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8.0

†††


・・・・・・おーい!静!大丈夫か!


闇の奥からちろちろとした弱い光と声が聞こえる。


「・・・・・・ああ、うぅ・・・・・・ぐううぅぅ・・・・・・!」


静は安堵のあまりその場で泣き崩れてしまった。


†††


「ふう、大丈夫か?」

しばらくしてようやく静の元に来た渡は懐中電灯で静の顔を照らしながら言った。

「大丈夫よ・・・・・・。・・・・・・まぶしいからそれやめて」

静は真正面からの高出力の光の攻撃に耐えかねて苦情を言った。実際は泣き顔がばれるのが嫌だったのだが。

「・・・・・・わかった」

渡は静の泣き顔に気づいたのか気づいてないのか素直に電源を切った。

闇が二人を包み込んだが、もう静はさきほどまでの息の詰まりは感じなかった。


「立てるか?」

「ええ」


†††


渡が懐中電灯を持って少し静よりで足下を照らしながら二人は並んで歩いていた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

渡が足下の大きな木の根を慎重に越える。おろした足の先に腐った木があって踏んだ拍子にずぼっと渡の足がめり込んだのだが渡は何とか踏みとどまった。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

静の頭が木の枝に当たり、静の眉が不機嫌そうに上がる。

「・・・・・・」

「・・・・・・ねえ」

静が視線は足下に落としたまま、歩きながら、言った。

「ん?」

「ありがとうね、助けに来てくれて」

少し早口気味だったが静は礼の言葉を述べた。

「・・・・・・」

渡は立ち止まってしまった。

「・・・・・・何よ、なんか言いなさいよ」

「あ、いや、何でもないよ」

静は懐中電灯を持っていなかったので目の前の男の表情を見ることはできなかった。

渡が歩き出す。二人は並んで歩きながら話をする。

「以外だよ。お前が礼を言うなんて。びっくりした」

「今まで言ったことなかったっけ・・・・・・」

静はしみじみとこの十日ほどの出来事を思い出す。長いようなそうでもないような。

「まあ、今度ばかりはさすがにあたしも・・・・・・ね?」

静は最後までは言えなかった。

「感謝の言葉・・・・・・か」

静の隣で渡が低い声でぼそりとつぶやく。拾ってほしい言葉だったのだろうか、と静が思うとほぼ同時に、

「まあ、感謝しろよな。俺がいなければ遭難してたぞ?」

顔を見なくてもわかる。この声色は明らかに憎たらしい顔をしている。普段なら一発いっているところだ。今は懐中電灯が大事なのでやらないが。

「ふん、わかってるわよ」

そう言って静は少し下を向く。まあ、見ないと森なので本当に危ないから基本的に下は見ているのだが、精神的に少しうつむいた。

「・・・・・・本当にありがとうね」

渡はどうしていいかわからなかった。だからちょっと笑った。

「いいって。本当にどうしたんだよ。らしくない」

「・・・・・・あたし、あんたは来ないって思ったの」

今度は静が立ち止まり、渡の顔を見る。しかし、互いに顔は見えない。闇の中ただ懐中電灯の明かりは地面を照らすばかりだ。

「本当に怖くて、不安で・・・・・・。誰にも気づかれずにそのまま死んじゃうんじゃないかって、あんたは気づいても助けに来ないんじゃないかって、思ったのよ」

静の声は少し震えていた。

「それで、だから・・・・・・」

「もういい」

なおも何かを言いかけた静を渡が低く短く遮る。

「もういい。お前は助かったんだ。俺は来ただろ?俺はお前の不安が作り上げた幻想とは違う。俺はもっと男前なんだぜ?」

渡は柔らかく笑う。

「さっきまでのお前はちょっと・・・・・・異常な、いや、なんだろ・・・・・・まあ、異常な状態だったんだ。そんなときに俺のことを悪く思ったからって俺は別に全然かまわない。なんてったって」

静は目の前の渡の表情を見たいと思った。

「いつも扱いもっとヒドいじゃん?」

いひひ、と渡の口からあまりよろしくない音が漏れた。

ふふっ、と静も笑う。

「そうね。いつももっとヒドいわね」

「だろ?だからさ、」

渡が手を大きく広げる。光が森の中をひゅん、と走った。

「もう気にすんなよ」

「うん」


†††


「あたし、やっぱりあんたにちょっときつく当たりすぎてたわ」

渡はまだ言ってる、という顔をした。もっとも見えやしないのだが。

「いいって、もう。俺は厄介な居候の身なんだ。当然だよ」

「・・・・・・そうだけど」

そこで、ああ、と静は何かひらめいたみたいな声を出した。

「どうした?」

「あたし達・・・・・・」

静は深呼吸した。

「友達になりましょう!」

途端、ぼきっ、と渡は足下の枝を踏み抜いた。

硬直する渡。見えないが自信たっぷりに何かすごいこと言ったぜ、みたいな顔してふんぞり返る静。


「ああ・・・・・・?何・・・・・・?友達・・・・・・?」

「そうよ!」

元気いっぱいに静が言う。

とりあえず歩こうか、と渡が促し、二人はまた歩き出す。

「なんで友達?」

「友達だったら対等じゃない?対等な者同士なら互いに尊重するでしょ?そうなれば、」

静が一瞬渡を見る。歩きながら。

「あんたにきつく当たらなくなるかも」

「関・・・・・・。ん?」

感動した渡だったが、がきっ、という異様な音に反応した。

隣で静が転んでいた。

森でよそ見はやめよう、と静は誓った。


†††


「どうしてもきつく当たっちゃうのよ。あんた見てると」

「友達云々よりも性格から変えたらどうだ?」

「うるさいわね」

森で転んだ静だが、ついに足までくじいてしまった。

ので。

「ふう・・・・・・。ええと別に居候のままでいいんじゃあないのか?ダメなのか?」

静は渡におんぶされている。無論お姫様の方・・・・・・ではない。

「だから、それだと対等じゃないからまた同じことの繰り返しになるのよ。あんたは友達、ともだち、トモダチ・・・・・・と暗示をかけてね、」

「暗示が必要なレベルなのかよ・・・・・・」

「絶対ね」

静が上を向く。あまりやるとまた枝に当たるのに。

「・・・・・・もう、あんたに当たりたくないのよ」

「・・・・・・」

渡は黙っていた。静のその言葉と声色にどのような言葉をどのような声で返せばいいのか見当がつかなかったからだ。おんぶで疲れてる、忙しい、と見せかけようと静を背負いなおした。

「いつもいつも何の文句も言わずにご飯だの洗濯だの、用意してくれるあんたに八つ当たりなんてしたくないのよ。だからさ、」

静は渡に背負われながら、言う。

「・・・・・・友達になってよ」

ほう、と渡はため息一つ、吐き出した。

「いいよ」

 

†††


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