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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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十一日目・プラチナを求めて②

 女神の家を出た俺とリリティアさんは、以前ゼンミーを採った小川を越えて更に西へと進んだ。鬱蒼とした森の中を背負い籠を担いで走ることにも、もう随分と慣れてきた。

 とはいえ、前を行くリリティアさんとは移動速度に大きな開きがある。なので時折立ち止まって、俺が追いついてくるのを待ってくれている。その間にもリリティアさんは山菜やキノコを探していて、見つけては自分の背負い籠に放り込んでいる。

 「後ろから見ると、背負い籠が走ってるように見えるんだよなぁ」

 俺と同じ背負い籠を、リリティアさんも使っている。小柄なリリティアさんの姿はほとんど背負い籠に隠れてしまっていて、背負い籠が自分で走っているように見えてしまうのがシュールだ。

 走っていると、小川に行き当たった。俺は地図を出して、小川を手早く書き込んだ。その間にリリティアさんは山菜を探し始めている。

 「お、よし。見つけた」

 リリティアさんが採取したゼンミーを、背負い籠の中に放り込む。採っては放り込み、採っては放り込みと、次々と背負い籠の中に入れていく。全て採ることはせず、いくつかのゼンミーは手を付けずに残してある。

 「沢山生えてますね」

 「ああ。わざわざここまで来た甲斐があったな」

 「リリティアさんの狙い通り、川がありましたしね」

 「北の山脈から南へと流れる川が、何本もあるだろうことは想像できていたからな。西に進めばいずれは川に行き着くだろうと思っていた」

 地図を見ると、北には東西に伸びる山脈がある。現在地からちょうど真北が、山脈の東端だ。森の南側にも1つだけ山があるが、これは女神の家から南南西にある。

 「地図の西の方にあるこの川が、この森最大の川だ」

 山脈の真ん中やや西寄りから川が始まっていて、南は海まで続いている大きな川が地図に描かれている。この大きな川は大きな蛇行がなく、ほぼ一直線に森を分断していた。

 「この川以外は、衛星カメラの映像では確認できなかった。降雨量から考えれば川が一本だけとは考えにくい。だから、細い川が何本も流れているんじゃないかと思っていたんだ」

 衛星で真上から撮った映像に映らないということは、周囲の木々に隠れてしまうほどの広さしかないということだ。小さい川がいくつも流れているならば、水辺に生えるゼンミーもこの森に沢山自生している可能性が高そうだ。

 広い川がないというのは、俺にとっても都合がいい。川幅が広かったり、水深が深かったりすると、簡単には渡れない。家の周囲に、飛び越えられないくらい広い川はないというのはありがたい。

 「降雨量、という言葉で思い出したんですが、そういえば俺が来てからまだ雨が降ったことってありませんね」

 この世界に来て10日以上経つが、雨が降ったという記憶がない。

 「家の付近は、もうしばらく快晴が続く予報だ。一応、天候も考慮して時期を決定している。食料が乏しい時に悪天候で採集に向かえない、などということが起こらないようにな」

 俺を転移させるのに、天候まで考えてくれていたのか。俺に断られたら、それまでの苦労が水の泡になってしまうのに。

 それから俺たちは、この小川の下流に向かって山菜を探すことにした。上流ではなく下流であることに、大した意味はない。初めて山菜取りをした時は手前の川を遡ったので、今回は流れに沿って降ろうというだけだ。

 こうしてしばらく、山菜取りをした。成果は上々だ。ゼンミーを含め、多くの山菜やキノコが手に入った。リリティアさんの背負い籠には、もう半分以上は山菜やキノコが入っていた。俺の背負い籠も、半分とはいかないが3分の1以上は入っている。

 「いやー、よく採れましたね」

 「そうだな。山菜やキノコが大量に自生している所のようだな」

 「量もそうですけど、種類もいっぱいありますね。キノコにしても、山菜にしても初めて見るものも結構ありますし」

 「少し足を伸ばした甲斐があったな。私も初めて見たキノコがいくつかあった」

 「山菜も例えば・・・これなんかは今まででは見たことないですし」

 ヤツデの葉っぱに似た植物だ。食べられそうだったから採ってみた。

 「それは初めて山菜取りをした時にも採っただろう。葉だけではなく、根も美味しいんだが」

 「・・・ほ、他にはこんなのとか」

 ブロッコリーに似た植物だ。

 「それは・・・猛毒だな。食べたら加護があるお前でもおそらく死ぬぞ?」

 「・・・・・・捨てます」

 「この世界の人々にも、死を招く植物として恐れられている。『死に草』や『一日草』など様々な呼び方がある」

 色々な呼び方はあるものの、決まった名称はないようなので「ブッコロリ」と命名した。

 「気を取り直して、山菜取りを続けましょうか」

 「そうだな・・・いや、待て」

 「え?どうかしました?」

 「静かに。あれを見ろ」

 リリティアさんが指を指した先を見ると、1頭のクマがいた。遠くてよくわからないが、体長は2メートル以上はありそうだ。

 「ヌシの縄張りの外だからな。大型生物がいてもおかしくはない」

 「どうしましょう?」

 「幸い見つかってはいないようだからな。そっとこの場を離れよう」

 俺たちは静かにクマとは反対方向へと歩いた。クマが見えなくなるまで、正直生きた心地がしなかった。

 「見つからずに済んだみたいですね」

 「ああ。見つからなくてよかった。だが、こういうこともあるからな。お前だけで外へ出る時は防具を身に着けて、常に注意を怠らないようにしろよ」

 剣や胸当ても、ないよりはマシか。今度からはちゃんと持って出るようにしよう。

 その後、山菜取りを続ける気力もなかったので、家に引き返すことにした。

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