七日目・完成、ユナハウス⑫
さて、いよいよログハウス作成の開始だ。木を間引く作業に時間を取られたため、日が傾き始めている。ちょっと急いだ方がいいのかな。今回のログハウスのような、設計変更が可能なものは少々複雑な魔法陣を作らなければならない。だから、小屋やハシゴに比べれば、魔法陣の作成に時間がかかる。
更地にするために作った食器棚を、一先ず邪魔にならないところへ移した。魔法陣の中に置いたままだと、起動した時に材料として光の中に消えてしまう。
まず、ログハウスよりも一回り大きく円を描く。この円のサイズがそのまま転移可能なサイズになるので、ログハウスがすっぽり入るだけの大きさにしなければいけない。そして、この円の中に四角形を描く。これはログハウスのサイズに忠実である必要はなく、おおよその目安でいい。
そして、玄関を示すマークを描く。このマークの向きがログハウスの向きを決定するので、慎重に行わなければならない。このマークの位置や向きに合わせて家が建つので、魔法陣のその他の部分は多少ズレていてもいいらしい。小屋の時は入り口がどこを向いていてもあまり問題なかったが、今回はユナさんが住む家だからいい加減にはしたくない。ユナさんの希望は、リビングの窓が泉の方を向くことだ。そうなるように計算して魔法陣を描く。もちろん、計算するのはリリティアさんで、俺は指示に従ってマークを描く。これは3回やり直した。木々が邪魔をして泉が見えないため、リリティアさんが上空で確認しながら微調整を行ったためだ。このままだとログハウスが完成しても泉が見えないけれど、大丈夫かな。
次はログハウスであることを示すマークだ。描く場所は、風呂やキッチンになる場所だ。
そして、リビングに関するマークを描く。リビングの変更点は窓を掃出し窓にするくらいだから、描くマークはそれぼど複雑ではない。
「変更できない場所に基本情報となるマークを描き、変更可能な場所には変更点を記すマークを描く。部分的な変更が可能なものの魔法陣は、大体そういう構造になっている」
リビングのマークを描いている最中に、リリティアさんがそう説明してくれた。変更可能なものって、家の他に何かあったかな。
最後に、玄関右手側の広いスペースだ。変更できる点が多いため、魔法陣の説明ページにも多くのマークが記載されている。カタログページの写真と説明ページを行ったり来たりして、描くべきマークを確認しながら作業を進める。
「神の門の説明書って紙媒体なんですよね。俺の世界だと、今は電子媒体に移行しててペーパレス化が進んでるんですけど、リリティアさんたちの世界ではずっと変わらず紙媒体なんですか?それとも、神の門だけが特別なんでしょうか」
写真をタップするだけで描くべきマークがポップアップされたりすると楽なのだが、あいにく紙ではそういうわけにはいかない。神の世界だけに、紙の世界なんだろうか。
「いや、今は基本的には紙による記録が一般的だ。ただ、昔は機械的な表示デバイスが普及していた。ごく短い期間だが、ほぼペーパレスな時期があったようだ」
「なんでまた、先祖返りみたいなことが起こったんですか?」
「電子媒体などは寿命が短くてな。数十年しか保存できないので、データの移し替えだけでも面倒になったようだ。長寿命化を目指す研究も行われているが、精々100年程度までにしかなっていない」
「100年保存できるだけでも、十分すごいですけどね」
日本のパソコンやスマホのデータはそんなに保たないだろう。もっとも、数年で高性能な次世代機が出るから、長寿命化を目指す必要がないんだろうけど。
「一方、紙の品質と保存技術には技術革新が起こって、1000年以上経っても、劣化しないようにすることが可能になった。その結果、紙による記録に逆戻りしたらしい。我々の日報や報告書も、後で印刷されて保管される」
「わざわざ保管しなくてもいいのに。そんな大した日報書いてないですよ」
「気持ちはわかるが、後でどんな情報が必要になるかわからないからな。一応保管しておくことにしているんだ。まあ、不要な日報や大したことが書かれていない報告書の中から、必要な情報を探し当てなければならないアイリアは大変なのは間違いないだろうが」
「ドリアードについての資料を探してもらってますもんね」
「ああ。今頃、データ保存にしろとか、保管する量を減らせとかボヤいているだろう。いや、ちょっとだけ整理して休憩しているかな。疲れた〜とか言って」
最後のはアイリアさんのマネなんだろうか。出会った時の印象は、そういうことを言いそうな感じじゃなかったけど。
「よし、これでいいかな」
話しながら作業を進め、魔法陣が完成した。リリティアさんにも、魔法陣が間違っていないかチェックしてもらう。作ってから違っていた、ではやり直しになってしまう。
リリティアさんによる最終確認が済んだので、魔法陣を起動させる。ここはユナさんにやってもらおう。