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誰かに鬱陶しい程愛されたとしたら、私はどのくらい幸せを感じるのか



そう考える時がある、

が実際にはそんなことを夢見る資格はない。

私はどうやら、一定の距離以上に踏み込まれるのは受け付けない人間らしかった。


それなのに1人にされるのは嫌がる。自分で距離を置いたくせに、なんともまぁ身勝手だ。







誰かに愛されたい。


愛されて愛がなんなのか教えて欲しい。


そういう目に見えないものは、ヒトが創り出した幻想ではないのか。










雨が上がった後の早朝が好きだ。



雨の匂い。湿った土と草花の香り。小さい頃、夏休みを使って祖母達と泊まった別荘を思い出す。私は典型的なおばあちゃんっ子だった。この歳になると毎日が忙しなく過ぎていく。もう何週間も会っていなかった。


月曜の放課後。午前中は厚い雲に覆われながらも泣くのを我慢していた空は、夕方になると痺れを切らしたように降り出した。


面倒臭がりな私のリュックにはいつも折り畳みが入っている。リュックから出すのが面倒臭い、というよりも入ってること自体を忘れているのだが。荷物になるだけだと、入ってることに気付く度ため息をつくのが今日は違った。



ボキッ。

鈍い音とともに


ーあっ...。


小さく零れた声に振り向く。

ワインレッドのセーター、片側にかけられた見慣れた鞄。帰宅組が帰るには少々遅く、部活組が帰るには早い放課後の昇降口には雨音が響いて騒がしい。





騒がしい。




彼には少々小さい水色の折り畳み傘は、枝の部分が見事に取れていた。


「なっ、!」


いったい何をどうしたらそうなるのか、あまりにも想定外過ぎる惨状に思わず噴き出す。


衝撃的瞬間をしっかりと見られたことに気付いた彼は罰が悪そうにした。


「なんか...取れた。」


そう呟いた彼と一瞬目があったら後で、限界だった私はとうとう顔を覆って大きく笑い出す。


どうしてそうなるのっ、と声にならない声を絞り出しながら少しも躊躇わない私に、眼鏡の奥のひとみがむすっとする。拗ねたように唇が少しとんがった気がした。



切れ長の目と寡黙な性格のせいで怖がられる彼がたまに見せるギャップを知る者は少ない。皆が怖いと恐れる彼を初めて見たとき、私は何故か可愛いと思った。素っ気ない態度が照れてるように見えたのだ。



二つに別れたブツを見つめながらこのピンチをどうやって乗り越えるか考えているらしい。彼の視線が厚い雲に注がれた。


「良かったら使って下さい。」


手にしていた傘を手渡す。彼に向けたそれは少し小さく感じたが、無いよりはましだろう。


折り畳みあるんで。

そう言うと彼は、驚きながらも申し訳なさそうに口を開いた。


「じゃあせめてそっちで」

そう言って手を出す先にはカエルの頭が先についた私の折り畳み傘。


女性用のカエルは、流石に男の人が使うには小さ過ぎる。





「カエルの頭がもげたら大変だから。」

「!?」



もう忘れて欲しいとばかりに両手を挙げてお手上げポーズの彼の腕に長い傘をかけてカエルをひらく。





やっぱり雨の日が好きだ。







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