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森林開拓日誌  作者: tanuki
森を守るお仕事
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一日目・食料を採集しよう⑧

 リリティアさんに言われて、革袋から大きめのバールを取り出した。大きさは大体7,80cmほどだ。

 これも、先ほどのノコギリのように特別な力があるのだろうか。

 「これで木を抜くんですか?根が張っているんで普通には引き抜けないですよ?」

 普通木を除去する時は、シャベルで周辺の土を掘って根っこを切り落とす。そうして少しずつ分解してから幹を引き抜くものだ。

 「こんな状況だとは思っていなかったから、シャベルなどを持ってきてはいないんだ。本来ならば地面を掘って根を出したいところだが、そうもいかん。このバールで少しずつ根を探り当てて断ち切っていくのがいいだろう。バールで叩き割らなければいけないのが少々面倒だろうがな」

 「ノコギリで切ってはダメなんですか?」

 木の幹を瞬時に切断したあのノコギリを使えば楽だろうと思った。

 「あれはダメだ。なにしろ高温だからな、あんなものを水の中で使ったら一瞬で水が蒸発するぞ」

 「熱が出ないようにするスイッチとかはないんですか?」

 「ん?そんなものはない」

 高熱を発生させるのに、オンオフの切り替えができないらしい。意外と不便な道具だった。

 家の備品としてシャベルは置いてあったが、取りに帰って再度ここへ来るのは手間だろう。

 「そのバールも同じ神が作った特殊なものだ。説明には『使用者のマナを利用し、使用者の力を増幅し作業をサポート。更に本製品の強度も強化することでどんな重い物にも硬い物にも使用することが可能にした新製品だ。使用者のマナ次第で発揮できる力は天井知らず!』とあるな。ちなみにこの道具の正式名称は『バールのようなもの』だ」

 「バールのようなもの・・・」

 事件に使われそうな名称だった。バールのような形状をしているがバールとは特定できない何か、みたいな。

 「ところで、その、マナっていうのは何なんですか?」

 ゲームなどでよく見かける名称だ。こういう名称を耳にすると、ここが異世界なのだと実感する。

 ところで、使用者とはこの場合俺のことを指すのだろう。ということは、俺の中にもマナというものがあるのだろうか。

 「マナとは万物に含まれる不活性化エネルギーのことだ。普段は不活性状態で安定している。バールのようなものをはじめ、先ほどのノコギリもそうだが神が作った多くの道具は、このマナを活性化して使用する」

 「俺の中にもマナがあるんですか?」

 「そうだ。マナは消費すればなくなるが、食べ物などから摂取することができる。先ほどのホージュの実もそうだ。生育不良だったことを考えれば内包量は期待できないが、多少はマナを含んでいたはずだな」

 「使用することでなくなって、体内では作り出すことができない。だから食事で摂る必要があるということですか」

 「そういうことだ。まあ、厳密に言えば食事以外にもマナを吸収できる方法はいくつかあるのだが、希少な鉱石や特殊な技術が必要であったりと、困難な方法ばかりだから説明は省こう。マナは食事から摂るもの、と考えていい。それと、マナの吸収効率と貯蔵可能量は個人差がある。だがお前はアイリアから加護を受けているので、常人よりも多くのマナを体内に吸収・貯蔵することができるはずだ」

 「加護ですか?そんなもの受けた記憶は・・・」

 「いや、加護はきちんと与えられている。覚えていないか?神が対象者に直接触れて、祝福の言葉を唱えることで加護が発生する。アイリアがきちんと手順通りにやっていれば、だが」

 「ああ、あの時ですね」

 そういえば手を握られた時、アイリアさんは何かつぶやいていたような気がする。あれが祝福の言葉というものだったのだろう。・・・あの細く柔らかい手の感触が思い出される。

 「思い出したようだな。神の加護による恩恵はいくつもあるが、最大の効果は神が作った道具の力を引き出すことができることだ。加護を受けていなければノコギリも地図も使用できなかったはずだ」

 「力を引き出すというのは、他の人でもただのノコギリや地図としては使えるけれど熱を出したり地図に書き込みをしたりはできない、ということですか?」

 「そういうことだ。高熱を発生しないあれはただの切れ味の悪いノコギリに過ぎないだろうな」

 特殊な権限を与えられたと思ってもいいのだろうか。ただの管理人ではない特殊な立場になったと思えるのは少し優越感がある。

 「マナの吸収率・貯蔵量の上昇に関してはあくまで、いくつもある恩恵の一つだな。・・・ところで、話が広がりすぎたが理解できているか?バールの説明から加護の話にまで至ってしまったが」

 そう言われて、バールのようなものの話からの一連の説明を思い出してみる。

 「ええと、全ての物がマナというものを持っていて、それを利用することで高熱を出したり力を増幅したりすることができる。消費したマナは食事によって補給できる。俺はアイリアさんから加護を受けているので、普通よりも沢山補給できる。森の守護者に任じられた俺にはこのバールを使うことができて、このバールは力を増幅する効果がある。こんな感じですか?」

 「お、おお。一度の説明でそれだけ理解したのなら上出来だ。何度も説明する手間がなくて助かるな」

 覚えたことは合っていたようだ。褒められるのは悪い気がしない。

 何度説明しても理解しない奴は、ホントに何度言っても理解しないし覚えないからなぁ。すぐに咀嚼して理解してくれる人の教育担当は楽だった。・・・まあ教える側が悪い場合もあるけど。

 リリティアさんも教育担当として苦労したことがあったのだろうか。

 「わかりやすく教えていただいたおかげですよ。本当にわからないことばかりで・・・ご迷惑をおかけしてます」

 「そんなことは気にするな。お前はまだこちらに来たばかりだからわからなくて当然だ。一つひとつ覚えていってくれればいい。知らないことがあり次第、都度都度教えていくからな」

 優しい言葉をかけてくれたリリティアさんの顔は、少し嬉しそうだった。

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