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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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十二日目・神の門活用法④

 「もう日が暮れてきちゃいましたね。夜になる前に完成するといいんですが、いけますかね」

 「そうだな、少し急ぐとするか。まあ、必要量のプラチナさえ手に入れば、残りの仕事は明日に回してしまってもいいが」

 間伐したホージュの木から、マナを吸収した。リリティアさんは、マナポイントはおそらくこれで十分だろうと言っていた。作成予定の電子機器にプラチナが思ったよりも含まれていない可能性もあるが、と前置きはされたが、ほぼ大丈夫だろうということだった。

 「あ、伐採したホージュの木はどうしましょう?持って帰るのは難しいですし」

 「適当に置いておけばいいだろう。転移装置を完成させてから、小屋に運びこめばいい」

 そうだった。転移装置をここまで持ってきて、家まで運んでしまえばいい。転移装置を使えば、この距離だって一瞬だ。

 「それでは、家に戻って転移装置を完成させるとしようか。忘れ物をするなよ」

 少し急ぐの言葉通り、帰りはかなりの早足だった。かなりのペースで進んでいくリリティアさんを、ホージュの実が入った背負い籠を木々にぶつけながら、頑張って後を追った。途中、リリティアさんが振り返って、こちらを見た。

 「急いでいるから仕方ないかもしれないが、あまり背負い籠をぶつけたり揺らしたりしないようにな」

 「あ、はい。わかりました、気を付けます」

 「中のホージュの実が衝撃で傷つくからな。傷ついたホージュの実はジャムにしてしまえばいいが、あまり多いと売り物がジャムばかりになってしまうからな。それと、果汁で汚れた背負い籠を洗う手間が増えるぞ」

 「そうですね。背負い籠をあまり汚すと後が大変ですね」

 そういうリリティアさんの背負い籠は、木々にぶつかったりせず、滑るように移動している。俺とリリティアさんでは、歩き方が違うのだろうか。すぐ後ろをついていっているので、歩くルートは同じのはずだが。

 しばらく、リリティアさんをよく見るとリリティアさんは、背負い籠や頭が上下に動いていないようだ。

 腰の高さと頭の高さを意識して、滑らかに移動する意識で歩く。歩く速度の加減は、マナを使う量で調整しているのかな。これは、今の俺にはうまくできないことだけど。俺ができるのは精々、弱中強の3つくらいだ。ひとまずは弱で推進力を出して、筋力でバランスを取ろう。

 これも木々を避けて進む練習になるな。森を正常に戻すまでは、木々の狭い間を歩いたり走ったりしなければならない。例えばクマに襲われた時に、木を避けられないために逃げ切れませんでした、とはなりたくない。まあクマに追いかけられたら、人間の足では敵わないとは言われるけど。でも、少しは可能性が上がるはずだ。この世界のクマはツキノワグマほど速くないかもしれないし。そういえば体幹を鍛えると重心が安定して、バランスが良くなると聞いたことがある。体幹トレーニングの詳しいやり方とかは知らないけど、うろ覚えの知識でやってみようか。それか、リリティアさんに聞いてみてもいいかもしれない。神様たちの世界の優れたトレーニングを、何か知ってるかもしれない。マナの使い方を覚えた時も、リリティアさんが考えたトレーニングですぐ効果が出たからな。

 背負い籠をぶつけないように、揺らさないように気を付けながら歩いていると、一つ気がついた。若干、リリティアさんの歩く速度が遅いような気がする。俺が背負い籠をぶつけずに済むように、スピードを調整してくれているんだろうか。お陰で今までよりも楽に、狭い木々の間を通り抜けることができている。

 「お、随分良くなってきたじゃないか。歩き方が今までよりもスマートだ」

 「ありがとうございます。まあ、リリティアさんには程遠いですが」

 「私とお前では年季が違うさ」

 年下に見えるリリティアさんだが、実年齢は相当上らしいからな。人間よりも遥かに寿命が長いらしい精霊に、継続年数の話をされるとどうしても敵わない。

 「それと、私は身長が低いからな。マナの使い方も体の使い方も、工夫しないと体格差が埋められないんだ。努力して平均以上にはできるようになったが、そこまでだな」

 「でも、リリティアさんは頭も良いですから。色々なことを知ってるし、頭の回転も早いなっていつも思ってますよ」

 「知識に関しても同じだ。いや、こちらの方がより力を入れて頑張ったんだがな。様々な分野の学問を学び、広範な知識をつけようとした。かなり努力したつもりだったが、天才には敵わないな」

 運動でも頭脳でも、俺はリリティアさんに勝てる気がしない。そんなリリティアさんが、努力しても敵わないと感じるような天才か。どれだけ凄いんだろうか。

 「でも、天才と張り合おうっていうリリティアさんは凄いなと思いますよ。俺なんかクラスの優等生にすら、試験で勝とうなんて思いませんでしたから」

 「それは、お前が勉強をしようとしていなかっただけではないのか?」

 「それは・・・まあその通りですね」

 「だが、慰めようとしてくれた気持ちは受け取っておこう」

 「いえ、そんなつもりで言ったわけではないんですが」

 そういうつもりが全くないわけでもないけれど、天才に勝とうと努力するというのは尊敬するのも事実だ。

 「お礼というわけではないが、歩きやすくなる方法を一つ教えてやろう」

 そう言ってリリティアさんは、俺の目の前で屈みこんだ。

 ホージュの実の酸っぱい香りの中に、かすかにシャンプーの甘い香りがする。そして左脇、次いで右脇が締め付けられる感じがした。

 「ベルトをもっとこうやって、キツく締めるんだ。そうすると背負い籠が揺れないから歩きやすい」

 「え・・・あ、はい。ありがとうございます」

 見上げるリリティアさんに、戸惑いながら返事をした。

 これは・・・反則だと思う。

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