お菓子な国
ラムスと名乗る男性が出ていった数分後、再び扉が開き・・・違う人物が二人、入ってきた。
薄いクリーム色の髪が綺麗な少女と、チョコレートのような黒がかった茶色の髪が素敵な少年。
少女の方は10歳前後で小柄、少年の方は美咲と同い年くらい。
二人はこちらを窺うようにして立ち止っていたが、やがて少女が瞳を輝かせてこう言った。
「わあぁっ、本物だぁ~っっ!!」
・・・・・・?
美咲は状況が掴めなかった。
ラムスのさっきの慌てようといい、この少女の喜びようといい・・・
自分は何かとんでもないことをやらかしたのではないだろうかと思い、それを告げようとした―
その時、ずっと無口だった少年が口を開いた。
「君さぁ、どこから、どうやって来たの?」
美咲は何も言えなくなった。
わからないからだ。
自分が、どうしてここにいるのか、どのようにしてここに来たのか、何故こんなにもここの人達から恐ろしがられ、珍しがられているのか・・・
「お姉さん、顔色悪いよ?大丈夫?」
先程の少女が目の前にまで来ていて、美咲を見上げていた。
確かに、自分の手を見ると血の気は失せていて、顔や首筋には冷や汗がつたっていた。
「あたしねぇ、ミルって名前なの」
いきなりではあったが、軽い自己紹介をして、柔らかく、ミルは笑った。
「こっちの子はね、ビートっていうんだ」
茶髪の少年を指差して、言った。
「わ、私はっ・・・」
「・・・香坂美咲」
美咲は驚いて顔をあげた。
茶髪の少年・・・ビートは持っていた本を読みながら、顔色一つ変えずに言い当てた。
「・・・っ、そう、私は香坂美咲って名前」
「じゃあ、美咲お姉さんだね」
ミルは、ビートが名前を言い当てたことを気にもせず、先ほどと同じく柔らかい笑みを見せた。
この様子から、あの少年が名前を言い当てることは日常茶飯事なのではないかと思い、美咲も出来るだけ気にしないようにした。
「・・・・・・うん」
美咲には、ミルのような『お姉さん』と呼んでくれる存在が居なかった。
だからなのか、嬉しい半面照れくさくもあった。
「・・・それで、君はここがどこかわからないんだよね?」
ビートは本から顔をあげ、美咲に確認した。
「うん」
「ここはね、君も知らない・・・国みたいなものさ」
「国・・・」
美咲はどう反応していいかわからず、ただオウムのように単語を繰り返した。
「・・・そう、わかりやすく簡潔に言うならば・・・」
もったいぶったようにビートは言った。
「ここは・・・お菓子の国だよ」