女神アイリアは見つけられない
7の月3日 オストーン地区第3転送装置より転移。オストーン西部の視察を開始。草原地帯は気候が穏やかで心地良い。人間との遭遇はなし。
7の月4日 引き続き草原地帯を視察。異状なし。
7の月5日 引き続き草原地帯の視察。現地を視察すると、数種類の植物が広い範囲に分布していることが直に確認できる。改めて現地視察の意義を実感。
7の月6日 続けて草原地帯を視察。歩行補助装置にわずかな異常が見られたため、夜間にメンテナンスを行う。
7の月7日 草原地帯視察。視察を開始して、初めて人間と遭遇。20人ほどの隊商の一団だ。森林辺縁と首都周辺を往来していて、今はシャールの町を出発して首都へと向かっているとのこと。彼らから重要な情報をもらう。森林に山賊が住み着き、近隣の村や町を襲っているそうだ。森林内の出来事は衛星カメラでは把握できないことを痛感。現地での情報収集の必要性を再認識。
7の月8日 森林辺縁地域に入る。この辺りは村々が点在している。村への視察も行いたいが、理由もなく村へ入ると警戒されてしまうだろう。遠くから眺めるに留め、望遠カメラによる撮影にて視察の代わりとする。この地域は点在する村々を巡回する行商人が一定数存在する。彼らに簡易テントが発見されないよう、今後は簡易テントに偽装を施す。
7の月9日 引き続き村々の写真撮影を行う。撮影した画像は後で整理してまとめる予定。
7の月10日 歩行補助装置に再度の異常発生。左膝の稼働に問題があるため、修理を行う。歩行補助装置が使えないため、本日の視察は中止する。写真の整理と、他の道具類の手入れを行う。
7の月11日 歩行補助装置が正常に作動することを確認。視察を再開する。森林辺縁地域中央部最大の町、シャールの町に到着。この町は旅人が珍しくないので、私も旅行者を装う。コロームの街で織物問屋を営んでいた隠居老人、そういう設定にした。残りわずかな携帯食料の節約と、担当区域の人間への理解を深めるという2つの理由で、町の飲食店及び酒場で食事を摂った。ここでも山賊の話が出た。どうやら、この町の近くに山賊の砦があるらしい。この町の宿にて宿泊。
7の月12日 森林地区第1転送装置にて帰還。
・・・これは360年前の日報ですね。当時担当者だったコームさんが、オストーン西部を視察した時のもののようです。彼は一度だけお会いしたことがありますが、優しいおじいちゃんという印象でした。人間と関わることに積極的で、そのために総合職から専従職に移った珍しい方です。視察や協力を繰り返し行っていたらしく、伝説上の存在として、人間の文書にも書かれているようです。
出世や昇進の可能性を捨てた彼を冷ややかな目で見る者もいますが、私はいいと思いますね。働く目的は個々に違ってて当然ですから。
しかし、この日報には時代を感じますね。草原地帯に森林辺縁地域ですか。中央の草原地帯に町がほとんどなかった頃の呼び方ですね。今では大きな町がいくつもできたため、中央部と西部に名称変更されています。森林の中の転送装置も、この頃は今とは名称が違ってますね。当初は複数の転送装置を作る予定だったそうですが、現在では新設計画は破棄されています。その際に、現在使用しているものを森林地区転送装置に名称が変更されました。確か、そんな経緯だったはずです。引き継ぎの時に、そう教わりました。
7の月20日 森林地区第1転送装置より転移。本日より担当区域への視察を再開する。辺縁地域北部最大の町であるペシーへと向かう予定だったが、中止して森林内の視察に変更する。山賊に対する情報収集を行い、この問題を解決する方策を考えるためである。
7の月21日 続けて森林内を視察。人間探知レーダーと歩行補助装置のお陰で広範囲を探索できている。正午過ぎに3人の若い男性を発見。石斧や木の棒で武装していることと服装から、山賊だと思われる。殺気立った様子で、付近を捜索している。捜索対象は旅人のようだ。物陰に隠れて監視していたが、しばらくして引き上げていった。少し離れたところで、4人の若い男女を発見。首都に住むシャンシー教の教徒だった。危険なため首都へ引き返すよう説得。シャールの町まで同行する予定。
7の月22日 シャールの町への道中、山賊の一団を確認したため引き返す。
7の月23日 山賊たちはこの4人をまだ追っているようだ。大量の食料を担いでるためと思われるが、かなり執拗だ。このままでは危険なため、隠れられる洞窟を用意し入り口にカムフラージュを施す。ひかる君は光量は十分だが大きすぎるため、小型化の要望を提出。岩盤用穿孔ドリルは廃棄基準値まで摩耗したため、現場にて分解廃棄。
備品一時持ち出し:ひかる君 3個、携帯用浄化装置 1個、分解装置 1個、岩盤用穿孔ドリル 一個、光学迷彩シート2−2 1個
持ち出し備品返却:分解装置 1個
備品廃棄:岩盤用穿孔ドリル 1個 廃棄事由:摩耗廃棄
・・・コームさんは真面目ですね。備品の使用状況まで日報に記載するなんて。本来はそうした方がいいんでしょうけど、備品管理簿に記入するので、みな日報までは書かないんですよね。私もそれでリリに怒られました。
それにしても、山賊がいた時もあったんですね。いなくなってからこの地区を担当することになったのは、運が良かったのかもしれません。まあ、シーヴェストの方にはいるのですが。
おっと、昔の日報を読んでる場合ではありませんね。ドリアードに関する日報は最近のもののはずですから、このファイルではないでしょう。ですが、森に関する日報が出てきたので、この近くにあるかもしれません。