十日目・転移装置を作るために
「リベルさんの店、開いてなくて残念でしたね」
「商談や私用で店を開けないこともあると言っていたからな。午後なら開いていたかもしれないから、待ってみてもよかったが」
「そこまで急ぐことでもないでしょう。行った時に開いていればその時でいいですよ」
「お前はピンときてないようだが、金貨2枚はそれなりに大金だぞ?」
「マナポイントで大抵のものが買えるとわかったので、この世界のお金はそれほど必要ないかなって」
シャールの町でジャムとコンポートを売り、食材と鉄鉱石を買った。その後に猫目石を訪れたのだが、開店していなかった。折り紙の件についてリベルさんに話を聞きたかったのだが、会うことが叶わずに帰ってきた。リリティアさんの言う通り、昼過ぎまで待ってもよかったかもしれない。でも、食材と鉄鉱石が重かったので、早く家に帰りたかったのだから仕方ない。
帰って昼食を済ませて、今は昼休みをしているところだ。今日やることは、鉄鉱石を分離すること、間伐をしてマナポイントを貯めることくらいだ。森の守護者の仕事は、それほど時間に追われないのがいいところだ。
「話は変わりますが、角を飾る場所、やっぱりここがいいですよね」
「ああ、そこでいいんじゃないか。わざわざ飾る必要があるとは思わないが」
昨日、兄鹿が落とした角だ。折角だから飾っておこうと思い、暖炉の上に置いた。ソファに座った時に、ちょうど目が行くところだ。初めてできた鹿の友達の角なので、目立つところがいいだろう・・・友達と言っていいのかわからないけど。
「よし、そろそろ鉄鉱石を分離しますか。プラチナ、あるといいな」
「昼休憩は終わりだな。プラチナはそうそうないとは思うが、他に良い方法がないからな」
リリティアさんの言う通りだ。洞窟でプラチナが見つからなかった以上、鉄鉱石の不純物として少量でも混ざっていることを期待するのが最善だ。ユナさんが見つけてくれた洞窟もあるが、地上とつながっていないらしい。地上から掘り進めて侵入するのは、必要なものが確実に手に入るとわかってからだろう。
女神の家を出て、金属元素分離測定器がある倉庫に入る。この倉庫はこれと毒を測定する名前がちょっとアレな器具しかないが、それだけでもかなりのスペースを取っている。作業用倉庫にするつもりだったが、この2つだけで限界かもしれない。次作る時はもっと広いやつを作ろう。
鉄鉱石を金属元素分離測定器に入れて、スイッチオン。
「さて、何が出てくるかな。昨日タングステンが出てきたんだから、俺は今ツイてるはずだ」
「その理屈はわからんが・・・しかし、何故あれほどの高純度のタングステンがあったのか、それがわからないな」
「その話ですか。確かにあの部分だけにタングステンがあって、洞窟内の他の場所では全く見つからなかったのは不思議ですね」
これに関しては、リリティアさんはずっと考えているようだった。あったんだからいいじゃんと思っていたが、確かに不思議ではある。数十センチほどの範囲に集中して存在していて、鉱床という感じではなかった。
「とても自然に発生したとは思いにくくてな。誰かが、何かを埋めた跡なのかもしれないが・・・」
「リリティアさんがわからないとなると・・・以前の神や精霊の方がやったんですかね」
「そうかも知れないな。何らかの必要があってこの森に来て、使えなくなったものを廃棄していったのかもしれない」
「森に入る理由となると・・・木々の異常繁茂やドリアードの件に関わってるんですかね」
「どうだろうな。いつ廃棄されたかがわからないから、何とも言えない」
もし、ドリアードが関わっているのであれば、洞窟の付近にドリアードがいる可能性がある。そうでなくとも、何らかの関係がある場所なら、洞窟の再調査も必要だろう。
そんな話をしていると、鉄鉱石の分離が終わったようだ。さて、結果はどうだろうか。
「えっと・・・今回の鉄鉱石は鉄が少ないですね。38%だそうです。まあ、不純物目当てなんでむしろラッキーなくらいですが」
「鉄もまだまだ足りていないぞ?転移装置は子機を作るのにも多くの鉄が必要だからな」
リリティアさんの言う通りではある。ゆくゆくは子機を量産して、転移ポイントを網の目状に作り上げたいと思っている。それは遠い将来の目標ではあるが、数機の子機を作るだけでも今の量では足りていない。つまり、まだまだ沢山の鉄が必要ということだ。
「スズ、鉛、ニッケル・・・・・・プラチナ」
プラチナ?
「プラチナ!リリティアさん!ありましたよ!ちょこっとですが、確かに!」
「お、本当にプラチナが混ざっているな。お前の謎理論はともかく、運がいいな」
「よし、これで転移装置が作れますね!」
「いや、無理だ」
「よし、じゃあ早速魔法陣を・・・え?」
・・・無理なの?
「確かにプラチナは含まれているようだが、必要量に足りていないようだ。よく見てみろ」
ディスプレイに表示されている、含有量を見る。確かに、必要量の半分程度しかない。
「あ・・・これじゃ足りませんね。なんだ・・・そっか」
「まあ落ち込むな。むしろ、半分も集まったんだ」
「そうかもしれませんが・・・期待しただけにショックが大きいです」
ただの自分の早とちりなのはわかっているけど、そう頭で理解しても折れた心は立ち直れない。
「うーん、では、今日はこれからホージュの実と山菜の採集をしよう。それらを明日売って、また鉄鉱石を買うといい。リベルから折り紙の代金を受け取れば、その分もいくらか回してもいい」
「そうですね。とりあえず金策をしましょうか。転移装置に限らずお金はあった方がいいですし」
こうして、本日の午後は採集に費やした。そして、明日また鉄鉱石ガチャを回そう。