遠き日のまなざし (散)
どこかに置き忘れてきた平和への渇望。確かに願ったはずなのに、気が付けば猜疑と不信にとらわれている。互いの子供を、父母を殺しあって、恨みに暮れる。宗教の違いは理由ではない。許す、あるいは忍容が既に教えられている。しかし、復讐を謳う歌が全地に満ちている。戦なきこの地まで。何故だろう。あらゆる血を流し、敗者の祈りが木霊したのではなかったか。消し炭になった街の中で。決然たる意志が、永の平和を導いたのではなかったか。何故。何故。兵士を繰るその手。金は命に代えられるのか。資源、資本というが、既に滅びが見えているというのに。
正義の皮をかぶった化け物が、蠢いている。
後楽園の駅を降りて、蝉時雨にあたる。水音に導かれて公園を行けば、戦没者霊園と気づいた。先を行く老紳士の杖が規則正しいリズムを刻む。静寂が胸に迫った。驚くほど人が少ない。色鮮やかな長崎を想う。記憶が凍り付いていくようなこの隔絶した空間で、兵士の重い沈黙に打たれる。あの老紳士が振り返ったら、私は逃げ出さずにいられるだろうか。秒針が止まるように、はたと音がやむ。碑の前で深く一礼して、彼は去っていった。
散文詩に挑戦。