プロローグ『転生、再び』
俺、『松本拓真』はちょっと変わった体質の高校1年生である。
顔や成績は普通。身長や運動神経も高くなくモテる訳では無い。一見すれば普通の高校生だ。そんな俺のどこが変わっているのか。それは俺の日常を見てくれれば解るだろう。
冬であればどこでも体験出来るであろう冷え切った空気。風を巻き上げて去って行く電車。
靴越しでもわかるコンクリートの感触。いつもと変わらない日常。ただほかの人と違う点を上げるならば───この倦怠感だろう。ただの倦怠感ではない。体が重いのは一緒だがまるで数人にしがみつかれているかのように重たいのだ。まぁ俺にとっては「既に」日常なんだが。
電車が過ぎ去り歩を進めると唐突に急ブレーキ音が響く。スリップしたであろう車がこちらに突っ込んで来る。よけられない。普通に当たったら死ぬ。そんな状況でも俺が
「今度は楽に死ねますように…」
なんて呑気な事を言えるのは死なないという確信があるからだ。
車の前部に直撃する。数メートルぶつかったまま走るとガードレールにぶち当てられる。車とガードレールに挟まれバキバキッという派手な音を立てながら骨が砕ける。形容しがたい痛みが走ると悲鳴の代わりに血が口から吐き出される。いやはや、何度経験しても死ぬことにはなれない。だんだんと意識が暗転して───
目が覚めると見知らぬ岩の天井が目に付く。背中に冷たさが走る。湿り気がある。地面が濡れているのだろう。首だけを起こし当たりを見回すとしっとりと湿った岩の壁と出口らしきところから見える広い草原が目に入った。苔などが生えている所を見ると今寝ている場所は洞窟内だろうか?
こんな事が起きるのはあれしかない。1度は夢見た人もいるだろう。ラノベ好きなら大抵は憧れ…そして俺にとっては『8回目』の『異世界転生』だ。
さて、これだけ理解しているにも関わらず俺がやけに冷めている理由がお分かりだろうか?答えは簡単、もううんざりしてきたのだ。
1度目はそりゃあ心が踊った。何せ夢にまで見ていた異世界転生が出来たのだから。だが三回目あたりからうんざりしだした。
世界の常識は毎回異なり、何故か毎回モテないためハーレムが築ける訳でもない。それなのに何度も命の危機に晒されるのだ。というか来るために1回は死ぬ。戻って来ればあちらでの死は回避できるがこちらでも死にかけるのだから大差はあまり無い。もう嫌になってくる。それでも俺は逃げられない。俺はどうやらあらゆる世界に愛されているらしい。
簡単に説明すると俺を好いている世界が自分の世界に死んだ俺の魂を引っ張ってくる。これが俺が経験している異世界転生だ。死ぬ原因は特定できないから回避もできない。
俺はこの体質を「世界の寵愛」と呼んでいる。戻って来てもまた別の世界に連れていかれるのだからキリがない。
というか一々死を体験させるなんてサイコパスの粋だろう。モテる男は辛いと言うが全くその通りだ。
さて、最初のちょっと変わったの意味が解っただろうか?俺は女性ではなくあらゆる世界に愛されあらゆる世界に引っ張りだこな…要するに異世界転生しやすい体質なのである。
しかし今度という今度は頭にきた。なぜ初期位置が洞窟なんだ。ジメジメして気持ちが悪い。死に方も圧死だ。非常に痛かった。今回はパパッと帰って寝る。
と、学校があるのも忘れて俺は儚い決意を抱いたのだった。
初作品な為構成などがおかしいと思いますが暖かく見守って下さい。
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