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森林開拓日誌  作者: tanuki
森を守るお仕事
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プロローグ1

 こんにちは。はじめまして、のほうがいいでしょうか。何を伝えるべきかわからないので、起こったことを時系列でまとめようと思います。

 と、その前に自己紹介をしたほうがいいですね。

 俺の名前は森野守。中堅飲食チェーンに務めるどこにでもいる22歳のサラリーマンです。

 ・・・3ヶ月前に退職していなければ、ですが。

 大学卒業してファミリーレストランを経営する会社に入社したのが1年半前。入社前の俺は彼女こそいなかったが、気の置けない友人たちと共に楽しいキャンパスライフを満喫していた。講義を共に受け、時にはサボり、カラオケで熱唱し、学生向けの安い居酒屋で飲んだ。大学の近くのラーメン屋でバイトもした。そこは店長が気さくでバイト仲間たちもみんないいやつだった。賄いとして出してくれるうまいラーメンを食べながら、忙しくも楽しく働いていた。

 そんな俺にとって、入社後の生活は想像を絶する過酷なものだった。

 まず、新入社員研修だ。通信機器を没収された上で山の中の合宿所に押し込められた。初日は大声での声出しだった。一日中社訓や経営理念の暗唱と、ありがとうございましたやもうしわけありません等の定型文を唱えさせられた。おかげで一日で声は枯れ、次の日は満足に声も出せないような状態だったが、声出し研修は次の日も続いた。

 座学の日を一日挟んで4日目が地獄の歩行訓練だった。これは合宿所周辺の山道を約100km歩く、というものだった。日の出と共に歩き始めて、終わった時にはもう真っ暗だった。途中、泣き出す者や「こんな会社辞めてやる」と叫びだすものが出た。歩くペースを巡って口論にもなったが、終盤は誰も彼も一言も発することなくただただ歩き続けた。ゴールにたどり着いた時、研修担当の上役から「我慢強く歩き続けた結果、ものすごい達成感が味わえたと思う。その喜びを忘れないでほしい」と訓示があった。しかし、ただただ地獄から解放されてよかった、としか感じられなかった。

 新入社員研修終了後、本社での座学が1週間あった。この間だけがつかの間の休息で、その後すぐに店舗勤務が待っていた。

 配属された店舗では、数人の古株のアルバイターが幅を利かせていた。彼らの気に入らない人間は徹底的に糾弾されて辞めていった。そのせいで店は常に人手不足だった。改善を店長に進言しても聞き入れられず、店長は古株たちに全て任せて狭い事務スペースからほとんど出てこなかった。

 古株たちは自分たちの都合でシフトを組み、結果アルバイトのいない穴を俺と2年先輩の社員で埋めなければならなかった。そのせいでほぼ休みはなく、月に数日の休み以外は毎日10時間以上勤務していた。

 バイトはみな俺たち社員の言うことを聞かず、マニュアルも守らなかった。古株たちが勝手にやり方を変えてしまったからだ。そのせいで発生するトラブルも度々起こった。その度に頭を下げ、客から怒鳴られるのは俺たち若手社員の仕事だった。

 ほぼ毎日働き、たまの休日は疲れて眠るだけで終わる。

 友人たちとも休みが合わないため会うこともなかった。ラインなどの返事もままならなかったため、徐々に疎遠になっていった。

 そんな家と職場の往復だけの生活に耐えかねて、ゴールデンウィーク過ぎた頃に退職を決意した。

 6月末に0,75ヶ月分という寂しい額のボーナスが支給された後に退職届を書いた。

 退職後は解放感から数日は飲み歩き遊び歩いたが、それからは何もする気にならずにだらだらと過ごした。

 求職活動もしなかった。貯金もまたたく間に減っていった。何しろ元々低い給料の上、残業代が出なかったためにお金を貯める余裕がなかったのだ。

 貯金を食いつぶし、来月の家賃が引き落とせないくらい通帳の残高が減ってきた時だった。

 救いの女神が現れたのは。

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