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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
139/188

十三日目・リベルさんを探せ③

 「そろそろシャールの町へ行こうか」

 リリティアさんに声をかけられたので、素振りを止めた。

 「お前の準備が済み次第出発しようと思うが・・・何をやっていたんだ?」

 「少し稽古をしてました。護身用に用意してもらっていましたけど、今まで武器や防具を利用することがなかったというかできなかったんで。マナの力も使えば長剣も振れるようになりそうですし、ちょっとは戦えるようになりたいなと思いまして」

 「そうか、それはいい心がけだな。この森は人間が入り込まないから、大型の野生動物が多数生息している。逆に人間がいない分安全とも言えるが、お前にとって猛獣の脅威があるのは間違いないからな」

 確かに、人間がいないのは安心できる。人の往来がないから、山賊などもほとんどいないらしい。さすがに、武装集団相手では勝ち目がないだろうから、そういった懸念がない点は安心だ。

 「だが、剣については私では教えてやることができない。格闘術なら多少は学んでいるのだが、武器を使った戦闘術はさっぱりなんだ」

 「格闘術ですか。どんなものなんですか?」

 リリティアさんが格闘技をやるイメージはあまり湧かない。

 「精霊用の総合格闘術だ。打撃や投げ技、絞め技など何でもありだな。職務上、人間の居住地域に赴く場合があるからな。非常時の護身術として、精霊や神はみな、何らかの武術を習得している」

 「リリティアさんは武術の中でも、格闘術を選んだんですね」

 「ああ。小さくなることを考えて、武装しなくてもいい総合格闘術を選択した。衣服のように小型化できる武器もあるんだが、少々高価なのでな。私の給料では手が出なかった」

 「お金の問題ですか・・・確かに、大事ですよね」

 「ああ。この仕事について、初めてお金の大切さを痛感したな」

 人間と関わる必要があるから護身術が必要だというのは、人間としては複雑な心境だ。だけど自分自身、山賊の脅威がないことを安心しているくらいだ。神や精霊にとっても、無法者から身を守る必要があるのは当然だろう。

 「勿論、全ての人間が危険だというわけではない。だが、中には害を為す者もいるのでな。そういった者達から身を守る術は必要なんだ」

 「犯罪者から身を守るのは、当たり前のことですよ。俺の国は比較的治安がいい方なんですけど、それでも犯罪がないわけではありませんし。どんな世界のどんな場所で仕事をするのかわからない以上、自衛手段は絶対に必要ですよ」

 リリティアさんたちには、どうやら転勤がありそうだからなぁ。常に安全な世界で勤務、というわけにはいかないだろう。この森だって、110番で警察官が駆けつけてくれたりはしない。

 「ともかく、剣術について指導することはできないから、自力で覚えてもらうしかない。しかし、上達すれば、いざという時に役に立つこともあるだろう。鍛錬を積むことは、悪いことではないはずだ。だが、そろそろシャールの町へ向かう時間だ。剣を片付けて準備してこい」

 「わかりました。すぐ済むんでちょっと待ってて下さい」

 家に入って、長剣をウォークインクローゼットにしまった。タオルとエチケットセットを革袋に放り込んで家を出る。そういえば、この家に鍵をかけたことってなかったな。自衛手段が必要だとか言いながら、住んでいる家に鍵をかけないのは矛盾している気がする。でも、どうせ誰も来ないからいいだろう。来るとしたら、ユナさんくらいだ。ユナさんなら勝手に入ってきても、むしろ歓迎だ。

 「お待たせしました。では、行きましょうか」

 古い方の転移装置を使って、町の近くまで転移をする。ここからは町まで徒歩だ。人がいないことを確認して、マナを使って早歩きをする。全速力で走るのと同じくらいのスピードが出るので、人に見られるのは少々マズイ。リリティアさんが先行して周囲を確認しながら、町のすぐ近くまで歩いた。人目のあるここからは、マナを使わず普通に歩く。町へ着いたらすぐに猫目石に向かった。

 「今日も開いてませんね。どうしたんでしょうか」

 「この時間ならば開いていると思ったんだがな」

 開店時間は日が昇り切る前、つまり午前中というくらいの大雑把なやり方をリベルさんはしている。だから、正午に着くように計算して家を出ている。予定よりも少々早く着いたが、それでも開店しているはずの時間だ。

 「これだけ閉まっていると、ちょっと不安ですね」

 「そうだな。折り紙の件もある。会って話がしたい所だな」

 「じゃあ探すしかなさそうですね。店を閉めてる理由も気になりますし。折り紙はともかく、リベルさんには相談したいことが他にありますし」

 折り紙の件もそうだけど、一応押し花を店に置いてもらっている。それに可能ならばリベルさん監修の下、売れそうな商品を開発することも考えている。そういった話も、リベルさんと会えない限りは進まない。

 「そうか。ならばリベルを探すしかないようだな。大変だろうがよろしく頼む」

 こういうことはあまり表情に出さないリリティアさんだが、頬が少し緩んだように見えた。俺自身にもリベルさんに会う必要がある。そういう探す理由がないと動けないというのは、職務に忠実なリリティアさんらしいなと思った。

20.12.31 5つ前の話「神の門活用法⑤」を部分的に修正しました。記憶違いにより矛盾した内容になっておりました。

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