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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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八日目・特訓⑥

 「体の調子はどうだ?筋肉の張りも随分なくなったと思うが」

 「はい。マッサージのおかげでかなり楽になりました。昼食前よりもずっと体が軽いです」

 リリティアさんのマッサージは、とても心地良かった。強すぎず弱すぎずの適度な力加減で、疲れ切った体をほぐしてくれた。

 「マッサージをどこかで勉強してたんですか?」

 「いや、特に習ったりはしたことはないな」

 「そうなんですか?とても上手でしたよ。それこそ、プロとしてやれるくらいでした」

 働いていた頃、何度かマッサージを受けたことがある。資格を持ったプロのマッサージ士だったが、その人の施術と同じくらい気持ちよかった。

 「まあ小さい頃は、家族によくやっていたからな。マッサージ自体は慣れたものだ。この仕事に就いてからも、アイリアとお互いにマッサージし合ったりはしているしな」

 アイリアさんとリリティアさんが互いにマッサージ・・・リリティアさんがアイリアさんの体をなでたり揉んだりして、次は反対にアイリアさんがリリティアさんを・・・なんて素晴らしい空間なんだ。

 「何か変な目をしているようだが、何を考えているんだ?」

 「いえ、別に大したことじゃないです。それよりも、次はどんなトレーニングなんですか?」

 ごまかす時は話題を変える。そうすると大抵の場合、リリティアさんはそれ以上追及しないのだ。

 「もう少し休憩してからにしようかとも思っていたが、お前がやる気のようなら今から始めるとしようか」

 「いえ、もう少し休憩してからでいいですよ」

 ごまかすにしても、話題のチョイスを間違えたか。

 「いや、気持ちはトレーニング効率を高める重要な要素だからな。やる気のある時にやろうじゃないか。午後のトレーニング、最初のメニューは追いかけっこだ」

 「追いかけっこですか?」

 「ずっと単調なトレーニングだけでは面白くないだろう。知的で楽しめるメニューも必要だ」

 追いかけっこのどこが知的なトレーニングメニューなんだろうか。それにこの歳にもなって追いかけっこをして、果たして楽しいんだろうか。

 「ルールは簡単だ。私が逃げて、お前が捕まえる。私が森の中に逃げるから、木々を避けて走ることが重要だ。もし、捕まえることができたら、そこでトレーニングは終了だ」

 「始めてすぐに捕まえて、終わらせてしまっても構わないんですか?」

 「やれるものなら、な」

 そんなやり取りの後、準備運動をする。森の中という悪路を走るので、準備運動は念入りに行なった。リリティアさんも時間をかけてアップしているようだ。

 「それと念の為、地図を持っていくように。森の中ではぐれても、迷子にならないようにな」

 この歳で迷子の心配をされるとは思わなかった。だが、追いかけている最中に、現在地がわからなくなる可能性はある。邪魔にならないように、太ももに括り付けておく。

 準備運動を終えて、家を出た。

 「では、トレーニングの開始だ。先程も言ったように、私を捕まえられたら終わりだ」

 「もう始まってるんですか?」

 「ああ。もう捕まえに来ていいぞ」

 俺とリリティアさんは、3メートルほどの距離で向かい合っている。このまま飛びかかれば終わりではないだろうか。

 「甘い」

 そう思って飛びかかったのだが、するりと躱されてしまった。しかも、背後を取るという余裕まで見せられた。逃げるだけでいいはずなのに。

 振り返りながら、右手を出す。しかし、逆にその手をリリティアさんに掴まれてしまった。

 「補足説明が遅れたが、拘束して初めて『捕まえた』だ。触れただけでは終わりにはならない。ああ、さすがに小さい姿・・・お前の言う人形モードにはならないので安心しろ」

 そう言うと掴んだ手を離し、リリティアさんは森の中へと走っていった。

 森の中に入っていくリリティアさんを見て、1つの問題に気づいた。鬱蒼とした森の中では、リリティアさんを見失いやすい。女神の家の周囲半径10メートルほどは整地されているし、家の近くはこれまでにある程度伐採した。しかし、数十メートルも離れれば、木々が林立して視界が悪い。一度見失ってしまえば、再度見つけることは困難だろう。そうなっては、鬼ごっこが隠れんぼになってしまう。

 そうならないように、急いで後を追った。

 森の中を走るのは、意外と難しかった。木々が密生しているこの森では、まっすぐ走ることはできない。木の幹を避けて走る必要があるが、時折避けきれずにぶつかってしまう。リリティアさんは5メートルほど先にいる。時折後ろに視線を向けて、俺の位置を確認している。

 追いかけっこを始めて5分ほど経った。しかし、未だに距離は縮まらない。リリティアさんとは、5メートルほどの距離がある。しかし、少しずつやり方がわかってきた。このトレーニングのコツは、木々を最小限の動きで避けつつ最短距離で追うことだ。そのためにどうコース取りをしてどう動けば最善か、考えながら走る必要がある。

 確かに、リリティアさんの言う通り、知的で楽しめるメニューだ。先の見通せない鬱蒼とした森の中で、瞬間的な判断が求められる。今までのトレーニングは単調な動作の繰り返しだったが、これはかなり頭も必要になってくる。同じ動きの繰り返しよりも、ずっと楽しいメニューだ。

 それと、捕まえる時はきちんと拘束しないといけないらしい。身動きでないように、ある程度羽交い締めにする必要があるということだろう。その際に抱きしめてしまったり、触れてはいけない部分に触れてしまっても、それは不可抗力で仕方のないことだろう。リリティアさん本人が言ったことだから、文句は言わないはずだ。

 そんなことを考えていたら、目の前の障害物を避けきれなかった。木の幹に思い切りぶつけてしまった。とても、痛かった。

 ・・・真面目にやろう。

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