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魔族の少女と青年兵士の物語  作者: 黒斬行弘


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3/11

名もない集落の事情

エルフを魔族と呼び、エルフを忌み嫌う人間国家「クルド」

人間を蛮族と呼び、彼らを見下すエルフの国「ヘレス」


人間の国「クルド」の志願兵「ランディー」は、敵国との戦闘で部隊が壊滅、敵国をさまよっている内に崖から転落するも、その場に偶然居合わせたエルフの少女「リサーナ」に助けられる

ウェインはひどく腹を立てていた。まさか、自分が幼少からお仕えし、これまでもずっと見守ってきた「姫」から、あんな態度を取られるとはこれっぽちも考えていなかった。


 (そもそも姫は事の重大さを全くわかっておられぬ!あの頑固さは一体誰ににたのやら・・・)


 「そりゃお前さんに似たんだろうよ」


 自分の頭の中で考えていた事に対して返答が来たので、ウェインは驚いた。


 「なんで俺が考えている事がわかったんだ?」


 「いやお前、さっきから口に出してぶつくさ言ってたろうが」


 どうやらウェインは、ずっと独り言を言いながら歩いていらしい。少しばかり渋い顔になる。


 「お前が超能力者にでもなったのかと思ったよ、イルカイ。」


 「そうだったら、俺の人生もっとバラ色だったろうさ」


 イルカイと呼ばれた男は、そうおどけて見せる。


 「まあ確かにあのリサーナ嬢が、あれほど頑なに我々の進言を拒まれるのは予想していなかったな。」


 ウェインはイルカイの言葉に同調しながら、先程まで行われていた会議の様子を思い出していた。






 「断固反対します!」


 それほど大きいとは言えないが、大人が10名ほどは余裕で座れるほどの部屋の中にリサーナの声が響き渡った。


 「彼をヘレス王国に引き渡すとはどういう事ですか!」


 珍しくリサーナが感情をむき出しにして叫んでいるので、レオンを始め、村の大人達は少々動揺していたかもしれない。


 「しかしリサーナ、彼は人間であり、ヘレスと戦うためにこの国に侵入してきたのです。その彼をこの集落でかくまっているとなれば、ヘレスの最高評議会はこの村の存続そのものを許さないのではないですかな?」


 ヒートアップしていたリサーナとウェインの言い争いに割って入るように、イルカイは冷静にリサーナにそう指摘する。


 「我々の目的をリサーナ様はお忘れか?」


 それを言われるとリサーナは弱かった。


 リサーナや、彼女を慕うエルフ達が、この辺境とも言える森のなかに集落を作ったのには理由があった。


 元々リサーナ達は、この長期にわたる戦争で、多くのエルフ達が傷つき死んでいくことに反対を唱えていた。ところが、憲法に沿った正当な反対運動をしていたにも関わらず、仲間のエルフ数人が、不当に逮捕されてしまったのだ。


 もちろん彼女達は、この不当な逮捕劇に激しい抗議を行ったが、評議会政府からは全く受け入れられることはなかった。それどころか、さらに締め付けを厳しく行っていったのである。


 政府からのこれらの仕打ちにリサーナ達は激しく抗議した。そして、この戦争に反対を表明するリサーナの10,000人を超えるとも言われる支持者の数の強さを背景に、ヘレスからの独立を画策したのだ。


 ところが、いざ計画を実行に移す段階になると、あれだけいた支持者の数はみるみる減っていき、最終的にこの集落に集まったのは30人程度だろう。


 恐らく、評議会政府からのそれほど熱心ではない支持者への懐柔工作や、家族や親兄弟、親族の身の安全を盾にとった脅迫まがいの事が行われていたのだと思う。それに加えて、金銭の授受も多々あっただろう。


 リサーナ達は最終的には独立というより、逃げるようにしてこの地にやってきたのだ。そして恐らく、政府からの監視の目も光っていることだろう。


 なので今のこの村の目的は、耐えることなのだ。ヘレスの首都に住む人々に忘れられない程度に、そして政府から目をつけられないレベルで反対運動を行っていくこと。これがリサーナ達に出来る精一杯の事だった。


 「ランディーとかいう人間一人のために、この村を危険に晒すわけにはいかんのです。」


 「彼はそもそも助からない運命にあった所を命拾いをしただけでも幸運でしょう。」


 イルカイの後を継いでウェインはそうリサーナに告げた。


 もっとも、政府に引き渡せば、あの人間は強制労働所送りになる。


 (命を落とすのとどっちがましだろうな)


 「とにかくです!今彼は怪我をしています。そんな彼を政府に引き渡すような非道な行いを皆さんは私にさせたいのでしょうか?」


 しかし、イルカイとウェインの説得も、あまり効果はなかったようだ。


 もうこうなっては、リサーナは誰の進言をも聞き入れないかもしれない。レオンは早々に諦めている。説得の方法を間違ったかもしれない。強く反対すれば折れてくれるとの考えは、結果的にリサーナの決意のようなものを固くさせてしまったかもしれない。


 「わかりました。では、怪我が治るまでの間は、この集落での滞在を許可する、と言うことで一旦折り合いませんか?」


 気を抜くと大きなため息が出そうな心境を極力表に出さないよう、ウェインはリサーナに提案した。ようするに先延ばしだ。このまま議論を続けたところで結論は出ないだろう。


 このまま不毛な議論を続けることは、彼女も望んでいなかったのだろう。「わかりました。とりあえずはそれで」と返答し、会議は終了したのだ。



 ウェインがふと顔を上げると、あの人間が怪我の治療をしている建物が見えた。外から鍵をしている上、若いエルフに見張りをさせてはいるが、目的や正体がわからない以上気を緩めるわけにはいかないだろう。


 あの人間がこの集落に来てからというもの、村のエルフ達は皆不安で誰も外にでようとはしなかった。それだけなら良い。だが、この状態が続けば、あの人間を連れてきたリサーナへの不信感が、村のエルフ達に間に蔓延するだろう。


(それだけは避けなければ!)


 ウェインにとって彼女は、この戦争を終結に導くヘレスの最後の光であり希望なのだ。こんな所で終わらせるわけにはいかない。


お読みいただきありがとうございます。

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