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1、プロローグ

地名・人名は音の感じで何となく選んでいますので、あまり深く考えないでいただけると助かります

 港町プーシ。

 海運だけでなく、東西に伸びる街道の要所でもあるこの街には、その地に住まう者以外にも、旅人や商人、冒険者など、さまざまな人物が行き交っている。

 そんな街の中心部から少し外れた、街道のすぐそばに、朱塗りの目に付く建物がある。プーシ冒険者協同組合――通称『赤のギルド』である。

 ここには一攫千金を狙う冒険者や腕試しをしたい人間が集まり、魔物関連のトラブルや、希少な鉱物・植物の採集、護衛などなど、様々な依頼が、一般人や同じ冒険者たちから持ち込まれている。

 今日も赤のギルドにはたくさんの人物が訪れていた。




「えぇぇっ。それじゃ、ライアを一人で任務に行かせちゃったんですかっ?」

 関係者以外は立ち入り禁止であるギルドの奥の部屋に、少女の声が響いた。声の主の名はリーニャ。年は17。ギルド本部に勤務する職員であり、有能な魔法の使い手でもある。

「……仕方ないだろう。慢性的な人手不足なのだから」

 ばん、と机を叩くリーニャの金切り声に耳を塞ぎながら、オリオールは面倒くさげに答えた。バスターソードの使い手として、若いころは冒険者として名を馳せて活躍した人物である。もっとも、その功績のせいでギルド内での地位が上がり、今では魔物や野盗ではなく、書類に苦しめられる日々が続いている。書類で埋もれた事務机に似つかぬ巨体の持ち主である。

 オリオールはため息をつきながら、机の上に手を伸ばし、一枚の書類を取り出した。

「これだな。依頼ナンバー31112『樹海に潜むエルフ娘の保護』。依頼主は同じエルフ族の老婆。孫娘が里から抜け出したので連れ戻すのを手伝ってほしい。娘は魔法を使うので、ある程度腕が達者なものが望ましい。捕まえることが出来るのなら、多少怪我は負わせても構わない――まぁ、やんちゃな娘なのだろうな」

 書類には老婆が描いたのであろう、保護対象のエルフの娘の似顔絵が描かれている。

 年は15,6くらいの少女だ。肩にかかる程度まで髪を伸ばしたなかなか可愛らしい容貌をしている。もっとも、人と寿命の違うエルフのことである。実年齢は、壮年のオリオールと同じくらいかもしれない。

 リーニャが机の上に手をついた状態で、ずいっとオリオールに詰め寄る。

「でも、広大な樹海の中から、たった一人のエルフを探し出すなんて、無茶もいいところじゃないですかっ」

 プーシの北には、ローディアという、大きな独立峰がそびえている。そのふもとは広大な森林に埋め尽くされており、その広さから「樹海」と呼ばれている。少なくとも一日や二日で、すべてを回りきれるような広さではない。

「その点は問題ない。依頼主の老婆にはある程度、その娘がどこにいるか感じ取ることが出来るそうだ。もっとも、それは娘の方も同様なので、依頼主が追おうにも逃げられてしまう。そこで、同族のエルフでない人の手を借りたい、とのことだ。依頼主は樹海で待っているので、それに合流すれば、娘を探す手間はさほどない」

 依頼は老婆からではなく、エルフの里に出入りしている商人から間接的に持ち込まれたものだった。すでに前金が大量にギルドに納められている。娘一人捕まえるだけの依頼としては、比較的割のいい部類に入るだろう。

「けれど、いつもライアと一緒にコンビを組んでいるお兄ちゃんは、今回は神事があって行けないというし……」

「クロードは、本職の神事があるようだな。まぁ終わる頃には、ライアが無事任務を終えているだろう。問題ない」

 リーニャの兄のクロードも、ライア同様、新米の冒険者だ。オリオールに比べたら、ライアもクロードもまだひよっこであるが、筋は悪くなく、それなりに様々な依頼をこなしてきた。今回も問題ないはずだ。

「でも……」

 まだ何か言いたげな様子のリーニャに向けて、オリオールはごほんと咳ばらいをする。

「それより、リーニャ、君にも仕事があるのだろう。こんなところで油を売っていていいのか?」

「……はーい。すみません」

 リーニャはまだ不満げな様子だったが、素直に頭を下げて執務室から出ていった。

「……ふぅ」

 静かになった部屋で、オリオールはいすの背もたれに大きく体重を預けた。

 こうやって依頼書を眺めたり、若い者と言い合ったりしていると、たまに自分自身で仕事に出たくなる。

 だがギルドを長い間、開けるわけにはいかないし、役職者として後進も育てなくてはならない。

 自分一人でがむしゃらに突っ走っていたころが一番楽しかったな、とオリオールは、任務に赴いたライアの姿を昔の自分に照らし合わせながら、物思いにふける。

 そして――仕事が文字通り山ほど残っていることを思い出して、再び大きく息を吐いた。



「……はぁ」

 部屋の中のオリオールと同じように、ギルドの廊下をとぼとぼと歩きながら、リーニャはため息をついた。

 彼女はギルドの受付業務と、マジックアイテムの作成を請け負っている。前線に出ることの多いライアやクロードと違って、裏方として冒険者を支えている立場だ。

 魔法の腕はかなりのモノなのだが、基本的に彼女が前線に出ることはほとんどない。ひたすら野外を歩き回り、着替えや寝床などの問題がある冒険は、彼女にとっては、あまり好ましくないものなのだ。

「……ライア。一人で大丈夫かな……って別に、心配しているわけじゃないけどっ?」

 誰もいない廊下で一人ツッコミをする。

 ライアは、兄の親友であり、リーニャにとっては年上の幼馴染である。それなりに戦いの腕が立つのは知っているけれど、どこか抜けているところがあるので、一人で任務に行かせるには少し不安がある。

「別に脳筋ってわけじゃないし、そこそこ頭もいいから平気よね? あいつ、暗記だって得意だし……戦いあまり関係がないけど」

 ライアの出発前には、彼が愛用しているハンドアックスに強化魔法を念入りに添付させておいた。対魔物には効果的なはずだ。けれど、それが維持されるはせいぜい五日程度。プーシの町から樹海まで、およそ三日かかるので、任務に対して効力を発揮できるのは、二日ほどだ。

 それまでに対象のエルフの娘を見つけられなかったら……? そもそも依頼主の老婆も、娘と同族のエルフというし、何か裏があったらどうするのか……?

「……ギルドに来た冒険者に、こっそりと様子を見てきてもらうよう、お願いしてみよっかなぁ?」

 ギルドの職員が個人的に冒険者に依頼する行為は、本来禁止されているのだが、そんなことをぼそりとつぶやきながら、リーニャは職場へと戻っていった。





不定期更新の予定

結局行き当たりばったりで投稿してしまいましたが、エタらないよう頑張ります

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