真の二刀流
「彼は真の二刀流じゃあない」
男は言い捨てた。
「成績が中途半端・・・」
投手としては10勝4敗、打者ではホームラン22本。
「ということじゃあない。
165km/hには驚愕する。
でも・・・」
彼は首をかしげる。
「宮本武蔵は槍や弓をしていたか?」
宮本武蔵は戦国時代の剣術家である。
二刀を手にしてから負けたことはない。
二天一流の開祖だが、世間では二刀流と言われる。
「投手と打者、それは二刀流じゃあない。
だったら、『逃げ恥』の星野源は何刀流なんだ?
俳優、歌手、作詞作曲、作家、ラジオパーソナリティ・・・」
『星野源、5刀流』の見出しは今まで見たことが無い。
「俺が真の二刀流になる」
プロ野球選手の彼は、MVPが決まった時、マスコミにこう宣言した。
新シーズンが幕開けした。
彼は打席に立った。
相手投手は振りがぶり、大きく腕を振った。
彼は腕の振りにつられ、バットが始動した。
が、ボールは来ない。
チェンジアップ、スローボールだった。
タイミングを外された彼のバットが空を切る。
その時だった。
ボールは見事に撃ち返された。
セカンドの頭を超え、ライト前ヒット。
彼が二刀流を完成させた瞬間だった。
彼は2本バットを持っていた。
チェンジアップで左手のバットは空振りさせられたが、
右のバットでボールを打ったのだった。
ちなみに野球協約では2本バットを持つことは禁じられていない。
試合後、見事な逆転打を放った彼はヒーローインタビューで宣言した。
「真の二刀流は、この俺だ」と。
野球協約の話はウソです。