桃とビオレとシャボン玉っ!!! 〜お尻を奏でてパン、パン、パン…!〜
構想10年。執筆2秒。
パン!パン!パン!パン!
お尻をはたく、音がする。僕は叫んだ。
「ももかパン!ももかパン!」
カピュっカピュっ!
乳白液が宙を舞う。
「いやぁあああああああっ!」
目の前の少女、幼馴染の桃井百花は悲鳴をあげて、起床した。
百花は大量の乳白液を浴びていて、パジャマや肌、セミロングに切り揃えられた、しなやかな黒髪さえも白く斑に染め上がっている。
上体が起き上がる瞬間、余りにも勢いがあったので、少女にかけたはずの乳白液を少々浴びてしまった。ぬちゃあ。
「何するの!?健吾くん!」
「おはよう。ごめん百花。いつものが来たんだけど、何しても起きないものだから、先に済ませてもらったよ」
片手に持っていた液体石鹸『ビオレ』をしまい、ハンドタオルを百花に渡した。
「早くしないと遅刻するよ。40秒で支度して」
「う〜、最悪の目覚めだよぅ…」
身体を拭きながら百花は嘆いた。ぬちゃあ。
支度を終え、百花と一緒に玄関を出る前、百花の母親、百合子さん(未亡人垂れ目巨乳エプロン姿ポニテ以下割愛)が見送ってくれた。
「健吾くぅん。毎朝お世話ありがとうねぇ〜。この子ったら朝弱くてねぇ〜、目覚まし10個使ってるのにねぇ〜。いってらっしゃいねぇ〜」
「学校では僕の方がお世話になってますよ。いってきます」
「健吾くんちょっと駆け足で行こっ!行ってきま〜す」
通学路。僕はカバンからランチパック、スイートポテト味を取り出して百花に渡す。
「朝、少しは食べた方がいいよ」
「え、いいよ、健吾くんのお昼ごはんなくなっちゃう」
「学食行くし。はい」
百花はパンを受け取って食べた。
「ありがと、おいしー。でも朝からスイートポテトは口の水分奪われて良くない」
「……昼用だったんだから勘弁してよ」
「ランチパックなのに朝に食べるとはこれいかに〜ふふっ」
などと他愛もない会話の矢先
「今日も仲良さそうでなによりパン」
突如、僕の影から灰色の小動物が現れた。
「おはよう、今朝も日課の魔力提供、ご苦労様だパン」
僕は無言で頷く動作だけした。キュンスケ。自称天使。正体不明の超常生物で、僕以外には見えないし声も聞こえないのだ。
僕、坂上健吾は社会人時代、営業の成績が悪くクビになった。
その後フリーターを転々とし、ついに30代を向かえようかという日に事件は起きた。
その日、軽い副業で某まとめサイトのコメント欄に、いち早く『○○に発射!!』と書き込むバイトをしていた。サイトの住民からは発射ニキと呼ばれている。
書き込みをしながら一人で慎ましく誕生日ケーキを突つく、ため息混じりに、
「何やってんだかな…」
などと呟くと。
「人生を、やり直したいパン?」
気づいたら目の前に灰色の自称天使がいた。
僕は子供に戻る魔法をかけてもらった。
代償に、儀式として少女の名前を呼びながらお尻を叩き、液体石鹸を掛けなければならない呪いをかけられた。
……なんで名前を呼びながら叩くんだろうか?
「儀式の際に、名前を呼ぶのは特定人物に魔力の縁を繋げるためパン。
語尾にパンをつけるのを忘れるなパン。天界ではみんな語尾にパンつけるパン」
……尻叩くのと石鹸にはなんの意味が?
「テンション上がるパン。リビドーエナジーは僕ら天使に必要パン。それは君たち人間にしか作れないパン」
……もし契約を破ったら?
「君の肉体からエネルギーを徴収することになるパン。血を吐き続けることになるパン」
などと答えた。意味が分からん。やれやれ……。
「何ぼーっとしてるの?」
ランチパックを食べ終えた百花が聞いてきた
「少し昔のことを思い出してだけだよ」
「昔かぁ〜、そういえば初めて発作を起こされたときはびっくりしたよ〜」
発作。儀式のことを百花には発作だと説明している。これは毎日、朝7時と夕方7時に定期的にやって来る。
百花が当時を思い出しつつ語る。
「小学校3年生のときだったかな。私が学校を休んで、健吾くんがプリントを届けに来てくれた日。お見舞いに来た健吾くんの方がすごいぐったりしてて…」
いや、思い出さないでほしい。
「顔見たら真っ青で、口から血を流しながら土下座して、『お願いします…おしおし、お尻叩き、さささせて下さい』って」
……。
「僕が言うのもなんだけど、よく引き受けてくれたよね…」
「ん〜、痙攣しながら白目向いて、血の涙流し始めてから、あ、この人ホントに病気なんだって思ったからね」
「……」
見舞いに来たはずのクラスメイトがいきなり土下座しながら血を吐いてお尻叩きを懇願するなど、完全にやべーやつである。
そんな感じで僕と百花の関係は始まったのだ。忘れたい。
学校で四時限目の体育が終わった。内容はシャトルランだった。昼休みになると、キュンスケが現れた。
「悪いけど、今日は昼休み中に魔力提供して欲しいパン。」
「いつもは放課後で良かっただろ?どうして…」
「運動後はエネルギーが枯渇するパン。それに…健吾、今朝の儀式は不完全だったパン」
「なんだって?」
「寝てる間に無理やりしても、リビドーエナジーは貯まらなかったパン。キュンスケは合意派パン」
そんな…
予想外の事態に焦っているなか、いつも一緒に昼食をとるクラスメイトのダラオが声を掛けてきた。
「健吾、学食行こーぜ」
悪いが、そんな場合ではないので断る。
「すまん、ダラちゃん今日は用事が」
「俺より大切な用事なんてあるわけっ?」
「埋め合わせはする。急用なんだ」
「つらぽよピーナッツ」
僕は急いで百花の教室に向かう。
しかし百花はいなかった。
クラスの女子に聞いてみた
「百花…どこにいるか知らない?」
女子はきょとんとした顔をする。
「ももか…誰?」
「桃井百花」
「あ〜桃井さんね、分かんない。ねぇ桃井さんどこにいるか知ってる?」
女子は後ろにいた友人であろう人物達に訊ねた。
「知らない」
「さぁ…」
なんだよ…誰も知らないのかよ。百花の友人がいればそいつに聞いてみよう…あれ?
そういえばあいつに友人がいることを僕は知らなかった。
それもそうだ。百花は毎日、朝7時と夕方7時に、儀式に付き合ってもらっている。放課後友人と遊ぶにしても、7時までに儀式となれば、それより前に友人と別れないといけないわけで……。
そのうち女子グループからは付き合いの悪い奴として孤立していったのかもしれない。
もしかしたら寂しい思いも……。
僕はといえば、学校外では生活のために…ホームページの作成や転売、アルバイトをしたり小銭稼ぎに忙しいので友人関係はあまり気にしてなかった。
社会人時代のドライな対人関係に慣れたこともあって友人関係は学校内でも充分満足できたのだろう。
でも百花にとって、初めての高校時代を…毎日ずっと変態めいた儀式に消費させるのは、きっと、辛いことなのかもしれない……。
「仕方ないパン。健吾、足を使ってしらみつぶしに探そうパン」
キュンスケが僕にだけ聞こえる声で言った。
「……ッ」
僕は観念して百花を探すために校内を駆け回った。
図書館、校庭、体育館、保険室………どこを探しても、いない。
だんだんと呪いが駆け巡ってきた。体が寒くなり、冷や汗をかきはじめる。
――――はやくなんとかしないと…。
行っていない場所は他に無いか考える。すると
ピンポンパンポーン
スピーカーからお昼の放送を告げる音が鳴った。
『こんにちは、12月2日、お昼の放送のお時間です、肌寒い気温が続くようになりました―――』
「―――この声は!」
百花だった。そういえば放送委員をしていると聞いたことがある。今日が当番だったのだ。
「うおおおおおおおおおお!」
僕は放送室に向かって走った。
放送室のドアを空ける。
「ももか…」
「健吾くん!?」
驚きながらも小声で百花が言った。百花は体操着姿だった。体育の授業後、着替えることなく放送室へ向かったんだろう。
僕は全身から冷や汗を出し、口から血を滴らせていた。
「わわわっ大丈夫!?発作が…待って!もうすぐ音楽を流すから」
百花は慌てながらそう言い、校内放送に音楽を流した。
体の痛みはもはや限界だった。全身が痙攣し、上手く体が動かせない。膝がガクガクする。おぼつかない手でカバンからビオレを取り出し机に置く。
「くっ…すまない…はやく済ませる!」
「うん……」
百花は背中むいた。手を机につき、
「い、いいよ……」
腰を突き出した。体勢は万全だ。
本来あるべき、儀式の姿がそこにはあった。
僕は百花のお尻を叩いた。百花のお尻が柔らかく弾み、波紋が全身の肌へぷるんと広がった。
パン!
「んっ!」
上体をのけぞらせて、百花が声を上げた。
僕は名前を呼んだ。
「ももかパン!」
また叩いた
パン!パン!
「ももかパン!ももかパン!」
音楽が終わる前に、全てを終わらせなければならない。
僕は手の速度を上げる。速すぎて、まるで扇風機のプロペラのように、むしろスローで動いているように見えた。
パン!パン!なんてレベルじゃない音が鳴り響く。パパパパン!パパパパパパパパパパパ!
叩く度に百花を支えている机が揺れた。
百花は激しく悶える。
「健吾くんっ……!」
「ももかパン!」
僕は液体石鹸を手に取り、仕上げにかかったが……
ゴンゴン!と放送室の扉を叩く音がした。
『開けなさい!何をやってるんだ!』
「ん?」
ドアの向こうから声がした。放送委員の担当教師の声だ。
「先生が?どうして…」
放送室は防音のはずだ。ちょっとやそっとの音では外に漏れる心配はなかった。
「あっ……」
百花が声を出した…固まった視線の先にはマイクの音声入力、オンになったままだった……。
つまり、僕たちは全校生徒に音楽を流しながら、バックで何かをパンパンさせる音と「ももかパン!」という奇声を聞かせていたわけだ。
僕たちはこの状況でドアを空けるつもりはなかった。
『そこで待ってなさい。今職員室から鍵を取ってくる』
これはまずい。
「健吾くん!早くしよ!先生が来る前に!」
改めてマイク音声を切りながら百花が言った。
しかし、僕は……。
「いや…やめよう」
「え?」
「もう、やめよう。こんなこと…。今日みたいなトラブルが、いつか起こることは、分かっていたんだ……」
「健吾くん…」
「今日、君のクラスに行った。癖でつい百花はどこだって…下の名前で聞いたんだ。でも誰も君の名前を覚えてなかったし、居場所さえ知らなかった…」
「……」
「毎日君に迷惑を掛けてきた…ホントは僕以外の友達とだって遊びたかったはず…それなのに…」
状況は最悪だが、むしろ良い機会な気がした。許されるわけがないのだ。自分のために、一人の女の子をこんな目にあわせ続けるなど…
「……じゃない」
「え?」
百花がなにか喋ったが、上手く聞き取れなかった。
「迷惑なんかじゃ…ない。健吾くんは変態だけど、いつも優しかった。一緒にいていつも楽しかった」
「……」
「私、ホントは知ってるんだよ。健吾くんはいつも一人で生活してるって。学校帰りに毎日スーパーで買い物してるし、家に遊びに行っても両親はいつも居ないし…洗濯物だって、健吾くんのものしかないんだもの……」
「……」
「健吾くんが初めてお見舞いに来たときにね、私のために丁寧に解説文まで書かれたノートを貸してくれたこと、今でも覚えてる。」
「……それは、君を説得するためだよ」
「きっかけなんてどうでもいいんだよ。私はね…決めちゃったの。一人ぼっちのこの人のためなら、私が一人ぼっちになっても、いいかなって」
「百花…」
「あっ!でも二人で毎日会ってるんだから、一人ぼっちなんかじゃないもんね」
そんな風に思ってくれてたのか……。
僕は胸の奥が熱くなった。体が震えた。かと思ったら。
胃から何かがこみあげてた。え?
「げぼーーーーっ!」
「きゃあああっ!?」
僕は血を吐いた。視界が点滅した。どうやら呪いが強まってるらしい。
その様子を見て、百花が懐かしむ様に言う。
「膝ガクガクしながら白目向いて…初めて会ったあの日みたいだよ。
健吾くん…はい、どうぞ…」
そう言って、百花は再び腰を突き出した。
お尻はいつもより一層上に向けられている気がした。モジモジと叩かれる瞬間を待っている。
綺麗なまん丸のお尻。僕だけのお尻。親の顔より見たお尻……。
「百花…」
僕は震える手で液体石鹸を百花に向ける。
勢いよく放った。
カピュ!カピュ!
乳白液が宙を舞う。
震えた手では狙いが定まらなかった。
噴出する大量の乳白液が出鱈目な模様を描いて体操着に付着し続ける。
やがて乳白液が体操着に吸収しきれなくなると、百花のお尻や脚を伝って床に滴りだした。ぬちゃあ。
「健吾くん…凄い……」
気が付いたら、体操着が肌に張り付くほどの量を出していた。過去最高に出していた。空になるまで出し尽くした。
「よし…終わった」
百花が体操着でありがたかった。制服に着替えればこのあとの授業にも参加が出来る。
背後から鍵が解かれる音がした。放送室のドアが開けられ、教師が入ってきた。
僕たちは何食わぬ顔で、放送を再開していたものだから、教師はきょとんとした顔で見つめていた。
放送が終わり。
「すみません先生。マイク切るのを忘れてました」
百花が席を立ちあがり頭を下げようとした瞬間……。
ぬちゃあ。
「きゃ!」
床に付着していた石鹸で足を滑らせ、盛大に横転した。
体操着に染み込んだ石鹸のせいで、カーリングのように床をクルクルと移動する百花。2回転ほどして、教師の目の前でお尻を向けて静止した。
ちょうどガス抜きのポーズのような体勢だった。
ぷっ!ププププププスっ!
「いやぁあああああっ!」
お尻を叩いた際に腸に空気が入っていたせいだろう。百花は可愛らしい音を立てて放屁した。桃の割れ目から、美しい虹色の玉が舞い上がる。部屋中に散らばり、パンと弾けた。
「シャボン玉……だと……?」
教師は目の前の現象に理解出来ず、呆然とした様子で言った。
「君たちは、いったい何をしていたんだ…?」
呟くように教師は訊いた。
僕は答えることが出来なかった。
百花は泣いていた。
キュンスケが僕にしか聞こえない声で答えた。
「ももかパン!」
ーFinー