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山粧い、九月に沈む

ジャンルが文学で大丈夫か少し微妙ですが…

楽しんでいただけたら幸いです。

そして、文章力に不安がありますので、イラッとさせてしまったら申し訳ございません…

 先生はとても穏やかで優しい人である。それと同時にとても深い闇を持ち、他者を踏み込ませる場所を限定していた。



 1

 私が先生と出会ったのは、私が十八になって少しした頃である。

 先生は小説家で、よく私の働く図書館へ通っていた。先生は私とは違う世界を生きる、とてもすごい人、という印象を持っていた私は特に話しかけることもせず、しかし気付けばいつの間にか目が先生を追っていた。先生は私の目線の先に気付いていたらしく「いつもどうしようか困っていました」と後になって教えてくれた。

 お互いに声をかけることはなく、しかしお互いを意識したままの微妙な関係はしばらく続いた。それを打ち破ったのは、先生の弟の存在だった。


 薫という名のその人は私の従姉の婚約者で、私とも仲がよかった。

 その日は、婚約者へのプレゼント選びに付き合わせたお詫びと言うことで、私は薫さんの家に招待されていた。そこの玄関先で、どうやら図書館へ出掛けようとしていたらしい先生と鉢合わせた。そこで初めて、先生と薫さんの間柄を知る。

 私と先生との交流はこうして始まり、私は先生の原稿を一番最初に読み、批評をする事で先生の仕事を手伝うようになった。



 2

 共に過ごす時間が重なれば、先生は口数が少ない人だということはすぐに分かった。外出をあまり好まないが一週間に一度だけ図書館に通うこと、甘味が好きで、執筆が波に乗った時は部屋に篭りっきりになるということも。

 私は、今まで知らなかった先生の一面を知るたびに嬉しくなった。それと同時に、もっと知りたいという欲求が強くもなった。この頃から、私は先生に引かれ始めていることを無意識に自覚していたように思う。

 私と先生の交流が始まってから二年が経とうとしていた。


 先生への恋心を自覚してからは先生の事が今まで以上に目に付くようになった。そのうちに気付いた。

 私が知ることは、先生の名と仕事と、日常生活に関する事のみであり、先生という人物の中身を何も知らなかった。

 気付いてしまうと知りたくなる。しかし、先生は自分の事について語ることは絶対にしなかった。私が聞いても、上手い具合にはぐらかす。丁寧な口調で「ご想像にお任せしますよ」と言うばかりだった。

 そして、もう一つ知ったこと。

 先生は外出が好きではない。しかし、九月の間だけは毎日欠かさず夕方の散歩に出掛ける。付いて行かせてもらえた事はない。行き先も教えてもらえない。

 こうまで隠されてしまうと、余計に知りたくなった。

「先生は、毎年この時期に何か大切なことがあるのですか」

 一度、思い切って尋ねてみた。知りたい、と思うことをとめられなかった。

 先生は「…そうですよ。ですが、それを貴女にお教えすることはありません」と穏やかに笑いながら、しかしきっぱりと言いきった。



 3

「あの人が人生全てを捧げたいと想う女性(かた)が眠る月ですよ」

 そう教えてくれたのは薫さんだった。

 先生に断られてからも、九月の謎は私の心を占め続けた。結局耐え切れなくなり、従姉との生活を始めた薫さんの元を訪れ、言い渋る彼から無理矢理聞きただした。

「全てを捧げる…」

 その言葉に大きな衝撃を受けた。薫さんはそんな私を困ったような、哀れんでいるような複雑な表情で見つめていた。

 それでも知りたいという欲求に逆らわず、薫さんにたくさんの質問をした。彼は諦めたような顔でたくさんの、先生が秘密にしているであろう事を教えてくれた。

 そして、私は全てを聞かなかった事にした。私達の関係が崩れることを恐れたから。


 それ以降も私と先生の関係は相変わらず、良好に続いているように見えた。



「紘子さん」

 呼ばれ、執筆中の先生がいる書斎を訪れた。

「貴女は、知ってしまったんですね」

 瞬時に表情がこわばった。凍ったように体が動かない。先生は、何を、とはいわなかった。だが、お互いに充分理解していた。

 なぜ? どうして知っていのか。そういった疑問だけが頭をよぎる。 

 何とか口を動かし、謝罪の言葉を述べようとしたが、先生がさえぎった。

「別に構わないのですよ。貴女にお教えできないとは言いましたが、詮索を禁じた覚えはありませんし、全てを知る者へ口止めをしたわけでもありませんから」

 いつもどおり穏やかな笑顔で、穏やかに言葉を紡ぐ先生は、いつもと同じではなかった。それが何だったのかは分からなかったが、私を言いようのない不安が襲った。

「初めから、貴女が何とかして知ろうとすることは分かっていました。そして禁じることなど何の意味もなさないということも。秘密とは、わずかな隙間から水のように流れ出ていくのです。だから私は私の意志だけを伝えたのです。貴女を責めるつもりはありませんよ。人とはそのように出来ているのですから。禁じられる、否定される。そういったモノに敏感で臆病な生き物です。同時に、好奇心が強く、反発心が強い生き物でもあるのですから」

 私はなんともいえない気持ちで先生の言葉に耳を傾けた。

 先生は淡々と語った。その言葉には人間に対する不信や非難がこめられているような気がした。

「だからこそ、私は誰も責められないのです。人間とはそういう生き物であり、私自身もその人間であるから」



 4

 だからこそ、私は誰も責められないのです。人間とはそういう生き物であり、私自身もその人間であるから



 その言葉は、自嘲の響を持って私に届いた。

 先生は優しい笑みを浮かべている。その中にほんの少しの悲しみを宿して。

 私は「すみませんでした」と小さく呟き、書斎を後にしようとした。

「私は、恋情は人間の感情の中で最も美しいものの一つだと思っています。性的欲求であることは否定しませんが、世界中でただ一人だけを想う人間の姿は美しい。しかし、同時に最も危険な感情であるとも思っています。恋情とは、己の理性をいとも容易く凌駕し、自分でも想像できないほどの行動力を生み出します。そこに相手の意志は考慮されません。恋情とは相手の心を知りたいという究極の知識欲であり、魂までも掌握したいという独占欲です。それは、時に思いもかけない結果をもたらします。相手の命を奪ってしまったり、相手の精神を追い詰めてしまうような狂気の愛…」

 私は先生を振り返った。先生は「恋情はとても尊いものですよ。時が来るまで大切にしまうといい」と言うとにこりと笑って私に背を向けた。

 私は何も言わずに書斎を後にした。


 先生は、私の恋情に気付いていた。そしてあの時、私に対して失望も感じていたのだろう。それだけは辛うじて理解できた。

 しかし、愚かな私はそれ以上の事を感じ取ることが出来なかった。

 今となってはもう知ることのない先生の感情。あの日、確かに先生は私に感情を見せたのに。



 

「彼は、貴女に懺悔したかったのだと思います」

 二人で先生の眠る地を訪ねた際、馨さんは言っていた。

 でも私は違うと思った。

 先生は、許しを求めていたわけではなかったのだと思う。



 5

 私と先生のやりとりから二日後、先生は書斎で首を吊っていた。

 書斎の机には、先生が最後に執筆していた短編が残されていた。

 タイトルは、九月の乙女、恋情の墓。

 小説家、暮日悠(くれびはるか)の遺作として大いに話題になった。



学生の頃、授業で夏目漱石の「こころ」を読みました。

ものすごく影響を受けた状態で書いていました。

今となって「こころ」の中身もうろ覚え過ぎですが……。


ファイルを整理していたら出てきたので乗せてみます。

ちょっと文章力があまりないため、意味不明なところもあるかと思われますが、ご容赦頂ければと……汗

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