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リサーナの決意

ずびばぜん。

最終話と言いながら、おわりませんでした・・・・。

部屋の中は重苦しい空気に包まれていた。


 レオンやリサーナ、そして村の他の重鎮と住民らが一同に会し、今回の事件と村の今後について話し合っていた。レオンは、「ランディーに付いてやってたらどうだ?」とリサーナに提案したのだが、「私が居た所で役に立てる事はない」と断られてしまった。


 実際、リサーナが、毒の治療において出来ることなど何一つとして無かったのは事実だ。だが、リサーナのことだからそれでもランディーの側に居るものだとばかり思っていた。


 そして、レオンがリサーナの変化について確信を持ったのはこの会議中のことだった。いや、レオンだけではない。今ここにいる全員がリサーナに注目している。



 今この話し合いが行われているのは、イリーナの救出が完了して、夜が明けた次の日の夕方である。村に帰還して、イリーナとランディーの治療が始まると、リサーナは、明日の夕刻より会議を行う旨を住民全てに宣言したのだ。もちろん、イリーナの容態次第では、延期もするとの事だったが、思いの外回復が早かったため、今こうして会議を行っている。


 そしてその会議の冒頭で、リサーナは「まず、私からみなさんへ話があります」と一言置いた上で、こう宣言したのだ。


 「この反戦争を掲げて作られた村で、反クルド、反人間の思想を持つエルフは、今後この村への定住を許可しません」


 ルイス、あなたの事です。リサーナははっきりとルイスに向かってそう告げた。


 あまりに突然の出来事に、そこにいた大勢のエルフ(その中にはレオンも含まれる)が、あっけにとられていた。


 しかしすぐにルイスは言われた言葉の意味を理解し激昂する。


 「お前は何をいっているのだ!エルフでありながら人間の、あの男の味方をするというのか!?」


 「その通りです」


 リサーナは即答する。あまりのはっきりとした返事に、ルイスは言葉を失っていた。


 「リサーナ!言って良いことと悪いことがある!今のは同胞に対してかける言葉では決して無い!」


 ウェインはあまりのリサーナの言い様に、たまらず叱りつける。そして、周囲のエルフ達もリサーナの横暴な態度にたまらず声を荒げて反論し始める。


 しかし彼女は、あくまでも冷静に彼らに語りかけた。


 「私にとっての同胞とは、反エルフ、反人間等というくだらない思想に染まらず、このエルフ対人間という戦いに異議を唱える者達です。もし、ランディーがあくまでも反エルフを貫くなら、彼も私の同胞ではありません」


 「リサーナ、君がイリーナ救出へ向かう前に「詳しくは後で話す」と言ったのはこの事だったのか?」


 レオンのその言葉にリサーナは力強く頷く。


 「私は後悔しているんです。反戦争などと言いながら、結局は同じ仲間のエルフと、傷を舐め合いながら生きてきたこの村での生活を。」


 初めから私がしっかりとした意思を持っていれば、イリーナとルイスのような事は起こらなかった。ランディーがあのような危険に晒されることも無かっただろう。目の前のエルフ、ルイスは、ランディーが自分の命を危険に晒してまでイリーナの救出を行ったことを目の当たりにしても、人間を認めようとしないのだ。


 「私は、今後戦いから逃げるような事はしません。反戦を掲げてきたこの村の役割は今日で最後にします」


 リサーナはそれだけを言って、自分の話を終了させた。


 しかしもちろん、それで村人が納得するわけも無く、会議は紛糾し、次の日の夜明け前までそれは行われた。しかしリサーナの意思は固く、この会議では彼女の考えを変えさせるのは無理だと判断したウェインが、会議の終了を宣言したのだ。


 そして2週間後が過ぎた。




 イリーナは、あの後すぐに体調が回復した。そもそも、目立った外傷を受けていたわけではないので、見た目ほどの深刻さは無かった。


 イリーナが回復すると、父のルイスは、すぐにヘレス本国に帰ろうとした。リサーナのようなエルフとの交友は、イリーナにとって不利益しかもたらさないとの父親としての判断だった。しかし、それに対してイリーナは頑なに首を縦に振ろうとはしなかった。


 それはそうだろう。イリーナは憔悴しきってたいたとは言え、イリーナ救出作戦に置いて、父の反人間主義によって、どれだけ危険な状況を生み出したのか。そして、私を救ってくれたあの人間の兵士の命を危険に晒したかを。


 「私は反人間反対なの!これからもそれは変わらない。」


 今までに聞いたことのない口調で言われたルイスは、しばらくの間それはもう落ち込んでいたという。


 そしてイリーナは、ランディーが治療を受けている家屋へと走っていく。彼が目を覚ましたとの報が村中を駆け巡ったのだ。


 


 ランディは悩んでいた。


 彼が意識を回復したのは、今から約2週間前。つまり、森へ行ってから1ヶ月近くが経過しようとしていた。


 最初に意識を回復したランディーを見たのはレオンだった。たまたま、様子を見に来た所で偶然その場に居合わせたのだ。そして医者のノーブルを呼びリサーナに連絡し、もう大丈夫だ、と太鼓判を押された。リサーナは薄っすらと目に涙を浮かべていたが、その後駆けつけたイリーナに泣きじゃくられて、ほとほと困り果てたランディーを見ては笑っていたのだった。


 「よう」


 ランディーがそんなことを思い出していると、レオンが顔を出してきた。ランディーが意識を回復してからというもの、リサーナにレオン、イリーナ、そしてウェインにパビエル等、色んなエルフが顔を出しに来た。パビエルなどは、イリーナ救出時のランディーの咄嗟の判断を高く評価しているようで、顔を見せる度に褒めちぎるので少々恥ずかしくはある。


 「イリーナの親父、ルイスは顔を出したか?」


 ランディーは苦笑いしながら首を横にふる。そして自分は人間だから仕方ないと力なく笑った。


 「娘を助けられたんだから礼くらい言えとは言ったんだがな・・・」


 ルイスは、今回の事件の根本的な原因がランディーにあるとの態度を変えていない。そして、未だにこの村へ留まっている。リサーナが反人間を口にする人間の定住を許可しないと言ったにも関わらずだ。


 しかし、リサーナは本気だ。その事をすぐにルイスや村のエルフは気付くことになるだろう。


 「いや、今はこの事は良いんだ」


 レオンは、頭を振ってそう呟く。


 「何がです?」


 ランディーの言葉になんでもないとだけ答えた。


 「あー、今日ここに来たのは・・・おっと、リサーナも来たな」


 見ると、入り口からリサーナが入ってこようとしていた。


 「調子はどうですか?」


 「はい、もうほとんど問題ありません。」


 そうですかとにっこり微笑むリサーナ。そしてランディーが寝ているベッドのすぐ横へと移動する。


 「実は、今日はお話があって来ました」


 「話し・・ですか?」


 もしかして、ヘレス本国へ送られるのか?一瞬その事が頭をよぎったが、ここ1,2週間の彼女達との交流から考えるにその可能性は低いだろう。意識が回復してしばらく経った頃、リサーナ自身からこの村の目的について詳細を聞くことが出来たのだ。


 なので、ヘレスへ贈られることは無いと思う。では、何の話なのか?


 「そろそろ、クルドへの帰還を考えられるべきでは無いかと思います。」


 リサーナは努めて冷静に語る。


 それは、ランディーが忘れかけていた事、彼が人間の兵士で、エルフと戦うために志願した軍人であるという事を鮮明に思い出させる一言だった。

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