでは自由時間なので、この間に昼食にすることにした。この時間は比較的空いているので、落ち着いて食べられる。向かう先は、以前にも行った定食屋だ。