七日目・完成、ユナハウス⑪
リリティアさんが言うように、筋肉の動きに連動して起こる感覚を意識する。そうして10本ほど伐採した。
「やっぱりよくわからないな・・・」
「やはり、一日で習得するのは難しいようだな。まあ継続して練習していくしかないだろう」
「普通はどれくらいでできるようになるもんなんですか?」
「普通と言われてもな・・・存在を知らなかった人間がマナの扱い方を覚えたという話を、私は知らない。過去にあったのかもしれないが、調べたことがなかったな」
リリティアさんすら知らないのならば仕方ないか。
「じゃあリリティアさんはどうだったんですか?」
「私は物心ついた時には、既にできていた。我々にとっては、家族が使っているのを見て、自然に扱えるようになるものだ。お前の参考にはならないだろう」
親が話しているのを聞いて、自然に言葉を覚えていくようなものか。言語は、成長してから覚えようとすると、幼少期に覚えるよりも困難だという話だ。マナもそうでなければいいけど。
「これは余談だが、アイリアに指導した時はまともになるのに5日はかかったな。アイリアはマナの扱いが下手だった・・・いや、何をするにも不器用で鈍くさいから、及第点に到達するのに時間がかかっただけだろうが」
相変わらず、アイリアさんに対しては辛辣だなぁ。だが、元から扱えるアイリアさんが改善に5日もかかったのか。0からの俺はどれくらいかかるんだろうか。
「やっぱり、コツを掴めるようになるまで、何度も繰り返すしかないですかね。いい方法があるといいんですけど」
「コツか・・・ところで、ユナはどうだ?ユナもマナを使っていると思うんだが。例えば、水を操る時はどうやっている?」
リリティアさんがユナさんに尋ねた。確かにユナさんの水を自由自在に操る力も、俺の知らない超常的な力だ。
「そうですね、あまり意識したことがありませんでしたから・・・」
ユナさんの手のひらの上を、水球が踊っている。
「形と流れをイメージすること、でしょうか。無形の水に形と流れを与える、といったところでしょうか」
手のひらの水球が7つに分裂した。分裂した水球が、針のように細いものや三角錐など、様々な形に変わった。俺とリリティアさんが、思わず感嘆の声をあげた。
「わたくしには、リリティアさんがマナと呼ぶものがどんなものなのかはわかりません。当たり前のように水を操っていても、それがどんな力によるものなのかなど、考えたこともありませんでしたから。何か助言をしてあげられたら良いのですが、特に思いつきません」
「いえ、気にしないでください。どういう力が働いているのかなんて、普通は気にしないですよね」
普段使っているものがどういう原理で動いているのかなんて、俺だって気にしたことはない。例えば、自動車がガソリンで動くくらいの知識はあるが、エンジンの構造やその力をどうやってタイヤに伝えているのか、そんなことは考えたことがない。そういう機械に疎い俺には、どうせ理解できないだろうけど。
「そういえばリリティアさんはさっき、ユナさんがマナを使っていると思うって言ってましたよね?断言しなかったことに、少し違和感があったんですが」
「ああ。ユナ達妖精に関しては、解明されてないことがいくつもあるんだ。妖精が持つ不思議な能力には、マナが利用されていると考えられているが、完全に解明されてはいない」
「それで、曖昧な表現になったんですね」
「そもそもマナに関しても、未知の部分がまだまだあるんだ。どちらも専門家が研究しているが、詳しいことはわからない。私は研究者ではないのでな」
マナも妖精も、どちらも完全にはわかっていないのか。神様たちの進んだ文明でも、わからないことはあるんだな。それに、完全に解明されていないエネルギーでも利用するのか。さすがに、安全性くらいは調べているんだろうけど。
結局、マナを使うコツはよくわからなかった。とりあえず、2人が言ったことを意識してやってみよう。腕の筋肉が収縮する感覚、体からバールのようなものへ伝わる力の流れのイメージ。この2つを意識しながら更に10本ほど木を間引く。
次に取り掛かろうかと思った時、リリティアさんがもういいだろうと言った。
合計で30本くらいの木を間引いた。この間伐材を使って、ユナさんのためのログハウスと家具を作るのが本来の目的だ。マナの使い方についてはコツを掴めなかったが、諦めて本来の目的を優先しよう。




