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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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十二日目・神の門活用法③

 果実を収穫した後は、ホージュの木の間伐作業だ。間伐材によって更にマナを獲得するためだが、理由はもう一つある。密生によって栄養不足に陥っていることが、ホージュの実の味が落ちている原因だからだ。本来はもっと果汁が多く、甘酸っぱい味がするらしい。きちんと管理して育てられたホージュの実を、俺は食べたことがないからわからない。他所のホージュの実を食べた時はもっと美味しかったと、リリティアさんがそう言っていた。

 「しかし、一本の木に生っている果実だけでも、結構な量がありますね。いくつかはそのまま食べるにしても、調理するのが大変そうだ」

 「確かに手間ではあるな。だが、転移装置を作りながら貨幣を稼ぎ、更に間伐で森の健常化につながる。効率は悪くないはずだ」

 「来年のホージュの実も、美味しくなりますしね。でも、砂糖足りますかね?明日町で買い足したほうがいいかもしれません」

 間伐対象として切り落とすホージュの木にも、大量の果実が生っている。それを全て収穫して、ジャムやコンポートにする。この行為に色々な目的があるとは言っても、面倒そうではある。とはいえ、自動で調理してくれる機械はない。神様たちの世界にはあるのかもしれないが、今すぐ俺の手に入らないのだから、あってもなくても同じことだ。

 「そうだな。この量のホージュの実を、ジャムとコンポートにする程の量はないだろうな。今日は砂糖がある分だけ作って、明日シャールの町で購入しよう。リベルに会うために明日も町へ行くから、そのついでだな」

 「そろそろ会えるといいですね。折り紙の売上はともかく、これだけ店が閉まってるのは気になりますし」

 「これまでは転移装置を優先してたからな。探してでも会おうとはしなかった。しかし、お前の言う通り、何日も店を開けていないことは気にかかる。もし、明日も猫目石が閉まっているようなら、本当に何か問題が起こっているのかもしれない。その時はリベルを探して、できれば直接話を聞きたい」

 「そうですね。俺たちが協力できることがあれば、力になることもできますから」

 「そう言ってくれると助かる。お前の仕事ではないから、無用な手間をかけることになってすまないが」

 「したいからするってだけですよ。それに、折り紙の件の話をするなら、なんとかして会う必要はありますし。そういう意味では、仕事の範疇かもしれませんね」

 正直なところ、折り紙の売上についてはあまり気にしていない。ジャムやコンポートが今まで通りの値段で売れれば、当面の生活に必要な資金は問題ないだろう。それくらいの量のホージュの実を、今日だけで収穫している。大金が手に入ると聞いてワクワクする気持ちもあるが、たかが折り紙にそんなに値がつくのかという思いもある。

 それよりも、リベルさんが何らかのトラブルに巻き込まれていないか心配だ。それを明らかにして、リリティアさんの不安も解消できれば、それが一番だと思う。

 「さっき探すって言ってましたけど、家は知らないんですか?」

 「さすがに住んでいる所までは知らないな。私が猫目石にいる時に話すだけで、外で会ったりはしていないからな」

 リリティアさんとリベルさんは、友達なんだろうと思っていたけど、ちょっと違うのかな?馴染みの客と店主という程度なのかもしれない。でもまあ、友達同士でも家を知らないなんて、それほど珍しいことではないか。俺だって、地元の友人たちはともかく、高校や大学の友人は家を知らないやつの方が多い。

 「じゃあ、何かリベルさんを探すアテとかはあるんですか?」

 「いや、ないな。住民に聞いて回るしかないだろう」

 「それじゃあ、あの広さの町を手当たり次第に歩き回るってことですか・・・?」

 大都市というわけではないが、それでも一つの町だ。さすがに、アテもなく彷徨って人を一人見つけようなんて、正気の沙汰ではないんじゃないか。

 「そうなってしまうかもしれない。だが、一応、大まかな目処はついている」

 「どの辺りに住んでいるのかはわかってるんですね?」

 「おそらく、猫目石近くの住宅地だ。以前、リベルが家にある物を取ってくると言って、店を出たことがある。その時の店に戻ってくるまでの時間を考えると、それほど猫目石からは離れていないだろう」

 「リリティアさんを店に残して、店主が出ていったんですか」

 「気に入った猫の置物があるから、見せたかったんだそうだ。確かにあれは、ひょうきんなポーズで可愛かった」

 リベルさんが気に入ったものを、リリティアさんも可愛いと言っている。二人は趣味が合うのかな。一体、どんな置物なんだろう。

 「可愛かった、というと買わなかったんですか?」

 「非売品だから売れないと言われた」

 客を残して店から離れる。個人の店では考えられないこともないけど、よほど信用できる相手じゃないとしないよな。それに、その目的が気に入った置物を見せたいだけで、売るために見せたわけではない。リベルさんも、リリティアさんのことはただの客とは思っていないということかな。

 「さて、明日のことよりも、目の前の作業に集中しよう。転移装置の作成まで、あと僅かだからな。折角だから今日中に完成させてしまおう」

 「そうですね。ここまで運にも助けられて順調に来ましたからね。今日中に転移装置を完成させましょう」

 リベルさんのことは気になるが、トラブルに巻き込まれていると決まったわけじゃない。たまたま商談などの都合で、俺たちが行った時に開いていなかっただけかもしれない。単に休業日だっただけかもしれない。明日、猫目石が開いていればただの杞憂だ。

 曲がりくねったホージュの木との格闘を続け、間伐作業が終了する時にはもう、日が暮れ始めていた。

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