あくまでも居候ですっ!?
少し落ち着いてからソファに座る。
そしてラビとの話を再開した。
「……で、詳しい状況は?僕ってそんなに大変な状況なのか?」
少し間を空けて、ラビは頷いた。
「先程はあれでしたから、あんなので帰ってもらえましたけど、あれ以外の天使だとまあ無理ですね。問答無用で連れ去られます」
明瑠は頭を抱えた。
だって、明瑠は何もしていないのだから。
狙われる理由が分からない。
好かれている、と言ったが、自分の容姿はそこまで良くないと明瑠は思っている。
なのに、なんで。
「……明瑠さん、私は貴方を護りたいんです。私が貴方のお側にいる限り、明瑠さんを連れてかせなんてしません、絶対に」
「……そっか。でもな?一つだけ気になったことがあるんだ……僕のこの今、現在の状況は何なんだよ!?」
明瑠はつい先程、悩んでいる最中にラビの方に体を倒された。
そして、明瑠の頭はラビの膝の上にある。
つまり、今の状況とは、膝枕だ。
「いやですね、愛する明瑠さんを甘やかしたいんですよー」
「質問の答えになってるようでなってない気がするんだが!?」
「まぁ、先程申し上げた通り、お護りするためにどんなときでも一緒に……うへへ、お風呂でもー、ベッドでもー」
「寧ろお前に対して身の危険を感じる!……ん、お風呂?ベッド?……そういえばお前、どこに住む気なの」
「明瑠さんのお家……つまりここです!」
「は、はあっ!?聞いといてなんだけど、一度月に帰るとか、どこか借りるとかしないのかよ!?」
そう言うと、ラビは急に暗い面持ちになった。
「……本当は私の勤めてる派遣会社からそういう資金が出されるはずだったんです……。ですが、急にその……なんと言いますか……その資金が全カットされたんです」
「は?」
「つまり今、私、無一文」
「あーうん、それは分かった。でも何で」
「……VR」
「……あー、あの最近発売されたバーチャル・リア……」
「いえ、バーチャル・ルナティックです」
何だろう、明瑠の知っているのと違う。
ルナティックということは、月の製品だろうか。
「えーと、何それ?」
「月で新しく発売されたゲームなんですが……明瑠さんの地域の価値で言うと、その、一台で五百億ほどしまして。といっても、月は一般庶民でも年収数千万を下らないという所なので……」
「買えるやつは買えるってことか」
「はい。……そのゲームを、私が働いている『派遣会社ルナティック』の社長のご子息が欲しがったらしいんですよ。社長はご子息を大変可愛がっているので速攻買ったらしいんですけど」
「……けど?」
「それが、どうも裏金だったようで。そのお金を埋め合わせる為に私たち悪魔のチキューでの資金が全カット」
「……おかしいんじゃないか、月」
そう言いながら、明瑠は膝枕から抜け出した。
そして考える。
この地球ならば、そんな不祥事を起こしたら即クビだろう。
まあ、社長の座から下ろされることは必至だ。
「ですよねー。あのセクハラ社長、いなくなればいいのに……」
……ラビにも色々あるようだった。
明瑠も男なので、社長の気持ちも分からなくはないが。
豊満な胸と対称的に、細くくびれた腰……それ以上いけない。
「しかし、月だと不祥事を起こしてもクビとかいう概念は無いんだな」
「そうですね、私の会社……もっと言うと月のモットーは『何をしようと、うまくやることが重要だ』ですからね」
「何だそのモットー」
「ちなみに私のモットーは『いつも貴方のお側に。』です」
「どこぞのコンビニか」
……何というか、月という所は破綻しているのだな、と思う。
勿論全てを信じているわけではないけど、ラビのことは信じてみようと思う明瑠だった。
「……まあ、そんなわけで、私は無一文なんですけど、これで良かったとも思います」
「……何で?」
「だって、こうして明瑠さんのおうちに居候できるじゃないですか」
「いやいやいや、何も承諾してないから!?」
「明瑠さんは、こんな可愛くてか弱くて不憫で無一文な女の子を、一人追い出すんですか?」
「ぐ……」
助けてもらった。事情も知った。何より好み、どストライク。
「あかるさん?」
「分かったよ、もう!いいよ、僕んちに住んでも!」
半ば投げやりな気持ちながら、絶対に手は出さないという誓いを立てて、明瑠は全てを承諾した。
ふと時計を見る。
八時だった。
「学校ぉおおおおおっ!?」
急いで着替える。
明瑠の家から通っている高校までは、徒歩で十分程度だ。
対して始業の時間は八時半。
今からならば、まだ間に合う。
明瑠のモットーは『休暇はあり、されど遅刻はなし』なのだ。
「ラビ!僕、学校行ってくるからな!?」
「はーい、いってらっしゃい明瑠さん!」
そして数分後、何とか学校にたどり着いた。
走ってきたので息がきれる。
「あれ、あかりんがこんな時間に来るなんて珍しい。毎日、いつ来てるの?ってくらい早いのに」
「おはよう、瓜子さん……今日は色々あって」
「色々って何よ、放送部のネタに使えるくらい面白いネタ!?」
「やー……これは、だめかなぁ?ほら、もっと違うネタ探そう!?」
悪魔に出会った、とは流石に言えない。
瓜子さんは放送部での仲間だ。
本名は瓜生舞子という。
三年になるまでお互いの存在を認識していなかったのだが、同じクラスになってからは意気投合し、親友とも呼べる存在だ。
瓜子さんは部長を務めている。
ちなみに、始めこそはお互いのことを『朱藤君』『瓜生』と呼びあっていた。
今の呼び方になったのは『朱藤君って呼ぶの長い、あんた可愛いし、あかりんで良くない?』『じゃあ僕は瓜子さんって呼ぶわ。瓜子姫の話見たばっかだし』という会話からである。
「おっと、ホームルーム始まんね。自分の席戻るわ」
その直後、教室の扉が開かれる。
男性教諭の低い声が響く。
「お前ら、席座れー。今日は転校生を紹介するぞー」
入ってこい、と言われ教室に現れたのは、この学校の制服に身を包んだラビだった。
「初めまして。月宮兎と言います。皆さん、これからよろしくお願いしますね!」
わあ、だの、超可愛い、だのとクラスメイトが盛り上がる。
そんな中。
「あっ!明瑠さん!さっきぶりです!」
クラスの空気が変わる。
ひそひそと話す声が聞こえてくる。
「あの!兎ちゃん?あかりんとどんな関係なの……?」
沈黙を破ったのは瓜子さんだった。
「あかりん……あ、明瑠さんのことですか!えとですね……悪魔で一目惚れで居候……っ……もとい、遠い親戚で。違う国にいたんですが、私だけ帰ってきて、明瑠さんのおうちに居候させていただいてるんですよー、あはは……」
「そうなんだ、まあ、よろしくねー!」
瓜子さんとの話を終えて、ラビがこちらを見てくる。
赤点ギリギリで合格をやろう。
そう口パクで伝える。
実は、瓜子さんとの会話の中でラビがおかしいことを言い出したとき、声に出すのはダメだと思い、鋭く睨んでいたのだ。
口パクで『悪魔とか言ったら居候取り消し』と言いながら。
本当は居候の件も伏せたかったのだが、まあいいだろう。
そうしてホームルームが終わる。
「ねえねえ……居候ってほんと?」
やはり瓜子さんが食いついてくる。
ごまかしても無駄だと悟ったので覚悟を決めた。
「本当。住むとこ無くて困ってたからさ」
「明瑠さん、この方は?」
「あ、兎ちゃん。私は瓜生舞子。よろしくね……ってうわー、近くで見ると更に綺麗だねー!睫毛なっが!胸でっか!腰ほっそ!」
「いえ、そんな……瓜生さんもとてもお綺麗ですよ」
「あはは、ありがと!舞子でいいよ!」
「はい!舞子さん!」
「テンション高いなー、お前ら」
「あかりんも混ざるー?女の子並みに可愛いから大丈夫だよ、きっと!」
「ですね!」
このテンションにはついていけない。
でも、その前に。
「僕はっ!男だああああああああああああっ!」
これだけは譲れない。
仁義無き男の戦いなのだ。
自分で言っておきながら意味が分からないけれど。