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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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七日目・完成、ユナハウス⑮

 柵を作る魔法陣を描き始めた。必要量と残っている木材の量を考えると、到底家を囲えるほどの量は作れそうになかった。しかし、リリティアさんの指示なので作れるだけ作る。「材料があるだけ作る」というマークがあったから、それを初めて使った。

 この森に来てからずっと神の門を使い続けて、魔法陣の法則も段々とわかってきた。同じものを複数個作る時には、共通のマークがある。「材料があるだけ作る」というマークもこの一種だ。色指定のマークも共通している。例えば緑色の椅子と緑色のテーブルの魔法陣には、左下に同じマークがある。この他、サイズ違いのセットにも一定の規則性がありそうだけれど、これはイマイチよくわからない。

 「家を囲うには足りなそうですけど、どうするんですか?」

 「足りない分はまた明日にでも作ればいい。そもそも、無理に作る必要があるわけでもない」

 「だったら、何故わざわざ柵を作ったんですか?」

 「・・・そろそろだと思ってな。とりあえず、魔法陣が描けているんだから起動してくれ」

 明確な答えが返ってこなかったが、言われた通りに魔法陣を起動させる。

 眩しい光の後に、10個程度の柵が姿を現した。横倒しにされて、きれいに平積みされている。真っ直ぐ縦に積まれている柵は、ちょっと異様な光景だ。反りがなく長さも完全に統一された柵を作ることも、それを寸分のズレもなく垂直に積み上げることも、どちらも容易ではないだろう。それを一瞬でやってのけるのは、相当の技術力が必要だろうと思う。もっとも、別にそこまでのクォリティは求めていないけど。柵自体が多少大きさが不揃いでも、反り返っていても、それが自然な味になるだろう。そもそも、魔法陣の中に入ってさえいれば、真っ直ぐきれいに積み上げる必要性は全くない。

 「作りましたけど・・・ん?なんだこれ」

 柵の陰に隠れて見えなかったけれど、一冊の本と封筒が一枚置いてあった。封筒は風で飛ばされないようにだろうか、本に挟まれていた。

 「やはり上がったようだな。その封筒に手紙が入っているから読んでみろ」

 リリティアさんに促されて封筒を開けると、中に紙が入っていた。

 「えっと・・・平素は神の門を利用いただきありがとうございます。使用ポイントが規定に達しましたので、お客様の会員グレードが2等級となりました。ご利用可能な製品等が増えましたので、詳しくは神の門使用ガイド(2等級)にてご確認下さい。今後ともご愛顧賜りますれば幸いです。ってありますね」

 「今日、家と家具を作ったからな。今までに使用した回数も合わせれば、そろそろグレードアップするんじゃないかと思っていたんだ」

 神の門にそんなシステムがあったとは知らなかった。説明書はページ数が多かったから、最初の方の説明は流し読んでいた。ひょっとしたら、そこに書いてあったのかもしれない。ちゃんと読んだのは、カタログページくらいだったからなぁ。写真付きで作れるものが紹介されていて、面白かった。

 「グレードアップと言われても、特に何か変わったような感じはしませんね。このマニュアル書と手紙以外は普段と同じです」

 「あくまでデータ上の変化だけだからな。神の門自体は何も変わらない。だが、置物はなくさないように、今以上に管理を徹底してくれ。折角グレードアップしたんだからな」

 「確か、置物で利用者を識別してるんでしたね」

 日本で言うところの、ICチップみたいなものが内蔵されているんだったっけ。

 「そうだ。ラインカーの部分は破損や紛失しても、魔法の粉さえあれば新しく作り直すことができる。しかし、この置物をなくしてしまったら大変なことになる。アイリアが資材管理課に申請して、新しい神の門を支給してもらう必要があるんだ。時間がかかるし、却下される可能性もある。申請が通って新しい神の門が納入されても、グレードは1等級からのスタートになってしまう」

 「それは大変ですね。備品を失くしたと申請してもらうのは、アイリアさんに申し訳ないですし。置物を失くさないように気をつけます」

 一応組織に属している以上、備品の管理はきちんとするのは当たり前だ。ただ、どんな組織なのかもよくわかっていないので、所属しているという感覚はかなり希薄だけれど。

 後、魔法の粉も別に保管しておいた方がいいかもしれない。倉庫で育てている分を少量どこか別の場所に分けておこう。

 「2等級になると、作れるものや利用方法が増える。神の門が今以上に便利になるだろう」

 「今でも十分便利だと思うんですが、更に作れるものが増えるというのは楽しみですね」

 後でマニュアルを読んで、何が作れるのか確認しておこう。

 「ユナ、無駄なことで時間を取らせて悪かったな。この道具がこれまでより便利になりそうだったから、足りないとわかってはいたが柵を作らせてもらった」

 「いえ、時間は問題ありませんよ。それよりも、その、グレードアップですか。おめでとうございます」

 「柵に関しては、明日にでもまた足りない分を作って完成させよう。だが、今日はもう終わりにして、これから夕食にしよう。この家はできたばかりだから食材がない。食べるのは我々の家でだな」

 ログハウスも無事完成したし、神の門もグレードアップした。今日はお祝いがてら、夕食を豪勢にしてもいいだろう。

 「それじゃあ家に戻りますか。ユナさんは何か食べたいものとかありますか?食材は前よりは揃っているので、ある程度のものは作れると思いますよ」

 「あの、では、今回もご馳走になります」

 「ああ、遠慮は不要だ。折角だから、今日もお風呂に入っていくといい」

 柵を積まれたままの状態で放置して、俺たちは家に向かって歩き出した。

 道中の話し合いで、俺たちが住んでいる家とログハウスを区別するために、呼び方を統一することになった。その結果、俺たちが住んでいる家を「女神の家」、ログハウスを「ユナの家」と呼ぶことにした。

 家の名前にユナさんの名前を入れたことで、ただのログハウス風住居が、ユナさんの住宅になった気がした。

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