プロローグ
目が覚めると、何やら辺りは真っ暗だった。
目の前では、焚き火の炎がゆらゆらと揺れている。
「ここは・・・どこだ?・・・っ!」
青年は体を動かそうとするがうまい具合に言うことを聞いてくれない。それどころか無理に動かそうとすると、体中に痛みが走る。
「あの、大丈夫ですか?」
体中の痛みと戦っていると、いつの間にか一人の少女が自分を覗き込んでいた。慌てて飛び起きようとするも、やはり痛みの為にうまく動くことが出来ない。
「動いてはいけませんよ。あなたは怪我をしているのですから」
そういうと少女は、彼が崖の上から落ちて来たことを教えてくれた。彼が幸運にも生きていたのは、崖下が川だった事と、その側に彼女達が偶然居合わせた事が要因だろう。
そして彼はゆっくりと思い出していた。自分が、魔族国家ヘレスとの戦争に参加する為に志願兵としてクルド王国の軍隊へ所属していた事を。
人間と、人間からは魔族と呼ばれるエルフ達の戦争が始まってからどれほどが経過しただろう。国境周辺では相変わらず激しい戦闘が繰り広げられていた。
近々、両国間で停戦交渉が行われるとの噂もあるが、この戦闘の激しさを間近で見ている者には、とても信じられる話では無いだろう。
今でもクルド王国では、軍隊に所属している訳ではない一般市民からの志願兵が後を絶たない状態だ。それはもちろん魔族達に家族を殺され、残された者達が立ち上がるケースもあるが、今や街中で行われている、魔族に対抗するために起ち上がれ!などと叫ぶプロパカンダに影響されて志願する者も多い。
そして、今現在、ここで落下の痛みに必死で耐えている青年、ランディーも、そういったプロパカンダに影響されて軍に志願した一人だ。
しかし彼は、戦闘が始まってすぐにこの事を後悔するようになった。
国境付近での魔族との戦闘中に部隊は壊滅状態に陥り、ランディー自身は無事に逃げ切ることが出来たものの、見知らぬ土地、恐らくは敵国ヘレスで完全に迷ってしまったのだ。
「くそっ、なんでこんな事になったんだ!」
どこに敵の兵がいるかもわからないのにランディーは声を荒げていた。集中力も相当弱っているのだろう。日も沈み、視界も遮られてきた。
ほんの一瞬だった。
地面を踏むはずだった彼の右足は、当然そこにあると思われたものを踏めずに宙を彷徨ったのだ。ランディーは、自分が崖際を歩いていることさえ気付かないほど疲弊しきっていたのだ。
「そうか、俺はあの時崖から落ちて・・・・」
ランディーは、ようやく自分が陥った状況について理解しようとしていた。そして、冷静になればなるほど今のこの状況のおかしさに気付かざるを得なかった。
(彼女は一体何者なんだ?)
どうしたのです?
少女がランディーを覗き込んでいた。あまりに無防備に覗き込んでくるので、思わず目を逸らしそうになった。が、その瞬間かれは気付いた。
少女の瞳が碧色に輝いており、それは彼女が魔族であることの証であった。