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アホダクション 作者:nobushi

2日目

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22/29

§1

目が覚めて時計を確認すると、その針は八時二十分を指していた。
昨日の修道服に着替えると足早に一階へと駆け降り、
別棟にある洗面所で顔を洗ったら再び本棟へと戻って食堂に足を運んだ。
どうにも非効率的な順路である。

食堂はどこかの村にでもあった偽聖堂とは異なり、
空間的な広がりを全身で感じられるような、
奥行きと立体感のある造りとなっている。

壁は細やかな装飾が施された白色の石材を用いながらも
硬質な印象を与えることなく、むしろ柔和で、
そもそも窓がないのにこの光彩を放つのはなぜだろう。

シャンデリアに立てられた蝋燭だけでは輪郭や白さを演出するには力不足で、
しかしそれ以外の光源も見当たらない。

……つまりこれは魔法だな、魔法のなせるわざなのだな。


というわけで私は右手前にあるカウンターへと向かうと、
並べられたプレートの上にはスクランブルエッグ、ベーコン、サラダ、パンが
それぞれ盛り付けられており、その中の一つを選ぶとおばちゃんが
カップにスープを注いで渡してくれた。

ここでの朝食は昨日の夕食とは打って変わって洋食となっており、
飲み物やドレッシング、調味料は豊富に取り揃えられ、
各自の好みに応じて選べるようになっている。

……のだが、瓶の手前に置かれたラベルが読めないので、
その中身がまるで分からない。
一つずつ確認するというのはあまりに行儀が悪いので躊躇ってしまう。

ユキを頼ろうにも、
この時間だともう食べ終わっては出掛けている頃合いだろうし、
そもそも私に対する好感度が皆無に等しい。

「……おはようございます」
「おほーっ!
 …………ああ、おはようユキ君」
「……寝ぼけているのですか」

振り向くとそこには朝食を持ったユキが立っており、
早く決めろよと言わんばかりの雰囲気を醸し出していた。
やはりどの世界でも女性というのは怖いものですわ……。

「……ユキ、りんごジュースってどれ……?」
「え……これですが」
「ケチャップは?」
「……これですね」
「塩と胡椒」
「はい」
「バター」
「……はい。
 というか……」
「……あ、気付いちゃった?」
「……アルさんはその、文字が読めない……とか」
「ま、まあね……」
「しかしそれでは不思議ですね。
 会話は問題ないのに……」
「それ、本当に……いや、何でもない」
「……?」
「とりあえずありがとう、また助けられたよ。
 お礼に一緒に食べようか」
「……それ、おかしくありませんか……?」
「まあまあ」

私はユキを宥めると向かい合うようにして席に座り、黙々と朝食を味わう。

「……アルさん」
(もぐもぐ)
「……聞いています?」
(こくこく)
「……食べ終わった後の話ですが」
(ごくり)
「……私の部屋に来ませんか」
(……)
「……えっ」
「……長話があります」
「お、おう……。
 ……しかも長話ときたか」
「……何かご不満でも?」
「いやいや、願ったり叶ったりだよ」
「……そうですか。それは良かったです」

全く目が笑っておらず、表情はシリアスそのものである。

「それでは私は、お先に失礼しますね」
「ああ、ちょっと待って」
「……何か」
「……立ったついでに、デザートを持ってきてもらえる?」
「……分かりました」

口調は硬いままだったが、少しだけ口元が緩んだようにも見えた。


「……ティラミスとパンナコッタ、どちらが良いですか?」
「……二つ?」

戻ってきたユキの右手にはティラミスが、
左手にはパンナコッタがそれぞれ乗せられてあった。

「私も……アルさんが選ばなかった方を食べようかなと」
「……ユキはどっちが食べたいの?」
「……」

ユキはにこやかな笑顔を作り、何も言わない。

「……なるほど。
 それでは当ててみせようか」
「……面白いですね」
「ただし一つだけ質問をしたいのだけれど、よろしいかな?」
「……どうぞ、遠慮なく」

質問の候補は三つ。
一つ目は利き手、二つ目は食歴、三つ目は材料について。
さて、どれが最も効果的か……。

「……というか」
「……?」
「……質問する必要がないか」
「……え、それは……」
「いただきまーす」

私は席を立ってユキの左手にあるパンナコッタを頂戴し、
そのままフォークを使って口の中へと運ぶ。

「……うむ。いとうまし」
「……」

ユキはあっけらかんとしながらこちらを見ている。

「……ふう、満足した。
 それじゃあ私は先に失礼するよ」
「……どうして私が、ティラミスを?」
「……ん。
 だってそれ、食べたことなかったでしょ?」
「……なので、どうして」
「……ティラミスは比較的新しい食べ物だからね。
 この世界だと珍しいどころか、新商品であるとさえ言えるのかなって」
「……つまりアルさんのいた世界は……」
「……まあ、そういうことだよ」

そうして私は食堂を後にし、ユキは席に着いてティラミスを食べ始めた。

そのティラミスは私たちが日頃から目にしているような、
柔らかくしっとりとした見栄えではなく、重厚でどっしりとした印象を与えた。
おそらくあれがティラミス誕生時の姿であり、徐々に洗練されていったのだろう。
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