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森林開拓日誌  作者: tanuki
森を守るお仕事
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一日目・食料を採集しよう⑩

 下準備も整ったところで、そろそろやってみよう。そう思ってバールのようなものに力を込めた。

 「おおおっ!?」

 力を込めた瞬間、体から何かが引きずり出されるような感覚に襲われた。その感覚に驚いたあまり、バールのようなものから手を離し、その場に座り込んだ。

 なんだったんだろう、今のは。虚脱感、というのだろうか。手の力が抜けたわけではない。試しに両手を握り込んでみても、きちんと力が入る。

 「突然座り込んでどうしたんだ?どこか痛めたか?」

 少し離れたところで見ていたリリティアさんが声をかけてくれた。

 聞かれても、自分でも何が起こったのかわからなかった。立ち上がって肩や足首を回したり、あちこちの筋を伸ばしたりしてみた。とりあえず、痛めた箇所はないようだった。

 「いえ、特にどこかが痛いというわけではないんです。ただ、体から何かが抜け出していくような、引きずり出されていくような、そんな感じの違和感があって。それで驚いて座り込んでしまいました。なんだったんだろう、今の」

 苦笑いしながらリリティアさんにそう答えた。

 すると、しばらく考え込んだ後に彼女はこう言った。

 「それはおそらくマナが消費されていく感覚なのだろう。神が作った道具を初めて利用する者が使用の際、違和感を感じることはよくあることだそうだ。特にバールのようなものは、マナの使用量の上限がない。だから、大量のマナを消費する感覚がその違和感の正体なのだと思う。ノコギリを使用した時には感じなかったか?」

 「あの時は・・・あまり感じなかったですね。ノコギリが光りだしたり、簡単に切り倒せたりしたことに驚いていたので、そちらに意識が向かなかっただけかもしれませんが」

 刃先がいきなりオレンジ色に光りだした驚きと、木を撫でるように切り落とした時の感動はとても新鮮だった。とはいえ、今ほどの虚脱感を感じれば気づかないはずはないと思うけれど。

 「そうか。まあ、マナが枯渇したところで動けなくなるわけではないから安心しろ。体の筋肉や内蔵とは根本から違うものだからな。マナが限界量まで貯まっていようが、空になろうが頭脳にも体力にもなんら影響はない」

 「そうなんですか。なら安心して使えますね。でも、そうなるとどれだけマナが残っているのかわからないということですか?突然マナが切れて道具が使えなくなると支障が出る場合もありそうですが」

 「使い続けていくうちに何となくはわかるようになる。・・・にぶいやつはその限りではないらしいがな。ちなみに私はほぼ正確に把握できる」

 最後に自慢が入った。目を見るとわかるが、ドヤ顔である。リリティアさんの大きな目は口以上に多弁かもしれない。

 「なるほど。まあさっき感じた違和感はマナが消費されていく感覚で、マナがなくなったとしても歩いて帰れなくなったりしないのであれば問題ないですね。試しにもう一度やってみます」

 「工作しているのを見届けてから言うのもなんだが、根を切り離さずに幹を抜くのはおそらく不可能だぞ?」

 先ほども少しずつ根を切り落としてからとは言われていた。しかし、バールのようなものを実際に使ってみたかったのだ。木がどれだけ重いのか、体感してからどうするか考えたいというのもあった。

 「試しに一度、どれだけ重いのかやってみようかと。あと、少しでも根っこが動いて、根っこの位置が分かればいいなと思いまして」

 「そうか。まあ何でも試しにやってみることはいいことだ。時間がないわけでもないしな」

 さて、バールのようなものを実際に使ってみよう。先ほどの虚脱感を克服しなければならないのは憂鬱だ。しかし、このバールにどれだけの力があるのか見てみたいという好奇心のほうが優勢だった。

 バールのようなものをしっかりと握った。一つ深呼吸をする。

 「うおおおおっ!!」

 力を込めてバールのようなものを下へ思い切り押し込んだ。

 またも何かが引きずり出されるような違和感を感じるが、今度は無視した。

 メリッメリッと振動が手に伝わってくる。

 持ち上がっていく手応えがある。

 「おお、根ごと引き抜くか!」

 工作をした木の幹を支点に、バールのようなものが根っこごと木を持ち上げた。地面を割り広げ、木の根っこが姿を現した。

 そのまま力をかけると、手前の根っこが土から離れた。持ち上がった根っこから水滴が跳ねた。

 反対側の根っこは一部地面に残ったが、木の幹は完全に地面から抜き取ることができた。

 「よくも根を切らずに引き抜けたな。やるじゃないか」

 「はい!これで水が出てくれればいいんですけど」

 そう言い合って二人で水たまりを確認した。

 木を引き抜きえぐれた地面から水が湧き出し、水たまりの水かさを増していく。

 「これは・・・出てる!出てますよ水が!」

 「本当だな。ちゃんと水量が増えている。水が湧き上がってきているぞ」

 そうしている間にも、水たまりはどんどん大きくなっている。成功だ。

 「ヨッシャァッ!」

 思わず両手でガッツポーズをした。

 リリティアさんを見ると、彼女も嬉しそうにしていた。

 顔を見合わせる。俺は右手で、彼女は両手で、静かにハイタッチをした。

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