15話 作戦会議
葉枕、白水、眼森、倉咲の四人は、葉枕の家でテーブルを囲んでいた。
「結局、この四人で王族と戦うことになるんだな」
「そうですね・・・・・・。運命などと言うつもりはありませんが、やはり予知で見た未来を大きく変えるのは難しいということでしょう」
白水は呟くと、全員を見渡した。
「では、今から皆さんに、次の予知をお伝えします」
全員が顔を上げ、白水を見つめる。
白水はカップを片手に、淡々と言った。
「明日、外出禁止令が解かれます」
「な……どういうことだよ? なんで急に外出禁止令が解かれるんだ!?」
葉枕が真っ先に声を上げた。
白水は表情を崩さず、ふーっと緩い息を吐いた。
「外出禁止令の原因となっていた者達が、人間に逮捕されるからです」
「それって、王族の家来達のことだよな? 人間の政治家を殺してたっていう……」
「その通りです」
「じゃあ、明日ミルフィーの王族は戦力を失って、人間が勝利するってことか?」
「はい、おめでとうございます」
白水はパチパチと音のない拍手をすると、静かに告げた。
「しかし、人間の勝利はわずか二日間で終わります。三日後には、再びミルフィーの王族が勝利し、人間の作り上げてきたルールは実質、崩壊します」
「な、なんでそんなことになるんだよ……? 王族は明日、家来を大勢失うんだろ? 家来を失って、そんな大逆転ができるのかよ!」
「葉枕さん、人間の常識は、ミルフィーには通用しないのですよ」
白水が告げると、葉枕の隣に座っていた眼森がテーブルに両肘をついて、手の上に顎を乗せた。
「人間には、裁判とか色々あるものね。難しいことがたくさんあるわ」
「その通りです。人間の世界では、犯罪を犯して捕まっても、その場で殺されることはありません。まずは拘置所に置かれ、様々な手続きを経て、裁判が行われ、やがて犯罪者達は刑務所に収容されます。ミルフィーの王族達はそれを逆手に取るつもりです。政治家を殺し、拘置所に移送され、拘置所から脱獄し、人間のルールがミルフィーに通用しないことを証明する作戦です」
「なっ……脱獄なんて、そんな簡単にできるのか……?」
「王族の精鋭達なら、可能ですよ。どれだけ頑丈な檻に収容されても、人を殺せる力があれば、脱獄する方法はあります」
「……なるほどねぇ」
倉咲が皮肉な笑みを浮かべた。
「移送も、拘置所の管理も、行ってるのは人間だからね。武器を持たずに人を殺せるのなら、脱獄できるかもね」
「だからって、脱獄してもすぐにまた捕まるだろ!?」
「いいえ、その後はミルフィー達の独壇場になります」
「な、なんでだよ……」
「人間は、ミルフィーと人間を見分けられないからです。戦うべき相手がわからないのでは、戦いようがありません」
白水が呟くと、倉咲はプリンをもぐもぐしながら言った。
「どこまでを人間として、どこまでをミルフィーとしたらいいのか、わからないってことかな? 人間とミルフィーは記憶も意識も折り重なってるから、区別が曖昧だよね」
「確かに、曖昧かもしれないな……」
「例えるなら、オタマジャクシを、魚とウーパールーパーのどちらに分類したらいいのかわからないのと同じだね」
「ウーパールーパーは分類項目じゃないぞ。あいつらはサンショウウオ科だ」
葉枕のツッコミをスルーして、白水が淡々と告げた。
「ウーパールーパーはともかくとして……あなた方は、三日以内に王族を倒さなければならないということです。もしも三日以内に王族にたどり着けなければ、現在拘置所にいるミルフィー達が脱獄し、王族の元へ戻ります。そして、王族の最高兵力があなた方を迎え撃ちます。そうなれば手遅れです。あなた方は『予知』と同じ結末へ向かうことになるでしょう」
「じゃあ、まずは王族の居場所を見つけなきゃいけないのか?」
葉枕が訊ねると、白水は神妙な顔で頷いた。
「その通りです。予知通りの未来を辿っていれば、彼らの居場所を探る方法があったのですが……今はもうその方法を使うことはできません」
「なんでだ?」
葉枕が訊ねると、白水はスッと目を細めた。
「予知と今では、状況が違いすぎるからです。予知通りなら、涙童は既に死んでいます」
「はっ!? 涙童が、死んでる……?」
「ええ、始めにあなた方が出会ったとき、メデューサが涙童を殺していたはずなのです」
眼森は冷たい表情になる。
「そう……私が」
「ええ、葉枕さんの力を借り、涙童を殺したはずでした。しかし、現在は涙童が生きています。今後は、涙童の動きを警戒しなければなりません」
「僕達を追ってくるかな?」
「いえ……王族は今、家来を失い、戦力が手薄な状態です。涙童がこのタイミングで私達を追ってくる可能性は、低いと思います」
葉枕は時計を見上げると、立ち上がった。
「状況はわかったよ。今日は休んで、明日王族の居場所を突き止める方法を考えよう」
「賛成です」
「わかったわ」
「はーい」
三人が返事すると、白水は座ったまま、再びコーヒーカップを手に取った。
「念の為、私は夜の見張りをします。葉枕さんとメデューサは戦闘に備え、体力回復に専念してください。倉咲さんは私と一緒に見張りをしていただいても、お休みいただいても、どちらでも構いません」
「白水さんが、冷蔵庫にある私のとっておきを食べちゃうかもしれないからね。私は一緒に起きて見張らせてもらうよ」
「ふふっ、そうですか」
「悪いな、二人とも……お休み」
「お休みなさい」
「お休み~」
葉枕と眼森は二階に上がっていった。倉咲と白水が部屋に取り残される。
倉咲は様子をうかがうように、チラチラと白水を見る。
「白水さん、ウノでもやる?」
白水はフッと笑うと、真剣な顔つきになった。
「倉咲さん、実は先ほどお伝えしていなかったことがあります」
「え、何?」
「葉枕さんとメデューサには、熟睡していただくために嘘をついたのですが・・・・・・今夜から明け方にかけて、王兵が襲ってくる可能性は高いです」
「・・・・・・天気予報みたいに言ってくれるね・・・・・・」
「ええ。ですから、私と倉咲さんで見張りをしなければなりません。まずはお伝えします。これまでの経緯と・・・・・・王兵の力について」




