九日目・洞窟⑤
リリティアさんが岩壁の地質測定を続けている。洞窟の最深部から始めて、今は8畳くらいに広くなっているところまで戻ってきた。ずっとほぼ一定の広さだった洞窟が、ここだけ広がっているのが不思議だ。
「うーん、なかなか見つからないですね」
疲れてきたので、地質測定器ver.5を地面に下ろして座り込んだ。ケーブルの長さが結構あるので、地面に置いても測定作業はできるだろう。
「プラチナやタングステンは、そうそう見つかるもんじゃない。そもそも、この洞窟に存在しないかもしれない」
「そうですね。1つでも見つかるといいんですけど」
探せば絶対に見つかる、そんなわけないもんな。なかったら仕方ないから他の方法を考えよう。前みたいに鉄鉱石を大量に買い込むとか。資金は折り紙の売上金を充てればいいだろう。リベルさんが言った通りの値段で売れればだけど。
「測定器を地面に置くのなら、ひかる君を持っててくれ。片手で照らしながら操作するのは大変なんだ」
そう言われて、持っていたひかる君3号を点灯した。
すると、リリティアさんは自分が持っていたひかる君3号を手渡してきた。
「あれ?なんか形が変わってますね」
懐中電灯のような形をしていたひかる君3号が、ランタンのような形に変わっていた。
「ああ、用途に合わせて形を変えられるようになっているんだ。そういえば、これは教えていなかったな。ここをこうやって引っ張ると・・・この通り照射範囲を変えることができる」
俺が持っているひかる君3号で、実際にやって見せてくれた。こんな機構がついているなんて、2回使ったけど気づかなかったな。可変型懐中電灯か・・・いいじゃん。
両手にひかる君3号があるので、リリティアさんの左右から岩壁を照らすことにした。影ができにくくなるから、作業がしやすいはずだ。
しばらくそうして、リリティアさんの作業を後ろから眺めた。動作に合わせて、真紅のポニーテイルが揺れる。シャツとホットパンツ、ニーソックスという格好をしている。朝は黒い服装をしていたのだが、洞窟に向かう前に着替えていた。
そして、俺はリリティアさんの後ろで座っている状態である。
つまり、ひかる君3号に照らされた絶対領域を、見放題の位置にいるということだ。当然狙っていたわけではない。偶然たまたま見やすい位置にいるのだ。
更に、少し視線を上に上げると、ホットパンツに包まれた臀部がある。小ぶりだが引き締まったヒップライン。これを眺められるのは、ここまで重い機材を運んできた役得というものだろう。リリティアさんにバレないように目に焼き付けよう。
少し場所を移動して測定、また移動して測定、これを何度か繰り返した。
「お、あった。硫化水銀だ」
「てことは、水銀が取れますね!やった!」
「・・・よし、大丈夫だな。岩盤の構造も確認したが、切り取っても問題なさそうだ」
近くに地下水脈があったり、脆くて崩壊の可能性があれば、地質測定器が教えてくれる。この機能がなければ、迂闊に地下で鉱石採取なんてできなかっただろう。
「では、早速やってくれ」
そう言われて、ジーパンに括り付けておいた「石を切る意志」を取り出した。使い方は燃えろノコギリとそれほど変わらない。
岩盤に当ててみると、簡単に切り進めていけた。まるでバターを切るように、とはこういうことを言うんだろう。そう思うほどにスパッと切れた。まあ、冷蔵庫で冷たくなったバターは簡単には切れないんだけど。関係のない話だが、あれはたぶん常温のバターのことなんだろう。
「うわーすごーい」
後ろで兄鹿が感心したように言った。地質測定中は退屈になったのか妹鹿と遊んでいたのだが、異変に気づいて様子を見に来たようだ。兄鹿に並んで、妹鹿も興味深そうにこちらをみている。
「あ、俺がすごいんじゃなくて、この道具がすごいだけね」
一応、兄妹子鹿にそう言ったのだが、聞いているだろうか。
リリティアさんの指示に従って、岩盤を切り進めていく。硫化水銀、つまり辰砂がある場所をピンポイントで切り取る。
「持ち帰って分離機にかけよう。これだけあれば、転移装置に必要な量の水銀が取れるだろう」
「やりましたね。これで、難関が1つ達成ですね」
「そうだな。目標に一歩近づいたのは間違いない」
「わーよくわかんないけど、とにかくおめでとー」
兄妹子鹿も祝ってくれている。理解はしてないようだが、その気持ちが嬉しい。
気分も上々に更に地質測定を続ける。絶対領域?お尻?それよりも鉱物探索だ。
そして、難関がもう1つ、解決された。広間を半周ほどしたところで、タングステンが発見されたのだ。
「結構な量のタングステンがある。それも、かなり純度が高い」
「ラッキーじゃないですか!これで、後はプラチナだけですね!」
初めての洞窟探索で、必要な鉱物が2つも見つかった。素晴らしい結果だ。地質も大丈夫だということだから、早速切り出して収集した。
その後入り口まで地質調査を行ったが、新しい発見はなかった。
必須鉱物2つの発見という大きな成果を挙げ、洞窟探索は終了した。




