一日目・食料を採集しよう⑦
「これか?」
「これです」
リリティアさんを水たまりの場所まで案内し、実際に見てもらった。
「確かに水はあるが・・・どれ」
水たまりに近づくと、リリティアさんはその短い手を水の中に突き入れた。
「水の流れがある。どうやら地下から水が湧き出してはいるようだな」
「では、これが泉なんでしょうか」
水深30cm、直径1mほどの大きさしかない。これを泉と言われても困る。リリティアさんのサイズなら問題ないのだろうが、人一人が生活するのにこれだけの水では到底足りないだろう。
「これだけでは足りませんよ」
「慌てるな。おそらくだが、この木が水が湧き出てくるのを妨げているんだろう。これを引き抜けば泉が元に戻るはずだ」
水たまりの真ん中にある一本の木。これが水の流れを遮っているのだろうか。
「さあ、引き抜くといい」
ちょっと待ってほしい。引き抜けと言われても、人間の力で抜けるようには到底見えなかった。
いや、そう見えるだけで頑張れば抜けるのかもしれない。リリティアさんは冗談を言う人ではなさそうだから、抜けというからには抜けるのだろう。人ではなく精霊、だけれども。
靴と靴下を脱いで水たまりに入った。水がひんやりとして心地良い。
「ふん!」
幹を抱きかかえるようにして持ち上げてみる。木は俺の腰回りほどの太さがある。
「うおお!」
びくともしなかった。どれだけ力を入れても木は全く動かない。
「お前は何をやっているんだ?」
大きな瞳を半目にして、リリティアさんはため息をついた。
引き抜けと言ったのは自分なのに、理不尽な先輩だと思う。
「冗談はそこまでにしてさっさとノコギリで切るといい」
「ノコギリ、ですか?」
「ん?ああそうか。アイリアから道具についての説明は何一つ受けていなかったんだな。地図の入っていた革袋にノコギリが一本入っているはずだ」
地図を取り出した時にノコギリのようなものがあったことを思い出した。革袋からノコギリを取り出し、鞘から外した。
「それは『燃えろ!ノコギリ』という守護者に与える道具の一つだ。これの説明文は確か・・・『樹木に反応して刃先が高熱を発する仕組みを採用。これにより樹木を焼き切りながら切断することが可能。今まで困難だった伐採作業もこれならあっという間だ!(注:刃先は危険ですので十分に注意してください。なお、触れられますと触れた部分が溶ける場合がございます)』と書いてあったはずだ」
またしてもキャッチーな説明だった。テレビショッピングのセリフかよ。
しかし、触れたら溶けるって一体どういうことだろう。
「とりあえずやってみるか」
試しにノコギリを木に当ててみた。
すると、刃先がオレンジ色に光り始めた。
そして、木の幹の刃先に触れている部分から煙が立った。
しばらく様子を見ていると、煙が立たなくなった。
試しにノコギリを軽く引いてみると、木の幹に簡単に刃が入っていった。
後は容易だった。ノコギリを押し引きせずとも軽く真横にノコギリを押し込むだけで、まるで大根を輪切りにするかのように木の幹を切断した。
切った木が傾き、つる草を引きちぎりながら倒れた。
「すごい・・・あの太さの木を一瞬で切り落とせるのか!」
「これは超高温まで刃先を熱することで、瞬時に触れた箇所を融解させて切断することができるんだ。・・・ノコギリである必要があったのかについては、はなはだ疑問だが」
触ると手が溶けるというのも納得だった。下手に触れると命に関わりそうな危険な道具だ。持っていることも少し怖い。
「でも、これを使えば襲ってくる動物がいても安心ですね。強力な武器になります」
「残念ながらそれは不可能だ。樹木に触れた時のみ熱を発する仕組みになっていて、伐採以外には使えないようになっている。それが安全装置であり、守護者が凶器として悪用しないための制限でもあるんだ」
武器には使えないようだ。確かに、こんなものを人に向けて振り回したら危険だから仕方ないか。
「さて、次の作業に移ろうか。革袋の中にバールがあるから取ってくれ。それで木の根っこを引き抜けば、いよいよ湧き出す水の量が増えて元の泉に戻るはずだ」