十一日目・プラチナを求めて①
「うーん、今日もリベルさんに会えませんでしたね」
「そうだな。2度行って開いていなかったからな。今日は閉店なのかもしれないな」
「定休日ですかね」
「いや、定休日はないと言っていた。聞いたのは1年ほど前のことだから、ひょっとしたら今は定休日があるのかもしれないが」
早朝からシャールの町へ行き、昨日採集したものを売り鉄鉱石を買った。その後猫目石に寄ったが、開いていなかった。その後、シャールの町の定食屋で昼食にした。帰りにもう一度猫目石を訪れたのだが、その時も店は開いていなかった。
「話は変わりますが、お昼に食べた定食は美味しかったですね。肉と野菜の炒めもの、味付けはシンプルでしたけど肉が柔らかかったですし」
数種類の野菜と肉を一口大に切って、塩とハーブで味付けされたものが主菜だった。それとパンにスープ、ピクルスのような漬物が付いて銅貨8枚だ。
「悪くなかったな。おそらくツチホリドリの肉を使っているんだろうが、パサつかせず柔らかく蒸し上がっていた。あの店の料理人は、高い技術を持っているようだな」
「ツチホリドリ?」
「膝くらいの大きさの飛ばない鳥で、土中の虫を掘り出して食べる。畑の害虫を駆除する益鳥だが、食用にもされている」
「土を掘るからツチホリドリ、そのままですね」
「繁殖が容易だから盛んに利用されているが、脂身が少なく肉質は硬い。だからミンチにしたり薄切りにするのが一般的だ。あの厚さで柔らかさを保つのは、プロの技だな」
今日の昼食は、ジュース屋のおばさんに聞いた店で食べた。うまくてリーズナブルな店はないかと尋ねたところ、この定食屋を教えてもらった。いい店を教えてもらったので、おばちゃんには今度お礼を言っておこう。
「では、そろそろ買ってきた鉄鉱石を分離しますか」
「そうだな。昼休憩も終わる時間だ」
家に入る前に、鉄鉱石を作業小屋に運び入れておいた。そのまま分離作業までやってしまおうと思ったのだが、リリティアさんから昼休憩後にするよう言われてその通りにした。
こうして、昼休憩はいつも通りの時間休んだ。昼食を済ませてあるのでもっと短くてもいいと思ったのだが、休み時間はきちんと取るべきだと言われた。
作業小屋で鉄鉱石の分離を行う。結果としては、今回も大勝利と言える結果だった。
「またプラチナが入ってました!運がいい!」
「おお、また出たのか。意外と鉄鉱石に含まれてるものなんだな。よし、量が足りるか、計算しよう」
リリティアさんが専用端末を見ながら、今ある量と比べてくれている。神々の世界の単位の表現が独特なので、リリティアさんに丸投げすることにした。金属元素分離装置に表示されている単位と、専用端末に表示されている単位が異なるので、どう読めばいいのかわからないのだ。
「うーん、残念だが少しばかり足りないようだ」
「これでもまだ足りませんか」
「ああ。9割方集まっているが、ほんの少し足りない」
足りないのであれば仕方ない。神の門に向かって、まけてくれと言っても無駄だ。今日のところは諦めて、また明日鉄鉱石を買いに行こう。2日連続で出たんだ。後少しなら行けるんじゃないだろうか。
ということで、昨日に引き続き山菜取りに行くことにした。ホージュの実は昨日多めに採っているので、今日は必要ないだろう。
「今回は西に向かおうと思う」
山菜取りの準備をしていると、リリティアさんがそう言った。
「西・・・シャールの町と反対方向ですね。そういえば今までそっちには行っていませんでしたね」
「この家の周囲では何度か採っているからな、採りすぎるのもよくないだろう。移動速度も上がったことだから、少し遠くまで足を伸ばしてみようと思ってな」
初めて山菜取りをした時は西に進み、小川に沿って北上した。今回は小川を越えて、更に西に進むということだろう。
「それにしても、何故西なんですか?」
東はシャールの町に向かう方向だから除くとしても、北や南でもいいはずだ。
「大した理由ではないんだがな。強いて言えば、この家から東側及び南側は、北側や西側に比べて木々の量が少ない。キノコや山菜を採るなら、北側や西側の方が期待できるだろう」
「なるほど。でも、北ではなくて西なんですね」
「北は数日前に走り回ったからな。それに洞窟も、ここから北東に進んだ所にある。折角なら、未踏のエリアを探索した方がいいと思ってな」
ああ、特訓で追い掛けっこをした時か。ついて行くのに必死で、どこをどう走っているのかなんて全くわかってなかったな。リリティアさんはあのスピードで走りながら、位置や周囲の情報をきちんと把握していたのか。
「それと・・・これは完全に私の都合でしかないんだが・・・西側に進むと、川がある可能性が高そうなんだ」
川があることが、リリティアさんにとって都合がいいのか。
どういうことだろう?えっと、確か・・・ああ、リリティアさんはゼンミーって山菜が好きだって言ってたっけ。ゼンミーは暗く湿った場所に生育する。つまり水辺で草木に隠れるように生えている山菜ということだ。
「わかりました。それなら川沿いを中心に探索しましょう。それで、町で売るのは他の山菜ということで」
俺がそう言うと、リリティアさんは少し恥ずかしそうに笑っていた。