七日目・完成、ユナハウス⑨
「よし、切り倒せ」
リリティアさんの指示に従って、燃えろノコギリで木を切断する。狙った方向へ倒すために、水平ではなく少しだけ斜めに燃えろノコギリを入れる。おおよその方向さえ合っていれば、後はユナさんが水を操作して木が倒れる方向を微調整してくれる。
1つ目の木を切り倒したので、続けて近くの木を伐採する。間引きを兼ねているため、切り倒す木を選ぶ必要がある。これは、残す木々の間隔と木の健康状態から、リリティアさんとユナさんが相談して決めていった。
2本目は、1本目から数本離れた木が選ばれた。2本目に関しても、リリティアさんがつる草を切り、俺が燃えろノコギリで切り倒し、ユナさんが倒れる方向を調整する、この役割分担は変わらなかった。切り倒した木は、待っている間に分解して、ログハウスを作る予定の場所まで運んでおいた。
次は3本目という時になって、リリティアさんから別の指示が出た。
「バールのようなものは持ってきているな。それを使って、切り株を根っこから引き抜け。何度もやっているから、できるだろう」
「はい。何度かやってるんで、たぶんできると思います」
初日に泉に生えていた木々を根っこから引っこ抜いたが、神の門を利用する方法に切り替えてからは、燃えろノコギリとバールのようなものの使用頻度は下がっている。とはいえ、初日にできたんだから、なんとかなるだろう。
「バールのようなもので引き抜く時だが、体内のマナが使用されていく感覚に意識を向けてみろ」
「マナが使用される感覚ですか。力が抜けるような感覚があったんで、それを気にしてみればいいですか?」
「確かに、最初に使った時にそんなことを言っていたな。だが、今回はもう少し細かい所まで感じ取って欲しい。マナが引き出される感覚、マナが手先やバールのようなものに伝わって、運動エネルギーに変換される感覚。それがわかるようになって欲しい」
「わかりました。とりあえずやってみます」
実際のところ、リリティアさんが何を言っているのかよくわからなかった。だが、やるだけやってみよう。やってみたらわかるかもしれない。
切り株に向かって、バールのようなものを構える。一度軽く振り下ろして狙いを付ける。狙いは、見えている大きな根っこのすぐ脇だ。振り下ろす軌道をイメージして、二回目は思い切りだ。同時に、脱力感に襲われる。マナが引き出される感覚だ。
「きゃっ!」
バールのようなものは地面の土を吹き飛ばした際、近くにいたリリティアさんが土を被ってしまったようだ。顔や髪に付いた土を、両手を使って払い除けている。それにしても、リリティアさんは悲鳴をあげる時だけ、急に可愛らしい声を出すよなぁ。
少し離れたところにいて無事だったユナさんが、土を払うのを手伝っている。
数日ぶりに使ったが、狙い通りの場所に当てられたようだ。リリティアさんには申し訳ないとは思いつつも、うまくいったのは嬉しい。。
「けほっけほっ・・・ん、どうだ?マナが使用される感覚はわかったか?」
リリティアさんにそう質問された。土を飛ばしたことは怒らないようだ。
「脱力感はわかるんですけれど、それ以上はわからないです」
「そうか、まあ最初はそうだろうな。繰り返しマナを利用していくことで、少しずつ感覚を掴んでいってくれればいい。そのためにはバールのようなものを使って、無理矢理にでも体内のマナを引き出すことが手っ取り早い。今回はいいトレーニングになるだろう」
「あ、それでわざわざ木を一本ずつ切り倒したんですね。神の門を使ってしまえば速いんじゃないかと、不思議に思ってたんですけど」
「マナを使用する感覚を覚えることが第一の目的だ。だが、いずれ間引きをしなくてはならないと考えていた。神の門では、密生の解決にはならないからな」
確かに神の門では、魔法陣を描いたところは更地に、そうでないところは密生したままになってしまう。ログハウスを作成するための木材収集をしながら、密生した木々の間引きと俺のトレーニングもまとめてやってしまおうということのようだ。
「ところで、マナを使用する感覚を覚えることの目的って何なんですか?」
「目標は体内のマナを自分の意思で扱えるようになることだ。それが可能になれば、活動の幅が一気に広がる。マナの力を併用することで、筋力以上の身体能力が得られる。そして、マナを使用する機械や道具を効率的に操ることができるようになる。例えばバールのようなものも、マナの消費を今よりも抑えながら、今以上の力を出すことが可能となるだろう。そのための第一段階として、体内のマナが運動エネルギーに変換される感覚を養ってもらいたい」
「身体能力が上がるんですか!?いいですね、頑張ります!」
速く走れたり、強い力が出せたりするようになるんだろう。どれくらい身体能力上がるのか楽しみだ。
「お前がやる気なら、私も全力で指導させてもらう。今後のことを考えると、マナを扱えるようになることが最優先だろうと思う。今現在の課題は、転移装置の作成に必要な金属を探すことだ。そのために、森の中を移動する必要があるかもしれない。その時に、マナの力は役に立つはずだ」
「町で購入することが難しそうでしたからね。森の洞窟に鉱脈があって、そこでタングステンなどが採れる。そうなったらラッキーですね」
そもそも、洞窟自体がまだ見つかってはいないけれど。
「あの、お二方とも、その洞窟の件なのですが」
ユナさんが言った。昨日お願いしたばかりだが、もう発見してくれたのだろうか。




