1話「状況確認」
…さて、何はともかくまずは外に出よう。
地面に手をついて立ち上がろうとする。と、背中に膜のような物が当たる。反射的に後ろを見る。…ん?何か腕が異様な形をしている様な気がする。
…いや、うん。嫌な予感はしていた。視界がまず違ったのだ。視点が異様なまでに広かったのだ。斜め後ろまで見えたのだ。…ここでは暗くてわからない。外に出なくては。
足で立ち上がろうとして前に倒れ込む。二足歩行しようとすると足が耐えきれない。というか足の感覚が違う。手をついて四足歩行で出口に歩いていく。
目に光が差し込み、手や足に触れる感触が芝生のようなものに変わる。空気がジメジメしていない。あぁ─外だ。謎の感動が込み上がる。
…と、それどころではない。まずは現状確認だ。自分の腕に目をやる。
…俺は一瞬、視界に移りこんだものが信じられなかった。灰色の鱗で出来た刺々しい甲殻に包まれた細身の腕。
そこから生える蝙蝠の羽のような膜。翼の先には指が数本付いている。腕と翼が合わさったかのような形状だ。
胸元…あまり見えないが喉元からだろうか?そこから腹部には甲殻が無く、かわりに白色の筋肉が伸びている。
足も人間とは関節が逆。前に3本、踵に1本太い爪が生えている。
後ろ側に首を曲げる。首が長いのだろう。真後ろに顔を回せる。甲殻に包まれた細長い尾。先端には棘が生えている。
…さて、こんな自分の姿を見れば流石に解る
俺、とうとう人外に転生しました。
ふざけんな!そんな俺の怒りを込めた叫びは咆哮となって辺り一体に轟いた。
さて、あれから数十分、出来ることを確認してみた。なぜ確認できたのか?それは簡単だ。どうやらこの世界、自分のステータスを見る事が出来る世界の様だ。目を閉じて意識を集中してみる。すると脳裏にステータスが浮かぶのだ。ちなみに俺のステータスはこんな感じだ。
名前:マツモト タクマ
種族:小飛竜
属性:魔素
性別:♀《依り代の性別》
経験値:0(現在値)/7000(進化必要値)
スキル:魔素適性『魔術の真理、魔術検索、初期魔法の基礎、魔法検索、魔力高速充填、超高速詠唱、魔素吸収、魔素変換』
竜種の本能『飛行補助、威圧、火炎操作』
世界の寵愛『世界魅了、寵愛補正、地球の加護《現在OFFになっています》』
とりあえず性別がおかしい。女体化ってか?ますます人外に転生したことが恨めしい。まぁそれはともかく色々と試してみた。
まずは魔素適性だが…まぁ凄い魔法スキルって感じだった。特に魔術検索と魔法検索は凄い。魔術は数種類しか使っていないが使い方はマスターした。単語を呟くだけで発動するようだ。魔法も同じだった。今は魔力量のせいなのか凄そうな魔法は発動すらしなかったが何個か中々良い魔法を見つけた。その内の一つがこの 【変態】だ。なにが凄いかと言うとこの魔法、肉体を変化させられるのだ。つまり声帯を作れるという事だ。一応試してみると…
「アー、あー、ただいまマイクのテスト中…なに言ってんだろ…」
見事に喋れた。まだ下手なせいか声が高めだ。少女の声みたいだ。もう少し極めれば姿も変えられるのだろうか?それはさておき次に竜種の本能。これはめぼしいものはあまり無かった。火炎操作は魔素適性で代用可能。威圧は効果不明。使えるのは飛行補助ぐらいだ。これを使うと翼を適当に動かしても飛べるのだ。飛行速度もかなり速い。何気に楽しいスキルだ。
そして最後に世界の寵愛。これは試せるのは地球の加護のON/OFFぐらいだった。他は永続発動の様だ。…ONにしたのか?勿論したさ。結果として非常にめんどくさい…というより五月蝿くなった。なぜかって…?そりゃあ…
『むー…考えてること聞こえてるんですからね!五月蝿いとか言われたらちょっとは傷つきますよ!』
これである。うん。OFFにしといた方が良かった。こいつ、つけた瞬間喋り出すし加護与えてるだけのくせにOFFにするのを妨害してくる。なんだこいつ。
『なんだこいつとは失礼な…私は超絶可愛いと評判の地球の主意識!その名も…ガイアちゃんです!』
はい無視無視。全く…初っ端からめんどくさい事になってるな…しかし住んでるところですらこんなキャラ濃いいならそりゃあ他の所がヤンデレ属性持ちでもおかしくないな…。
『キャラが濃いい?要するに私の事が忘れられないって事ですよね?照れちゃいますー!』
何こいつ、くっそウザイ。なんか役に立つならまだしも絶対ただの馬鹿じゃん…。
『馬鹿とは失礼じゃないですか!私のような可憐な乙女に馬鹿だなんて〜…怒りますよ!』
怒りますじゃねえよ!こっちがキレてぇよ!色々あってストレス大分溜まってるからな?血管切れるぞ?
『怒んないでくださいよ〜も〜…仕方が無い。私の役立ちポイント解説してあげましょう!』
なんかいきなり始めたぞこいつ。スキル消去とかないの?ないの?
『…原則的にスキルが合併しない限りは消え無いみたいですね。でもスキル個数に制限は無いみたいですし気にしなくても大丈夫だと思いますよ?ややこしいでしょうけど。』
…なんかいきなりキャラ変わってない?お前そんなお助け役みたいなキャラじゃ無かっただろ。
『ふっふっふ…私、ある程度ならこの世界に干渉して知識を得られるのですよ!』
な、なんだと!?凄い使えるじゃないか!早く言えよ!
『言わせてくれなかったんでしょうが!全くも〜…地形情報とか魔法に関する情報はだいたい読み込んでますからばんばん質問して下さい!ドヤァ!』
ドヤァとか自分で言う奴初めて見た。…質問か…じゃあ二つあるからまず一つ。いきなりお前の加護が俺についた理由。ステータス制度のある世界は他にもあったけどお前の加護とか無かっただろ。
『あー…それはですね…今回偶然魂が引き抜かれる際に妨害ができまして…それで加護つけれたんですが…』
ですが?なんかあるのか?
『…今回人外に転生してるのそれが原因だったり?』
…は?どゆこと?
『妨害の反動で同じ種族や体で転生が不能になり依り代として作られたその体に魂を入れられた…という感じ…ですかね?』
…つまり俺が人外になったのはお前のせい、と…
『わ、私だって必死だったんですからね!今度は戻ってこないんじゃないかとか思ってついつい…』
あーもうわかったわかったわかった。お前が頑張ってくれたのは理解してるよ。そんじゃ次の質問な。帰る手段教えてくれ。
『ちょっと調べてみますね……ん?…あー…これは…うん。』
な、なんだよその通りだ反応は…なんかちょっと不安になるだろ…。
『…単刀直入に申し上げていいですか?』
なんだよ…別にいいから勿体ぶるなよ。
『…今までと同じように帰る手段が無いです。』
…と言いますと?
『今までは帰ろうとする貴方をその世界の主意識が作り上げた傀儡…まぁ魔王とかですね。そういった者が世界に束縛、ぴっちり閉じ込めています。それを排除することで穴ができ、私が魂のみ奪還、時を巻き戻して運命改変してようやくあちらに戻ることが出来るのですが…なんでか今回その傀儡がないし穴もない。開ける手段もありません。』
……は?嘘だろ?…じゃあどうすんの?
『…思いつく限りでは…知名度を上げて帰る手段を探してもらう。もしくは…属性魔素でしたよね?でしたら進化重ねて魔導にした後種族を竜皇帝まで上げて時空間魔法で転移、更に姿を人に変化してもらって人に変化したあなたをあの事故直前のあなたに移し替える。ぐらいですね。前者はあるか不明。後者は魔力消費的にできるか不明ですが…』
なんか竜皇帝とか魔導とか意味わかんないんだけど…え?なにそれ?
『魔道は魔素の上位属性ですね。進化をしていけば属性も進化しますから大丈夫です。竜皇帝は龍種の最終進化段階ですね。寵愛による進化補正もありますから今から進化していくと小飛竜→魔素竜→魔導竜王→魔導竜皇帝といった感じに進化するかと…順当な進化すれば、ですが…』
魔素と魔導が名前の先頭にいきなりつき始めてるのなんで?
『一定以上の種族になると属性が体質に反映されて名前に属性が入るんですよ。ゲームとかに火耐性のある炎竜とかいるでしょう?属性が炎ならあんな感じになります。』
…レアな属性とかあんの?
『あるみたいですよ。例えば…魔に落ちた者しか持てない暗黒とか重量操る魔法が使える重力とかですね…ちなみに魔素は超レアですよ。属性自体が全魔法適正に自動習得兼ね備えてますから重力の魔法でも何でも使えます。耐性は無いですけど…』
全魔法適正とか自動習得とかチートすぎひん?ドラ〇エでいったら魔力が足りなくて使えないけど最初から全部の魔法覚えてるようなもんじゃないか。魔導はいったいどんな…そういや魔法って何があるの?俺イマイチ理解出来てないんだけど。
『…四大主元素魔法の火、土、水、風。そこから雷とか氷、上位魔法の炎とか聖に分かれていきますね。だいたいの魔法は四元素覚えればいけます。まぁ今回は魔素があるから魔法は全部覚てるようなものですね。使い方覚えればすぐに使えます。ちなみに魔術は魔法の下位互換。効果を弱体化させて燃費良くしたり一部消去…というよりは魔術の詠唱呪文じゃ制御出来ないから無いだけなんですが…まぁ一部の魔法がない感じの奴です。』
はぇ〜…なるほどね…んじゃ解説もしてもらったしそろそろ動きたいんだけど…なんか村みたいなのある?
『ありますが…行き当たりばったりでやるつもりですか?』
まさか。目的は定めてるよ。
『…どんな目的ですか?』
…俺の国作るってのが一つめの目標…この世界の頂点に立つってのが第2の目標…かな。
『…なるほど。国を作って情報収集。その傍らで頂点を目指しつつ進化…帰る手段はどちらも五分五分、ならばどちらも取ろうと、そういう事ですね?欲張りさんですね〜…』
欲張りで悪かったな。ちょっと子供っぽいけど確実だろ?んで、まずは国作るために村纏めて長になる。だからなんか悩み抱えてる村探してくれ。
『分かりました。…ただ今のあなたは小飛竜ですから…魔物だけの村とか人と魔物が共存してる村とかにしか寄らせませんよ?』
おけおけ。変態使えば人にもなれるんだろ?
『えぇ…まぁ一応…なれますが…』
なら後々寄るよ。んじゃま、まずは村向かうか。なんかいいところ見つかった?
『北西に2kmほど進むとエルフと人間の集落が…襲撃の後が見えますね。落ちてる武器や肉片からして豚人かゴブリンに襲撃を受けているのかと…』
エルフと人間か…なんか人間だけの村と変わりないような…まぁ仕方が無い。そんじゃ向かいますか!
翼をはためかせて空に舞う。俺の長い長い冒険は今始まったばかりだった。
変体→変態に誤字修正致しました。いやまぁ酷い誤字ですがね、あれですよ。変体と変態ってなんか変態の方がエロそうじゃないですか(言い訳)
大変申し訳ございません。