十三日目・リベルさんを探せ②
新型転移装置の子機を持って、ユナさんの泉とホージュの木の果樹林まで行ってきた。泉ではユナさんを呼んでみたけど応答がなかった。ひょっとしたら家の方にいるのかもと思ったが、敢えて探すことはしなかった。転移装置の話は、出会った時でいいだろう。女神の家と泉を往復して、タル2つ分の水を汲んだ。
果樹林では適度に広い場所で子機を起動した。帰りは転移で一瞬だ。これで水汲みとホージュの実の採集が楽になった。
水汲みが楽になったので、お風呂のお湯も毎日入れ替えてもいいかもしれない。今までは数日に一度替えるだけだったから、替えた日以外はどうしてもきれいなお湯ではなかった。何度も入浴したからというだけでなく、木の葉や土埃などがどうしても入ってしまうためだ。これからは毎日透明なお湯に浸かることができるだろう。
そんなことを考えながらリビングに入ると、リリティアさんがソファに座っていた。
「お帰り。ご苦労だったな」
「ただいま戻りました。リベルさんの店が開くまでにまだ時間がありますもんね。砂糖がないからジャムやコンポートも作れませんし、山菜取りに行く時間まではないですね。確かにやることというか、やれることがあまりなさそうですね」
「そうだな。・・・おっと、一つ言い忘れていたことがあった。子機はちゃんと固定してきたか?」
「あっ、やってません。すっかり忘れてましたね。カタログには書いてあったのに、あまり気にしてませんでした」
子機はこぶしほどの大きさしかない。きちんと固定しておかないと、移動してしまう恐れがある。そのため、固定するための道具が用意されている。しかし、そのことをすっかり忘れていた。新型転移装置が完成してから考えればいいと思って、先延ばしにしておいたのがいけなかったのだろう。
「今からやってきます。固定するのはペグでいいですかね」
「ああ、それでいいと思うぞ。町へ行くまではまだ時間がある。今から固定して帰ってきても、まだ時間的には余裕があるだろう。終わったら自由にしていていいぞ。出発する時間には呼んでやるから」
「はい。では、行ってきます」
神の門を用いて、急いで魔法陣を作る。作成する製品は、ペグ5本セットだ。3本余るが、5本セットが最小単位になっている。
小型の金槌とペグを持って、泉へと走る。
数歩走って止まり、ゆっくりと引き返す。転移装置があるんだから、それを使えばいい。それに、まだ慌てるような時間じゃない。のんびりやってもまだ時間は余るだろう。
親機を操作して、泉まで転移する。転移して数秒後、子機が待機モードに戻る。それを確認してから、ペグで固定する。ペグを子機の穴に通して、金槌で地面に打ち付ける。ペグなんて生まれて初めて使ったかもしれない。テントの設営なんてやったことはなかったからだ。漫画で主人公たちがテントを建てているのを読んで、名前くらいは辛うじて知っていた程度だった。
何度か引っ張ってみて、ペグが容易に抜けないことを確認する。よし、これでいいか。次は果樹林の方だな。
泉の子機→親機、親機→果樹林の子機と転移を繰り返して、果樹林へとたどり着いた。子機同士の転移ができないから、こういう移動は少々手間だな。それと、固定した子機を起動させるのに、しゃがみこんで操作しなければいけない。疲れてる時や荷物が多い時は、少々億劫に感じそうだ。
果樹林の子機もペグで固定して、女神の家まで帰ってきた。
さて、これでひとまずやることは終わったな。後は出発の時間まで、自由にしていいと言われている。特にすることもないから、この時間を利用して剣の素振りをすることにしよう。
ウォークインクローゼットから長剣を取り出すと、家の外に出た。適当に構えて、まっすぐ縦に振る。
「うっ・・・やっぱり重い」
持っているだけでも重いと感じていた長剣だ。実際に振ってみると、やはり重さに自分が振り回された。そもそも、剣道を体育で数回やった程度の素人剣法だ。まともに振れるわけがない。
それでも、練習しないよりはマシだろう。新型転移装置が完成した以上、今後は家から離れた場所、つまりヌシの縄張りの外に赴くことが多くなるはずだ。先日のクマのように、猛獣に出会う可能性もあるだろう。その時、身を守れる手段が必要だ。最低でも、リリティアさんと自分が生きて帰れるようにしなければならない。この重いだけで切れ味が悪そうな長剣に、二人の生命を託すのは不安だが、頼れるものはこれしかない。少しでもこの長剣を上手に扱えるようにしないとダメだ。
「だから、まずはきちんと面が打てるようになろう」
体育の記憶を頭の片隅から引っ張り出して、面打ちの練習を続ける。本当は指導者がいればいいのだが、剣道の先生なんてこの場にはいない。自力で色々やってみるしかないだろう。
素振りに慣れてきたら、マナの力も連動させて長剣を振ってみる。
「よし、今までよりはずっとマシになった」
腕のフリとマナの力を連動させる、そのことに意識して素振りを繰り返す。
こうして俺は、リリティアさんが呼びに来るまで、剣の素振りを続けた。




