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森林開拓日誌  作者: tanuki
森を守るお仕事
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一日目・食料を採集しよう⑥

 収穫したホージュの実を空の革袋に詰めた。

 地図などが入っていた革袋に、空の革袋が入っていて助かった。果物を収穫しに行くというのに、容れ物を用意するということを忘れていたのだ。泉で確保する水についても、もう一つある革袋を使うしかないだろう。何の革でできているかわからないし、どれだけ耐水性があるのかわからないがやむを得ない。

 気を取り直して泉のある場所へ向かおう。

 リリティアさんの先導で進む。地図で確認すると。北北西に進んでいるようだ。

 進むに連れて、ホージュの木などの幹や枝が湾曲した樹木が少なくなっていく。その代りに、杉や檜を思わせる真っ直ぐに伸びた樹木が多くなった。

 つる草だけはどれだけ歩いても同じように生い茂っている。これ、本当に森全体がこういう状態なんだろうか。

 そうして歩くこと約5分。リリティアさんが止まってこちらを振り返った。

 「さて、着いたぞ。ここがお前が来たがっていた泉だ」

 「ここが・・・泉・・・」

 リリティアさんを追い越して先へ進んだ。つる草を跳ね除けて見えるその先に―

 森が広がっていた。つる草が繁茂し弱々しい草木が生い茂っている、今まで見てきた光景と何も変わらなかった。

 「森ですね」

 「あれ?おかしいな。ここで間違ってないはずなんだが」

 「先ほど言っていた痕跡があるんですか?」

 「いや、この泉には、先ほどの果樹林にもだが痕跡はつけていないんだ」

 「それなのに、正確に果樹林までこれたんですか?」

 地図もなく森の中を20分も道を間違えずに歩いたことになる。いや、飛んできたことになる。日が差し込まない深い森は太陽から方角の目安をつけることすら不可能だ。

 「どの方角にどれくらい進んだかくらい、大体わかるだろう?痕跡を使わなくても道に困ったことなどないぞ?」

 「いや、普通わからないですよ。だから地図がないと迷子になるんですって」

 リリティアさんの空間認識能力がとんでもなかった。てっきり脳内GPSをフル活用してたのかと思った。

 今の話を聞く限りでは、場所を間違えたということはないだろう。

 そうなると、泉自体がなくなったのか。植物の異常発生で地形が変化したりするのだろうか。

 「とにかく周囲を探してみましょう。ひょっとしたら泉の位置が移動してるかもしれませんし、なくなっているとしても何か跡が残っているかもしれません」

 「む、そうだな。では、私はあちらを探すとしよう」

 「では、俺は左の方を探してみますね」

 二手に分かれて泉の捜索を開始した。

 ここにも木々を渡るようにつる草が生い茂っていて、地面は草花で埋め尽くされている。だが、樹木の量は若干少ないように感じる。密集して歩くのも困難だった場所に比べると、木々が若干まばらに生えているように感じる。

 それと、少しずつ下り坂になっているようだ。地面が草花で見えないのでよくわからないが、探し始めた場所は今いる場所よりも地面が少し高い。ひょっとすると、元々泉があった場所なのかもしれない。なんらかの原因で水がなくなり、水底だった部分が露出しているのかも。

 時折生えている背丈の高い草をかき分けて、水たまりがないかを探した。泉が枯渇していればダメだが、水量が減っただけであれば少しなりとも湧き出している場所があるかもしれない。最悪でも明日までの水を確保したいところだ。

 「の・・・・・・ね。・・・も・・う」

 その時、何か声のような音が聞こえた。

 なんだろうと思いながら、音の方へ目を向けた。

 20メートルほど先のつる草が揺れている。胸の高さまで伸びた草が目隠しとなり、様子がわからなかった。向こうに何かいるのだろうか。

 これまで遠くから鳥や動物の鳴き声が聞こえてくることはあったが、ここまで近くに来たことはなかった。

 木の陰に身を伏せて様子をうかがう。

 「あ・・・げ・だ。めず・・・ね」

 また声が聞こえた。声の方向から考えると、左から右に移動しているようだ。

 ガサガサと草や葉が震える音がする。

 「あ!」

 思わず声が漏れてしまった。慌てて息を潜める。

 草木の陰から二つの物体が飛ぶように現れた。

 「鹿?」

 子鹿のような生物が二頭いた。密生する樹木を器用に避けながらも、軽快に跳ねている。

 目の前を通り過ぎていく子鹿を目で懸命に追った。草木の陰に入り見えなくなったりもするが、草葉の震える音を頼りに居場所を確認した。

 目の前を15メートルほど通り過ぎたあたりで、二頭がふいに足を止めた。

 何をしているのだろうか。木の根元に顔を向けているようだが、草に隠れてよく見えなかった。

 草を食べているのだろうか。いや、それならあちこちに生えていて食べたい放題だ。わざわざあの位置まで来る必要はないだろう。

 何かあるのだろうか。確認したいところだが、出ていって驚かせてしまうのもよくないだろう。

 数分様子をうかがっていると、二匹の子鹿はどこかへ走り去っていった。

 十分に離れたことを確認してから、二匹が立ち止まっていた場所へ駆け寄った。

 見てみると、一本の木を中心に水たまりがあった。

 「これが泉か・・・?」

 聞いていたよりも小さかったが、ひとまずリリティアさんを呼んで確認してもらうことにしよう。

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