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7.0

†††


もう一体ここがどこなのかとか、どのくらい歩いたのかとかいった感覚はもう全く無かった。ただ怖かった。怖くていてもたってもいられなくてダメだってわかっていたのに動き回ってしまった。

辺り一面が闇だ。明かりなど一切無い、闇。


怖い。


子供の頃寝るときに、寝室に行くために二階に上がらなくてはならなかった。そのときに上る階段の電灯がいつも切れかけで、薄暗くて、今にも闇から何かが飛び出してきそうだった。

そんな恐怖。


もうあたしは子供が暗がりを怖がっているからって笑ったりできないな。


!!


・・・・・・木の根か何かに転んでしまったようだ。地面に顔面を打ちつける前に手をつくことはできたけれど手を痛めてしまったようだ。捻挫したような痛みがある。割とひどい。

そりゃあ、何度も何度も転んでればいつかはこうなるわよね。

そう思って静は自嘲気味に口元をゆがめた。


・・・・・・今度こそ座るしかないかしらね。また転んだら本当に手を痛める。

座っても濃い闇が静の周りを周りを覆っていることには変わりない。

一度立ち止まると、耳鳴りするほどに静寂を感じた。自らの呼吸、脈拍、骨が軋む音が聞こえる。

圧倒的なまでの密度の闇が暴力的な静寂を伴って静の心を殺しにかかっていた。


†††


・・・・・・あたしはまた戻れるかしら。このままこの森の中で誰にも知られずにゆっくりと死んでいくのかしら?


ふと静の心の中に渡のなぜかちょっとえらそうで少しうざいと思ったときの顔が浮かんだ。


・・・・・・癪に障る顔ね。たしかあいつあたしのいるところがわかるのよね。なんか魂がどうとか言ってたし。じゃあ、あたしを見つけてくれるかしら。


闇が静にささやきかける。


・・・・・・甘いよ。


†††


ぞっとした。闇の濃さが増した。奥に何かがいる気がした。


・・・・・・あいつが来るか?お前を助けるために?


・・・・・・来る、わよ。


・・・・・・理由は?


・・・・・・ない、けど・・・・・・。あいつはお人好しだし・・・・・・。


闇が低く嗤った。


・・・・・・無い!無いけど助けに来るか!お人好しだから!


・・・・・・。


うっすらと、だが強く感じる怒りを、しかし、静は表に出さなかった。


・・・・・・お前はあいつにとっての何だ?よく考えろ。お前は何だ?


・・・・・・宿主。あいつはあたしの家に住まわせてもらってる。


・・・・・・そう。お前がいなくなっても何も困らない。


闇は静に鈍く、鋭い刃を突き立てた。


・・・・・・そんなこと、ない、わよ。


・・・・・・本当に?


・・・・・・・・・・・・ええ。


闇が静をじっとりと見つめる。


・・・・・・本当に?お前はあいつにとって必要な、なくてはならない人間なのか?


・・・・・・それは・・・・・・。


・・・・・・お前はあいつに冷たく接してきた。ただの同居人、あるいはそれ以下として。そのことをあいつはどう思っているだろうな。


・・・・・・もういい。


・・・・・・ん?なに?何だって?


闇が再び笑みを漏らした。


・・・・・・もういいって言ったのよ。


・・・・・・ふふふ。そう怒るな。じゃあ、話題を変えようか。


・・・・・・え・・・・・・?


・・・・・・お前は親不孝ものだなぁ?えぇ?


静は凍り付いた。


・・・・・・ろくでなしの父親が出ていってから、身よりのない身でずうっと女手一つでお前を大切に育ててくれた母親。可哀想だねぇ。そうは思わないか?


静は何も言えなかった。頭が真っ白になるほどの怒りと心を黒く染め上げた絶望の狭間で言葉が出なかった。




・・・・・・一日中汗水垂らして身を削るようにして、だーいじに、だーいじに育ててきた我が子はこんなところで野たれ死に。それを知ったときの母親の顔を拝んでみたいねぇ!どうだい?


闇は静を殺しきった。


















だが、それは、否だ。



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