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16、祝勝会

 ゴブリンとの交渉を無事終えて、俺たちは宿場町に帰って来た。

 長の統率がなっているのか、ゴブリンたちに後ろから襲われることもなかった。

 宿場で待っていたギルドの面々には、オリオールさんから事件の顛末について語ってもらった。

 交渉の鍵となったライアの斧の件は、色々ややこしい問題なので皆には伝えず、オリオールさんが謎のエルフの少女(俺)を介して、ゴブリンの長と話を付けた、ということになった。

 それが皆を納得させるための最善策だと、俺とオリオールさんとで話し合って決めたことだったんだが……



「……失敗した」

 騒がしい広間の真ん中で、俺はぽつりと漏らした。

 その日の夜。宿の広間を貸し切って、ギルドの面々による祝勝会が開かれていた。事件解決を祝うものだが、まぁそれは口実であって、実際はただ騒ぎたいだけだろうけどな。

 俺としてもそういう席は大好きなので普段なら喜んで参加するのだが、いかんせん今はこの姿だ。知り合いも多いし下手して正体がばれたら厄介だ。なので辞退するつもりだった。

 けれどオリオールさんの設定だと、俺はこの事件解決の功労者というわけで。というわけで俺は、騒ぎたいだけのギルドの連中らによって、無理やり祝勝会での主役の座につかされてしまったのだ。


「レミアさん。不機嫌そうですね」

 宴会もだいぶたけなわになった頃、ぶすっとした顔で座っている俺の元に、笑顔を見せながらミザリアがやってきた。たいぶ酔いつぶれた面々が見え始めているというのに、彼女はけろりとしている。見かけによらず、酒豪なのかもしれない。

 ちなみに彼女に絡んでいたクロードは、すっかり酔いつぶされて、部屋の隅で転がっている。

「……まぁ。こうしていると、ヘマを起こすこともないからな」

 オリオールさんが目を光らせてくれていたおかげで、酔った連中にセクハラまがいのことをされることはなかったが、知識旺盛な冒険者たちに、エルフのことについて聞かれるのは辛かった。

 当たり前だが、俺にそんな知識はないのでかなり適当に答えてやった。エルフに変な風評被害が起きないことを祈ろう。

 とまぁ、そんな追及をかわすため、不機嫌そうに無口キャラを貫いていたわけだが、機嫌が悪いのはそれだけではなかった。

 俺はテーブルに目をやる。

 グラスに半分ほど残っているのは、オレンジジュース。温くなってさらに甘ったるさが増している。俺はちらりとほかの席に並ぶグラスに目をやった。麦酒だ。誰かが開けたばかりなのか、白い泡がうまそうに見える。

「なぁ。俺も酒を飲んじゃだめなのか?」

「はい。ダメですよ。まだ小さいんですから」

 ミザリアがにっこりとほほえんで、非情に告げる。

「一応、レミアの年齢は40なんだし、平気じゃね?」

 少しさばを読んで言う。実際は、37だっけ?

「それに小さいっていっても、見た目も14、5くらいだし。普通に呑んでいる奴もいるだろ」

「そういう地方もあるようですが、あまりお勧めできません。レミアさん、お酒弱そうな顔していますし」

 どんな顔だ。そういうミザリアの方こそ、お酒なんて飲めません、雰囲気があるくせに。

「なーなー。小エルフちゃんも、ぶすっとしてないで、一緒に呑もうよー」」

 そんなところに、酒を浴びて顔を赤くしたカフーが俺にすり寄ってきた。うげぇ。酒臭ぇ。酒が好きなのに、酒の入った他人の息が臭く感じるのはなぜなのか。

 そんな疑問やカフーの下心はさておき、酒にありつける絶好のチャンスだ。

「そうですか、それじゃ、お言葉に甘えて」

 俺はにっこりと笑うと、適当に置かれている空のグラスを手に取り、カフーに酌をしてもらう。

 そして何か言いたげなミザリアの視線を感じつつ、ぐいっと一気に麦酒を口にそそぎ込んだ。

 くーっ。このいっぱいで生きているって感じだよなーっ。

 ……それにしても、ちょっとこの酒、度数が強くないか。

 っていうか、なんでくらくらと揺れて……

「レミアさん……?」

 その声を聞いたのを最後に、俺は気を失った。



「……うーっ。頭が……いたい……」

 ぼんやりと目を覚ました俺は、呻くように声を漏らした。

 気づくと俺は、別室のベッドの上で寝かされていた。

 枕元にメモがおいてある。ミザリアと思われる文字で、「レミアさんがお酒に酔って倒れてしまったので、私がベッドまでつれてきました」とかかれていた。

 俺は痛む頭を刺激しないように部屋を見回したが、ミザリアの姿はなかった。どれくらい寝ていたかわからないけど、宴会に戻ったのかな。

 レミアの身体がまさかこんなに酒に弱いとは思いも知らなかった。

 この身体では酒が飲めないと言うのはかなりショックだが、元の身体に戻ったとき、本物のレミアに呑ませて酔い潰してやろう、と考えたら、多少気分も晴れた。

 ま、あの狂乱から逃げ出せただけでも、ラッキーだったかもしれない。

「……酔い覚ましに、ひと風呂浴びてくるか」

 まだふらふらする身体を引きずるようにして、俺は部屋を出た。

 奥の宴会場から、バカ騒ぎしている声が聞こえてきたが、それから逃げるように素通りして、離れにある露天風呂に向かった。

「うーっ……」

 呻きながら酒臭い服を脱ぐ。

 まだ酔いが残っているおかげか慣れたからか知らんが、以前風呂に入った時より、ずっと平常心で服を脱ぎ、温泉に入る。

 ちょっとぬるめの湯が、疲れた体に染み渡る。

「うー。気持ちいい」

 身体を大の字にして軽く湯船に浮かぶようにして使っていると、不意に声をかけられた。

「あらあら。お酒飲んだ後にお風呂に入るのはあまり感心しませんよ」

「うわぁっ」

 ミザリアだった。

 俺はとっさに顔を逸らす。

 ここは風呂場なので、当然ミザリアも素っ裸だ。

 冒険を生業にしているので所々に小さな傷は見られたが、全体的に整っていて、彫刻のようなプロポーションで……って、そうじゃなくて。

「お、男の前に、そんな格好で現れるなっ!」

「でも、今は小エルフちゃんですから」

 混乱する俺とは対照的に、ミザリアは余裕綽々の表情でにっこりと微笑んで、俺のすぐ横に腰を下ろした。

 湯に浸かってくれたので、多少目のやり場に困ることはなくなって、俺は少しほっとした。

「いくら女だからって、変な目で見られるのは嫌だろ」

「ですが、レミアさんは、そういう目で見てませんよね?」

「あのな。男に対してそういう風に、安易に『信頼しています』って言うのは……」

 って今は女か。あー、面倒くさい。

 酒が残っていて回っていない頭がさらに混乱する。

 そんな俺に対して、ミザリアは少しまじめな顔を作って言う。

「レミア……いや、ライアさん自身の性格もあるのでしょうが、おそらく身体がエルフなのも影響しているのでないでしょうか。人と比べて長寿なので、あまりお盛んですと大変なので、性欲が少ないのかもしれないですよ」

 ミザリアがさらりときわどいことを口にする。

 あ、なるほど。

 彼女の言いたいことを理解する。

 人より寿命が長いエルフたちが頻繁に子作りに励んでいたら、数が爆発的に増えてしまうだろう。エルフが人間たちから隠れるようにひっそりと暮らしている程度の数なのは、そういう生物的な理由があるのかもしれない。

 もっとも、レミア(本物)は、そういうエルフとはちょっと違った感じがあった。一目惚れした男を追って里を抜け出すなんて、どこか達観したイメージのあるエルフとはほど遠い。

 まぁレミア(本物)が誰に惚れようが里を出ようが勝手にやってくれ、って話なのだが。……俺の身体でなければ、な。

 はぁ。

「どうしました?」

「……いや、本物のレミアのことを思い出して、なんか気が重くなった」

 オリオールさんが旅商人から聞いた話では、ライアの姿となったレミアの姿が確認されたのは、プーシの町の近くだったとのこと。

 樹海を出てそこまで向かっていたのなら、当然、プーシの町に寄る

だろう。早く追いかけたい気持ちもあるけれど、今はそれ以上に、俺の身体で変な騒ぎを起こしてないかが心配だ。

「ところで、レミアさんは、プーシの町に戻られるのですか?」

「ああ。本物もそっちにいるらしいし、俺自身もギルドに寄って色々考えたいしな」

 俺が答えると、ミザリアはにっこりと笑って言った。

「それは良かったです」

「良かった?」

「はい。レミアさんがギルドまで戻ってくれたら、私もリーニャさんに報告しやすいですから」

「うっ」

 ミザリアの目的をすっかり忘れた。

 リーニャに頼まれて、俺を捜していたんだっけ。

「その件については、少し考えさせてくれ……」

 俺は軽く頭を押さえながら、弱々しく答えた。



  ☆ ☆ ☆



 翌日早朝。宿場の入り口には、びしっと装備を固めたギルドの人間たちで集まっていた。精鋭ぞろいの赤のギルドの面々だけあって、なかなかの迫力だ。ーーもっとも、何人かは二日酔いの症状がみられるけど。

「それでは。俺たちは先に出発するぞ」

 愛馬にまたがったオリオールさんが馬上から俺たちに告げる。

「はい」

 向かう先がプーシの町なのは一緒だが、ごつごつとしたギルド隊の中に見慣れない華奢なエルフの娘がいたら目立つだろう、ということで、俺たちはオリオールさんと一緒に行動するのでなく、少し出発を遅らせる予定だ。

 この宿場から町まではそう遠くないうえに、街道もしっかり整備されているので、危険もないだろうし、のんびり行こう。

「お前に関しての今後の対策は、ギルドの本部に着いてからゆっくりと話し合おう」

 そう告げた後、オリオールさんは少し表情を緩めて言う。

「だが、レミアのその服、似合っているぞ」

「大きなお世話です!」

 俺は馬上のオリオールさんに向けてぶすっとした顔をしてみせた。

 今の服装は、村娘風のワンピース姿だ。

 事件解決で得た金を持って、俺はもう一度、装備屋に向かった結果、主にミザリアの勧めもあって、こんな姿になってしまった。

 明らかに戦い向けではないので、ゴブリン退治直前に寄ったときはスルーしたが、あとは街道を通って町まで行くだけなので、レミアの露出度の高い服装よりは、まだましだと我慢した。

「くぁいいですよねぇー。お人形さんみたいで、似合ってますっ!」

 ミザリアが興奮気味だ。ていうか、キャラ変わってないか?

 くそー。町に戻ったら、貯めている金を全て下ろしてでも、オーダーメイドの服を作ってやる。

 堅くそう決心する俺の横で、クロードがいつものように柔らかな口調で言った。

「それじゃあ、のんびり行きますか」

 その言葉に俺とミザリアはうなずき、プーシの町に向かって歩き出した。



またまた更新の間が開いてしまい、申し訳ありませんでした。


話的にはこれで、第一章が終わりです。

一章・二章といっても章ごとに内容が劇的に変わる、というわけではありませんが、ひと段落、といったところでしょうか。


次章もなるべく早く更新したいと思っています。

よろしくお願いします。


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