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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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女神アイリアの特訓

 『横着するな!足を使え!体勢が崩れたら次が避けられないぞ!』

 『もう・・・無理・・・あいたっ!」

 『ほらほらどうした!足が止まってるぞ!』

 『だから・・・いたっ・・・限界ですってば~』

 『話せるほどの余裕があるということだな!』

 『なんで・・・あうっ・・・そうなるんですかーっ!』

 『おお、まだまだ元気じゃないか。この調子でどんどんいくぞ!』


 リリの特訓・・・あれは辛かったな。マナの使い方が上手じゃなかった私に、リリが訓練してやると言ってきたのが地獄の始まりでした。そこから5日間、倒れては休憩して特訓を再開しては倒れるの繰り返し。あれほど大変な思いをしたことは、これまで生きてきた中で一度もありません。


 『体とマナの力、両方を同時に使え!どちらかに頼りすぎると、すぐに保たなくなるぞ!』

 『速い速い痛いっ!昨日はこんなに速く投げなかったじゃないですか!』

 『少しずつ難易度が上がるのは、当たり前だろう?昨日より今日、今日より明日。ステップアップしなくてどうする』

 『どうもしませんって・・・うぐっ』


 特訓内容は、ひたすらボールを避けるだけでしたね。柔らかいボールを使ったので、怪我をする心配はないですが・・・。それでも結構なスピードで投げるので、痛かった。日を追うごとに速度が上がっていったので、特訓が進むにつれて当たった時の痛みもひどくなっていきました。特訓が終わった後も、しばらく体に痣が残りましたし。見習いとはいえ女神なんですから、リリももっと私の体に気を使うべきだったと今でも思います。突発的に面会をする必要ができたらどうするつもりだったんでしょうか。他の神や精霊なら笑い話で済みますが、それはそれで恥ずかしいので嫌ですが、人間や妖精に会うことになったらと思うと恐ろしいです。神々しさと美しさを兼ね備えてこそ、女神としての説得力が出ます。痣だらけのやつれ切った女が女神を自称しても、信憑性は皆無でしょう。特訓を終えた後の私を一目見て、先輩は休暇を与えてくれたので助かりましたが。


 『リリティアの特訓は終わったそうだな?』

 『はい、リリティアさんは今日までで終わりだと言っていました。明日からは通常業務に戻るようにと』

 『そうか・・・それにしてもボロボロだな。見えるだけでも痣だらけで、膝が震えているぞ』

 『ええ。大変でした・・・』

 『うむ、ならば明日から3日間は休暇にしてやろう。ゆっくり休んで、体とマナをきっちり回復させるように』

 『え?でも、業務の方はいいんですか?』

 『新米女神一人いなくても仕事は回る。いや、俺が長期間いなくても滞ることはないだろう。そういう体制を整えたからな。お前も独り立ちしたら、多少の欠員が出ても問題が起こらないような状態を作ることが大事だからな』


 先輩以外とは誰にも会わなかったことが幸運でしたね。痣だらけの姿を見られたら、笑われるか心配されるか、どちらにしても面倒でした。特に、あの精霊トリオに会っていたら、しばらく馬鹿にされていたでしょう。3日間の休暇のお陰で、痣もすっかりなくなりましたし、元気で業務に戻ることができました。

 あの時言われたことは、まだ達成できてはいませんね。今はリリが抜けたら仕事が回りません。森に派遣した今も、何度か別の地域の相談をしていますし。先輩からの教えを、早く実現できるようにしたいものです。

 守さんの日報のお陰で、色々なことを思い出しますね。まあ、大半は思い出したくもない辛い記憶ですが・・・。それでも、きちんと全文に目を通しましょう。と言っても、今回のはいつもより短めですね。いつもこれくらいでいいのですが。

 「最初、このトレーニングに何の意味があるのかわからなかった。肉体を酷使することで、マナを使えるようになるとは思えなかったからだ。だから、効果については半信半疑だった。しかし、このトレーニングの結果、マナの使い方を体得することができた」

 リリの特訓は、肉体的にも追い込みますからね。こんなことでマナの使い方を覚えられるのかと、不安になっても仕方ありません。私の場合は、それよりもマナの使い方を習熟する必要性でしたね。確か、特訓を始めて3日目のことだったと思います。


 『寝るな!まだヘバるほどやっていないだろ!』

 『もう辛いです!ずっとボールをぶつけられ続けて痛いんですよ!』

 『マナの活用法を覚えるためには、必要で仕方のないことだろう』

 『大体、私がここまでして、マナの使い方を覚える必要があるんですか?実務上、全く必要ないと思いますが』

 『そうか、そうだな。確かに、神という仕事においては、実際に使う必要はないかもしれない』

 『だったら、こんなことは止めにしましょうよ。意味のないことをやっても仕方ないでしょう』

 『いや、意味がないわけじゃない。マナを上手に使うことができれば、生活の中でも様々な場面で役に立つ。熟達すれば、いつかはお前のためになる日がくるだろう』

 『その内私生活で役立つから、特訓をしているんですか?』

 『職務外でも有益だという話だ。確かに、神の仕事は管理業務だから、マナの使い方を覚える必要はない。現場に出向くこともある、我々精霊ならば必須技能だがな』

 『そうなんですか。それなら・・・』

 『しかし、精霊や外部協力者の上司になる以上、基礎くらいは覚えていた方がいいだろう。それに、状況によっては、神自身が担当区域に出向く時もある。過去に何度かそういった例もあるからな。その際には、最低でも自己防衛ができるだけの身体能力は必要だ。そのためには、マナの使い方を習熟するのが一番手っ取り早い。さて、理由に納得したなら訓練を再開するぞ』


 仕事にもプライベートにも役立つと言われたら、それ以上拒否できませんでした。守さんも、特訓の意義がわからない内は色々と思う所があったでしょうね。

 「リリティアさんはトレーニング中、ずっと一緒に同じメニューをやってくれていた。しかし、汗1つかいていなかった」

 リリは守さんの特訓にも、きちんと最後まで付き合ったようですね。私の時も、最後までリリ一人でボールを投げつけ続けていました。ボールを飛ばす機械くらいは、手続きをすれば借りてこれたはずですが、それはしませんでした。それだけ律儀に真剣に指導するから、特訓を受ける側としても手を抜いたりできません。そういう真摯で真面目な所は、リリのいい所だと思います。私の特訓には、もっと怠惰でも良かったんですけどね。

 でも、よく考えてみると、リリと親しくなったのはあの特訓がきっかけだったかもしれませんね。特訓を終えた時奇妙な連帯感が芽生えて、それ以降は仕事でもうまくコミュニケーションを取ることができるようになりました。業務外でリリと会うようになったのは、それからしばらく経ってからでしたね。

 今回の特訓で、リリと守さんの距離が縮まってくれるといいですね。同じ職場で働くわけですから、できることなら良好な関係を築いてほしいものです。

2021.3.14 「妖精トリオ」→「精霊トリオ」に訂正。打ち間違えておりました。

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