表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
125/188

九日目・洞窟⑥

 洞窟探索を終えて、女神の家まで戻ってきた。兄妹子鹿がなぜか帰り道もついてきた。地質測定器ver.5を運んでくれたので、俺としては助かった。採取した鉱石だけでも大変だったからだ。

 兄妹子鹿は、家や小屋を興味深そうに眺めていた。だから、小屋や小屋にあるものを簡単に説明した。人間に対して興味があるらしいので、あまり一般的なものではないという説明をした。神々の技術で作ったものを、この世界の一般的な人間の建築物だと勘違いしてしまうのはよくない。特に女神の家が普通だと思ってしまうのは、大きな誤解を招くだろう。

 聞いたところ、ユナさんの家の存在には気づいていなかったらしい。お願いして見せてもらおうかなと言っていた。

 「ありがとう、今日は助かった」

 「何か俺たちにできることがあれば手伝うから、困ったことがあったら遠慮なく言ってよ」

 「わかった、ありがとー」

 「困ったことがなくても、ただ遊びに来るだけでもいいからな」

 リリティアさんはそう言うと、兄鹿のひたいを撫でた。いいなぁ、俺が撫でたら怒られるかな?

 「・・・・・・」

 妹鹿が無言で、俺の方へと頭を突き出してきた。これは撫でていいということだろうか。

 目を合わせて、そっとひたいを撫でる。妹鹿は黙ったまま、目を細めている。

 その表情を喜んでいるものとして、撫で続ける。ひたいから頭の後ろ、首筋、あご、鼻先まで優しく撫でる。妹鹿の表情は、心なしかうっとりしているように見えた。

 鹿に触るなんてそうそうあることではないので、とても新鮮だった。小学生の頃、修学旅行で奈良に行った時くらいなものだ。

 「よかったねー。お前はお兄ちゃんのことが気になってたもんねー」

 兄鹿が、リリティアさんに撫でられながら言った。

 「泉で最初に見てから、ずっと話してみたいって言ってたもんね」

 「・・・・・・」

 「泉で最初に見たって?いつのこと?」

 今日が初対面だったはずだけど。

 「8日前に、一度見かけたんだー。その後泉が大きくなってたから、あの人間のお兄ちゃんがやってくれたのかなって」

 確かに、初日に鹿を見かけた。あれがこの兄妹子鹿だったのか。

 「それでさー妹の方がすっごい興奮しちゃって。あのお兄ちゃんがやってくれたに違いない!あの人間はすごい!って」

 「・・・・・め」

 「ウンディーネのお姉ちゃんにその通りだって聞いて、会ってお話がしたい!お礼がしたい!って。それで洞窟の話を聞いたから、張り切ってたのは妹の方だったんだよ。言い出したのも妹だしねー。よかったねーお兄ちゃんに会えて」

 「・・・いっちゃだめ!」

 兄鹿が思いっきり吹っ飛んだ。数メートルは離れてたはずだけど、気づいた時には兄鹿を蹴り飛ばしていた。妹鹿を撫でていたはずの俺の右手は、虚しく空を切っていた。

 「もーいたいなー。本気で蹴ることないじゃんかー」

 派手に1回転した兄鹿だったが、怪我などは特にしてないようだ。

 「妹ちゃん、お兄ちゃんの言ってることって本当?」

 「お前がそれを聞くのか・・・」

 ひとりごちるリリティアさんを無視して妹鹿の方を見ると、顔を逸らしながらも首を縦に振っていた。ずっとしゃべらずに、ただ兄鹿の後をついていただけだったから全く気づかなかった。兄に振り回されているだけの妹、そんな感じで見ていた。

 「そうだったんだ。改めてだけど、洞窟教えてくれた上についてきてくれてありがとう。お陰で作りたかったものが作れそうだよ。それとちょっと前からだけど、この家に住んでいるから、これからよろしくね」

 ひたいを軽く撫でると、妹鹿は顔に鼻先をこすりつけてきた。親愛の情、ってことでいいんだろうか。

 「そうだ、お父さんによろしく言っておいてくれるか?お父さんの縄張りの中に突然家を建てて、私達が住み始めてしまったからな」

 「わかったー。突然家ができてたから、父ちゃんも母ちゃんもびっくりしてたんだよー。後からウンディーネのお姉ちゃんに話を聞いて、父ちゃんは納得してたみたいだけど」

 ヌシの縄張りの中に住んでいるわけだから、言付けてもらっておくのは大切だろう。人間と鹿とはいえ、隣人付き合いは大事だ。

 「うーん、グラグラするなー」

 「ん?どうしたの?」

 「妹に蹴られてから、角がグラグラするんだよー。前からグラグラしてたんだけど、もっとグラグラするようになってさー」

 「丁度角の生え替わりの時期なんだろう。ずっと痒がっていたからな」

 「我慢できなくなると、お姉ちゃんに掻いてもらってたんだー。お姉ちゃんありがとねー」

 リリティアさんはひたいを撫でていたのではなく、掻いてあげていたのか。

 「グラグラしてうっとうしいー」

 兄鹿が頭を振り回した。何度も何度も振り回していると、角が木の幹に当たった。

 「あ」

 その衝撃で、角がひたいから取れて地面に落ちた。

 「ふーさっぱりしたー」

 兄鹿は軽くなった頭を振って、楽しそうにしている。角が生えていたところが真っ赤になっていて痛々しいのに、兄鹿自身は全く気になっていないようだ。

 「大丈夫なの?見た感じ痛そうなんだけど」

 「全然痛くはないよー。それに、角が取れるのはこれから大きくなる証拠だって、母ちゃんが言ってたから」

 「なるほど。まあ、お兄ちゃんが痛くないならいいんだけど」

 人間で例えるなら、乳歯が抜けたみたいなものなのかな?角が取れるところを実際に見るのは初めてだ。動物番組でなら見たことがあったけど。

 「じゃあそろそろ僕たちは帰ろうかなー。あまり遅くなると父ちゃんが怒るからさー。お兄ちゃん、お姉ちゃん、今日はありがとねー。バイバーイ」

 言い終わるが早いか、兄鹿は走っていってしまった。残された妹鹿の方は、一度きちんとお辞儀をした。そして小さな声でバイバイと言って、兄鹿の後を追っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ