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状況整理

コンナに付いていくがままに案内された先は、一つの建物の中にいくつかの部屋が集まったマンションと呼ばれる小さな集落だった。

その一つの部屋を開けると、そこに入っていくコンナ。


「靴脱いで入れよ」

「脱げばよいのか?」


言われるがままに靴を脱いで部屋に入る。

中は小さな作りになっていて、我が入るような場所ではなくとても貧相な作りになっていた。

コンナは持っていた布製の袋を寝床に放り投げると、その袋の横に座った。

どうやら寝床だと思っていたが、椅子だったようだ。我が使っているベッドによく似ていたので寝床かと思ってしまった。

我もコンナに続いて横に座る。


「なんでお前までここに座るんだよ」

「ん? ここは椅子ではないのか?」

「ちげーよ! どう見てもベッドだろうが! お前はあっちのクッションにでも座ってろ!」


そう言って床に置かれているクッションと思しき布に座るよう命じるコンナ。

どうやらベッドだと思っていたものはベッドだったのだが、文化の違いでベッドは寝るところであり座るところだそうだ。椅子とベッドを兼用しているとはなかなかに貧相なのだろう。

それにしてもこのクッションというのは背もたれが無くて座りにくい。

もしやこの世界では、このクッションというもので客人の人間性を判断しているのか?

だとすれば我がとやかく言うのは無礼に値するということになるのだな。おとなしくしていよう。


「さてと。じゃあ状況整理をするか」

「・・・そうだな。それは我も賛成だ」

「よし。まずお前は誰なんだ? もうウインナーみたいな名前だって言うのは疑わねぇよ」

「ウインナーというのはやめてもらいたい。我はアルト・バイエルンだ」

「はいはい。アルトって呼んでもいいか? お前とか呼んでいちいち『我に対して!』とか言われるんじゃ話進まないしな」

「うむ。許可しよう。助けてもらった恩もあるしな」

「次はそこだよ。助けてもらったってどういうことなんだよ。俺らから見ると、お前は道端で横になって寝てたんだぞ?」

「寝てた?」

「横になって気持ちよさそうに寝てた」


ふむ。どうやら滅びの穴を通った後に、意識が無くなったのと原因がありそうだな。


「我は突然現れたのか?」

「突然っつーか・・・気がついたらあそこにいたって感じ」

「滅びの穴は魔法の効力でもあるのだろうか・・・?」

「滅びの穴? 魔法? 何言ってんだ?」

「む?」


コンナが不思議そうな視線を向けてくる。

我は何か変なことでも言ったのだろうか?


「なんだ?」

「滅びの穴とか魔法ってなんのことだ?」


そういうことだったか。

我は滅びの穴のことを説明した。

ここは我のいた世界と違って全く別の世界であることがわかった。

滅びの穴は存在していない。

ここは日本という国で、地球という惑星にある小さな国の一つだそうだ。

そしてもう一つ。

この世界には魔法は存在しないそうだ。


「魔法って・・・さすがにそれはおかしいだろ。マジシャンかなんかなのか?」

「マジシャン? 我は国家魔法士と呼ばれている」

「魔法士? じゃあなんかマンガとかみたいに手からビームみたいな事ができるのか?」

「ビーム? ビームとはなんだ?」

「あー・・・じゃあ瞬間移動とか出来るのか?」

「移動魔法か? できないこともないぞ」

「マジで!?」

「だが、移動先の状況を把握できないと移動できぬ。意味がわかるか?」

「なーんだよ。わかるよ。俺だって馬鹿じゃねぇ。つまりどんな場所かわからんところにワープはできないってことだろ」

「そういうことだ」


意外と順応性があるのか、コンナはあっさりと理解してくれた。

話と理解のスピードが早いのはとても助かる。

我も今の状況を整理するので一杯一杯なのだ。


「なんか今すぐ出来そうな魔法とか無いのかよ。一応アルトが言ってることを信じたいんだよな」

「信じるか・・・」


この男はこんな初対面の我を信じたいと言うのか。

これは期待に答えたいな。


「何か書くものはあるか?」

「紙とペンってことか? ほい」


コンナから受け取ったのは、大半を透明な筒で覆われている謎の細長いものと、綺麗な白い薄い用紙だった。

この謎の物体はともかく、こちらの用紙は素晴らしい技術だ。

我の国にも一応用紙はあるが、ここまで綺麗な白は出せていない。

こちらの世界の技術は我の国よりも優れているのか。

魔法を使えない分技術で補っているというわけか。


「コンナ。これはなんだ」

「これか? これはボールペンっつてな、ここを押すと」

「おっ!」


上についている突起物を押すと尖った部分が下から現れた。

コンナの説明によると、この中の細い部分にインクが入っているらしい。


「そんでこれで紙に書けるんだけど・・・アルトの世界には無いのか?」

「無いな。このボールペンなんてものは我の国の技術では作れぬ。筆とインクが必要だ。それにこの用紙も美しい。ここまでの白さは我の国では出すことはできない色だ」

「ふーん。まぁそれはとりあえずいいや。で、なにするんだ?」

「魔法だったな。我の得意とするのは地図を描くことなのだ」

「地図? 意外と地味だな」

「地味だとっ!?」


この世界では地図を描く事が出来るのは普通だというのか?


「まぁいいや。描いてみろよ」

「ふん。では大人しく見ておれ」


我は机の上に横たわっているボールペンに力を込める。

そして目を閉じて、その暗闇に意識を集中させる。

するとだんだんと頭の中にここの周囲の景色が浮かび上がってくる。

そこでボールペンにさらに力を加える。

頭の中に描いていたイメージ通りの物が紙の上に描かれていく音を耳にする。

とりあえずそれなりに描けたところで目を開く。


「どうだ?」

「いや、これスゲーよ。売り物にしたら結構行くんじゃね?」


どうやら我ほどの地図を描ける者はいないようだ。

紙に描かれているのは、ここから半径5kmを空から見た風景だ。たった今の状況を空から見下ろした時の地図だ。


「お前、だって今いる人の位置まで描けるとか反則だろ。これじゃもう写真だよ」

「写真?」

「まさにこれのことだよ。まぁ写真は自分で撮りに行かないといけないけどさ。いくら白黒だったとしてもこれはすげーよ。魔法の話は認めるわ」


どうやら写真というものといい勝負だったそうだが、我の魔法を信じてくれたようだ。

少し写真というものを見てみたい気もするが今度にしよう。今はそれよりも大事なことがある。


「それは良かった。ありがとうコンナ」

「でもなんでこんな魔法あるんだよ」

「このぐらいわからないと戦争の時に不利ではないか?」

「戦争・・・」

「戦争は知らないのか?」

「いや、知ってるよ。知ってるだけで、この世界にはほtんど無いよ」

「戦争が無い?」


これは驚いた。

戦争がない世界があるとは・・・

我の国はいつも近隣諸国から戦争を行なっていた。

相手の陣形を知るためには、この地図を描く魔法は必要不可欠なのだ。

だから国家魔法士の試験にも、この地図を描く魔法は必ず入っている。


「まぁほとんどな。少なくとも日本では無いな」

「それは驚いた。だから魔法を使えなくても不便では無いのか」

「たしかに不便では・・・」


ピーンポーン


「な、なんだ?」

「あー、誰か来たわ。ちょっと待ってて」


どうやら呼び鈴だったようでコンナは玄関へと向かった。

うかつだった。まさかあんな音のする呼び鈴があるとは。必要上に慌ててしまった。我もまだまだというわけか。


「なんだお前かよ。今日は客が来てるんだ。帰ってくれな」

「客? 健太に客って誰? まさか女の子連れ込んでるんじゃ・・・」

「ちげぇって」

「誰と話しているのだ?」

「お前はしゃべんな!」

「外人さん?」


するりとコンナの脇の下をくぐり抜けてきた女性は、我に向かって歩いてきた。

その顔を見て我はとても驚いた。


「アイリス・・・アイリスではないか! こんなところで何をしているんだ!」

「へっ?」

「アルト?」


我の目の前に現れた女性は、我の従姉妹のアイリス・マドリードだった。

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