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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
122/188

九日目・洞窟④

 「ここだよー」

 角がある方の鹿が、そう言って立ち止まった。休憩してから、10分くらい経っただろうか。

 「あれ?着いたの?洞窟っぽいものは見えないけど」

 パッと見た感じ、それらしいものは見当たらなかった。周りを見渡しても、木々が密生して草花が地面を埋め尽くしている。1つ特徴があるとすれば、前の方が上り勾配になっていることくらいだ。

 「この坂をちょっと登ったくらいのところにー・・・ほら、ここだよー」

 鹿が角で背の高い草をかき分けると、上り坂の途中に穴が空いていた。

 「お、確かに穴が空いてるね。これが洞窟なの?」

 「そうだよー。入り口は狭いし暗いから、中がどうなってるのかわかんないんだけど。あ、でも、結構深そうだから!」

 そう言いながら、木の幹に角をこすりつけている。角についた土汚れを落としているのかな。結構きれい好きなのかもしれない。

 「では、洞窟に入る準備をするので、お前たちはちょっと待っていてくれるか?機材の組み立てなどに少し時間がほしいんだ」

 「わかったー。じゃあ僕たちはご飯食べてるねー」

 背負ってもらっていた機材を下ろすと、2頭の子鹿は思い思いに草を頬張り始めた。角がある方の鹿は、草の種類などを気にせずむしゃむしゃと。角がない方の鹿は、草を選り分けて食べていた。食べ方にも個性が出るのは、人間と同じようだ。

 「そういや、君たちはきょうだい?」

 「そうだよー。僕が兄でこっちが妹ー」

 今まで聞いていなかった、2頭の関係について聞いてみた。すると、角がある方が兄で、角がない方が妹だという答えが返ってきた。これについては予想通りだった。

 「雌には角が生えないから、角があれば雄だ。だが、稀に角がない雄もいる。折れて欠損している場合や、生え替わる最中である場合だな」

 角が生え替わるのか。そこは地球の鹿と同じようだ。

 兄妹子鹿が草を食べている間に、俺たちも食事にすることにした。なけなしのポイントで急遽交換した、2食分の携帯食料だ。のんびり昼食を用意する時間がなかったので、食品カテゴリーの中から手軽そうなものを選んだ。これを2人で1食分ずつ食べる。見た目は漫画で見るようなレーションで、栄養バランスの良さが売りらしい。交換した時に、人間にも効果があるのかリリティアさんに確認したが、問題ないとのことだった。神も精霊も人間も、必要な栄養素はそれほど違いがないとのことだった。

 携帯食料を素早く食べ終えると、機材の組み立てに移る。今回持ってきたのは3種類だ。

 1つ目は、懐中電灯の「ひかる君3号」だ。暗い洞窟での探索ということで、これは必須の装備だ。

 2つ目は、硬い岩石や鉱石を切断する「石を切る意志」だ。形状はナイフのようで、大きさもサバイバルナイフ程度なので持ち運びに便利だ。

 この道具について、リリティアさんは名前の意味がわからないと言っていた。意志がなければ切れないわけではないし、そもそも道具に意志が宿るわけがないという反応だった。石と意志をかけたダジャレにしか思えないけれど、実際はどうなんだろうか。神様たちの言語では同じ発音じゃないだろうし。名前を付けた神様に会えたら、どうしてこの名前にしたのか聞いてみたい。そう思った道具は他にもいくつかあるけど。ひかる君3号とか。

 最後の3つ目は、先の2つとは違って名前が普通だ。「地質測定器ver.5」という名前を聞いて、安堵半分不安半分だった。不安半分は、ver.5におもしろ要素があるのかもしれないと疑ってしまったからだ。しかし、ただ単に改良を重ねてバージョンアップしたからだった。

 名前の通り、地表や岩壁の構造や含有物を調べるものだ。4回もの改良を受けた道具だけあって、性能はかなり高いらしい。広範囲の地質を一度に調べることが可能で、表面だけでなく奥深くまで効果が及ぶ。調べた時に地盤の強度もわかるので、掘削可能かどうかも調べられるらしい。

 「それにしても、かなり重たいですね・・・」

 「3回目のバージョンアップで、小型化されたんだがな。それでようやく、携帯できる程度の大きさになった。それまでは、目的地までの輸送も大変だったらしい」

 合計で30kgくらいあるんじゃないだろうか。いくつかのパーツに分かれていて、子鹿たちに待ってもらったのも、これの組み立てに時間がかかりそうだったからだった。

 「しかし、全部背負って大丈夫なのか?半分私が持ってもいいんだぞ?」

 「これくらいなら行けますよ。リリティアさんには適宜指示を出してもらう必要がありますから、身軽な方がいいでしょう」

 最初リリティアさんは、分解して持ち運び、使いたい場所で組み立てようと言っていた。しかし、一人で持てそうだったので、俺は組み立ててから洞窟に運び入れたいと主張した。昨日覚えたマナの使い方を実践で活かすいい機会だと思ったのと、洞窟内で組み立てと分解を都度行うことが不安だったからだ。そもそも暗い洞窟内での組み立て作業なんて、難しそうなことはしたくなかった。

 「よし、これで完成だな。起動確認は・・・よし、作動するな」

 その辺の地面を適当に調べてみて、稼働するかの確認をした。これで、無事全ての準備が終了した。

 「それじゃ、兄妹子鹿たちを呼んできますね」

 草むらに座っている妹鹿と、木の幹に角を擦りつけている兄鹿に声をかけて、洞窟前に集まってもらった。

 さて、いよいよ洞窟探検だ。

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