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12、探し人


 草原をかき分けるように歩きながら、クロードがミザリアに話しかける。

「へぇ。じゃあミザリアは一人で各地を回っているんだ。大変じゃない?」

「のんびり無理のないようやっておりますので。一緒の人が多いと気疲れしてしまいますので、逆に一人の方が気が楽なのです」

「うんうん。そういうの分かるな」

 おい、相棒。一緒に冒険してる俺の立場はどうなる?

 ていうか、一人の方が楽って、やんわり断ってるんじゃないか?

「ちなみに、彼氏はいる?」

「ふふ。ノーコメントです」

 ……何を聞いているんだか。

「あまり私に構ってばかりですと、レミアちゃんがむくれちゃいますよ。ほら」

「なっ、べ、別に関係ないし、むくれてなんかいないしっ」

「あらあら、照れちゃって。可愛い」

 うーっ。やっぱりミザリアは苦手だ。

 まったく、これじゃまんまテンプレのツンデレ娘じゃないか。言っていることは事実なのだが……頭が痛い。やっぱり黙ってることにしよう。

「……おい、ライア。あまり人の恋路を邪魔しないでよ」

「……何が恋路だ。おい」

 ――やっぱ、恋人のフリして邪魔してやろうか。

 それにしても、二人の話を聞いていても、うまく話をはぐらかしているのか、いまいちミザリアのことは分からない。まぁ若い女が一人で冒険者やっているくらいだし、何らかの事情があるんだろう。

 と、そんな感じで歩くこと、どれくらいたっただろうか。

 青かった空の色が透明になり、徐々に朱色に染まり始めようかという頃、周りの地形が一変した。

 あれほど茂っていた草木の姿が消え、代わりに大小の岩がゴロゴロと転がった岩地へと様変わりしている。

「これは固まった溶岩ですね。はるか昔に、ローディア山が噴火したときの名残のようですよ」

「へぇ。草原の先に、こんなところがあるとはな」

 人間の版図など、世界中に目を向けたらごく僅かなものだ。まだまだ未開の地が多く、だからこそ俺たちのような「冒険者」という仕事があるともいえる。

 もっとも街道から歩いて1日程度の場所が、未踏の地ということはないだろう。俺が知らないだけで、ミザリアは知っているようだし。

「ローディアの溶岩ってことは、この先をまっすぐ行くと山まで行けるんだ?」

「はい。その前には、広大な樹海が広がっていますけれど」

「うわぁ……樹海までは行きたくないな」

 俺は顔をしかめた。

 せっかくあの森を抜け出したというのに、また逆戻りとは。仮にあの婆さんに会ったら、なんて言われるか。

 そんな俺を見て、ミザリアは微笑みながら言う。

「ふふ。魔法の反応はこの辺りにあったそうです。おそらく樹海まで行かなくても、なにかしら……ありそうですね」

「……ああ」

 声を潜めて、俺たちはうなずきあった。少し遅れて、クロードもそれに気づいたようだ。

 草原を抜けて油断したが、岩陰も隠れるには絶好の場所だ。ここがゴブリンたちのたまり場でもおかしくない。

 そしてその予想を裏付けるかのように、先にある岩陰から三体のゴブリンが姿を現した。

 俺たちは軽く距離をとって身構える。

 現れたのは三体。左右の奴は武器を携帯しているが、真ん中のは素手だ。いきなり襲いかかってくる様子はなく、他にゴブリンたちが潜んでいるような気配はない。

「何しに来た……人間よ」

 真ん中のゴブリンの発した言葉に俺たちは驚いた。人間と発声器官が違っても、しっかりと聞き取れる。あいにくゴブリンなんてみんな一緒に見えるが、偉い奴なのかもしれない。隣の奴らの武器も綺麗だし、護衛というところか。

「……ここはお前たちのテリトリーではない……」

「なら、人のいる街道まで出て来て、人間を襲っているのはどういうつもりなんだ?」

 俺が聞き返すと、ぎろりと眼球がこっちを向いた。

「エルフよ。……森を出て人と行動して、何のつもりだ」

 ん? あ、そっか。

 今の俺ってエルフだっけ。ゴブリンに指摘されて気づくのもあれだよなぁ。ちょっと自己嫌悪。

 えーと。ゴブリンとエルフって仲良いんだっけ? いや、たしか犬猿の仲だったかな。けれど、人とゴブリンが対立している状態なら、エルフな俺はむしろ中立の立場として、話しやすいかもしれない(さっきゴブリンたちに危害を加えてるけど)

 同じことを考えたのか、クロードとミザリアを見ると、俺に任せたって感じでうなずかれた。

 交渉事はいつもクロードに任せているから、慣れていないんだけどなぁ。さてどうやって話したらいいのか……なんて考えていたら、ゴブリンの方がそのまま話してきた。

「……先に手を出したのは、人間だ……」

「え?」

「……無力な子、力弱きものを、なで斬りにした……っ」

 俺たちは顔を見合わせた。この事件以前にゴブリンの討伐の話が出ていたとは聞いていない。

 ゴブリンたちが人を襲うようになってから俺たちに話が回ってきたのに、ゴブリンは先に手を出したのは人間だという。

「つまり、先に意味もなくゴブリンたちに手を出した迷惑な連中がいたってことかな」

 クロードはやれやれと手を広げながらため息をついた。

 彼の言うとおり、ゴブリンにとっても人間にとっても迷惑な奴だ。

「その者の特徴は覚えていますか? 何名くらいいましたか?」

 ミザリアが気後れした様子もなく、ミザリアがゴブリンに質問する。

「……白の鎧を身に着け、黒き斧を振るう男だ。人はそいつだけだ……」

 へぇ。そいつだけって、一人でゴブリンの集団とやり合ったって言うのか。無謀だけれど、それなりに腕は立つ人間のようだな。

「ねぇ、レミア。ゴブリンが言う白黒の装備って、妙に心当たりがあるんだけど」

 クロードが意味深な視線で俺を見ながら言った。

 ん、そういえば、白い鎧に黒い斧って、俺が使っていたものだよな……

 いや、まさか、な。別に珍しい色の組み合わせでもないし。

「その者は風の魔法も操った……」

 ほっ。

 どうやら勘違いのようだ。以前の俺は魔法なんてさっぱりだったしな。

 けど魔法が使えなかったわけではなく、興味がなかっただけだ。むしろアイツだとすれば、逆に魔法も操るのは自然なことで、その可能性が高くなるかも。

「ねぇ。その人間って、大体僕くらいの年齢で、背は頭一つ分くらい高かった?」

 クロードが自分を引き合いに出して尋ねる。

「……人の齢など見ても分からぬが、そのようなところだろう……背もおまえの言う通りだ……何を知っている?」

 ……何かこれって、イヤな予感が的中したのか。

 入れ替わって逃げられた「レミア」の手掛かりらしきものが見つかった。

 本来は喜ぶところなんだが、あまり嬉しくない。

 俺が真面目にエルフをやっているというのに、あいつ(レミア)は一体何をしているんだ。

「……そいつの首を持ってくれば、今回は手を引く……」

「それはできません」

 ミザリアがきっぱりと言い切った。少しほっとする。問題解決のためなら犠牲も仕方ありませんね、などと言われても困る。

「……ならば、お前らもろとも……人間を殺す……」

「ここで俺らを殺したところで、ギルドの討伐命令が強化されるだけだ。次々と腕の立つ戦士たちがここにやってくる。結局は同じだ。それにエルフの俺に手を出せば、他のエルフだって黙っていない……かもしれない」

 あの婆さんやレミアを見る限り、仲間意識は薄そうだよなーと思いつつ、一応エルフとして一言加えておく。

「……ならば、さらに殺すだけだ。他の村のものにも呼びかけてな……」

「ゴブリンは種族意識が高いとは言えないはずです。あなたの号令で、他のゴブリンたちが動くとは思えません」

「……試してみる、か……」

「あなただけでも倒すのは可能です」

 ミザリアがすっと服の中からタガーを取り出した。ボウガンだけでなく、接近戦もできるのか。

 俺もいつでも呪文を唱えられるよう精神を集中させる。

 両者のにらみ合い。

 折れたのは意外にもゴブリンの方だった。

「……ならば、首の代わりに、あの者が持っていた武器を持ってこい……」

「武器を?」

「……あぁ、我ら仲間の魂がこもった斧だ……」

 ずいぶん要求の難易度が減ったが、そういう考え方もあるのかな。ゴブリンの思想なんて知らないが。

「……分かりました。それで手を打ちます。でもすぐに、というわけにはいきません。それまでの間、無関係な人を襲わないでくれますか」

「……それは人間とて同じ……」

 ゴブリンの返答に、俺は冷静を装いつつ了承する。

「分かった。ギルドには事情を説明して、討伐隊の編成を止めさせる」

「……時間はあまりない。お前たちが、日が三回上がるまで戻ってこなかったら、また、人間を襲う……」

 俺たちは顔を見合わせて、うなずいた。


  ☆☆☆


「はぅぁ……交渉事は疲れますねぇ」

 岩場を歩きながら、ミザリアが脱力した様子で呟いた。

「いやー、でも格好良かったよ。ゴブリン相手にあそこまで交渉できるなんて、普通は無理だよ」

 クロードがそう言ってミザリアをねぎらうと、彼女は少しばつが悪そうに頭を掻いた。

「いえ。実を言いますと、あのゴブリンさんの話が本当なら、その人が私が探している人物のようなのです。ですので、首を差し出すのはちょっと困りますので」

「え?」

 俺は思わず聞き返した。

 てっきりゴブリンの話している奴は俺(中身はレミア)だと思っていたけれど、違うのか? 俺とミザリアに面識はなかったはずだし。

 いや、ミザリアは依頼主がどうこうって言っていたから、そっちが俺と関係する人物ってことかもしれない?

 そういえば、探知魔法とも言っていたし……まさか。

 なーんか嫌な予感がして、俺はクロードを見上げると、さっきのゴブリンのときと同様、彼も同じような視線で俺を見ていた。その顔にはどこか諦めのような雰囲気が漂っている。

 俺は恐る恐る、ミザリアに尋ねた。

「もしかして、その依頼主って、プーシの町のギルドで受付をやっている、リーニャという女の子だったりしないよな?」

「あら? お知合いだったのですか」

 俺たちはため息をついた。まさかの的中だった。




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