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足音が聞こえない

作者: WAIai
掲載日:2026/07/12

下校途中、俺と彼女は並んで歩いていた。

しかも仲良く手を繋ぎながら。


色んなことを喋っていく。

学校のこと、友達のこと、授業のこと…。


俺の顔がとろけるように、優しいものとなる。

まるでライオンがメスを毛づくろいするような、そんな恋愛感情。


俺は彼女の話を、ふんふんと聞いていたのだった。


するとその時、

「え…」

俺は思わず口に出し、すぐに閉じる。


前から来た黒ずくめの男性がこちらに近寄って来るのだが、足音がしないのに気づく。


俺は耳がいいので、まさか足音が消えているなんて、初めてのことだった。


しかも殺気を抑えているらしく、今のところは大人しいシャチみたいに、堂々と歩いてくる。


「どうしたの?」


彼女が急に足を止めたのにびっくりしているので、俺は彼女を守ろうと前に出る。


じっと男性を見つめること、数秒。

長い時に感じられ、汗をかいてくる。


ライオンがシャチに狙われているような、そんな危機感をもつ。


男性はちらりとこららを見たので、俺は見ないつもりで流す。


男性はふいと目を背けると、行ってしまう。


彼女は心配するように、袖を引っ張ってくるが、俺は手を叩いて安心させる。


ちらりと振り返ると、男性はもう姿を消していた。


俺は唾液を飲み込むと、安堵の息を吐き出す。


それから顔を押さえると、彼女に言う。


「今の人について言うなよ」

「…え? どうして?」

「どうしてもだ、もしかしたら…その」


俺が言おうかどうしようか迷ったが、彼女が不安そうに腕を掴んでくるので、小声で言う。


「足音がしなかった。もしかしたら…暗殺者かもしれない」

「え…!?」

「しっ!!」


俺は周りを警戒し、視線を素早く走らせる。

ライオンがメスを大事にしようとしているみたいに、まだ身体が緊張状態にあった。


彼女は口に手を当てると、小声で言ってくる。


「分かった。内緒にする」

「おう。お前を信じる」


ぎゅっと手を握ると、力が返ってくる。


彼女を不安にしてたまるかと、俺は明るく言う。


「この話は終わり。それよりも…」

「それよりも?」

「えっと、その」


言い淀んでいると、声だけが聞こえてくる。


「ーお前だけだ。俺の足音がしないのに気づいたのは」

「…」


俺ははっとし、振り返る。

しかし、誰の姿もない。


子ども達がはしゃいで帰っていくのだった。


彼女が「大丈夫?」と俺の顔の前で手を振る。

俺は彼女を背中に隠すと、じっと待つ。


相手は「くっく」と笑うと、

「そんなに警戒しなくていい」

「…そうですか」

乾いた口で答えると、男性の声が耳に響く。


「お前、俺と同じ匂いがするな」

「…どうでしょう?」

「誰と話しているの?」


彼女が背中を引っ張ってきたので、手を叩いて安心させてやる。


「ー気に入った。俺の世界に来ないか?」

「それはどうも。でも…俺は光のある場所にいたいので、お断りさせていただきます」


シャチに海の中に沈められないように、俺は汗をかきながら言葉を選ぶ。


男性はまた声を立てて笑うと、

「彼女、大事にしろよ。じゃあな」

それで交信が切れた。


俺ははあっと息を吐き出し、その場にうずくまる。


「大丈夫!? ねえ!!」

「大丈夫だ。静かにしろ」

「うん」


彼女は一緒にかがみ、顔を覗き込もうとする。

しかし触れてはこなかった。


今、殺気立っているのが分かるのか、空気の読める彼女で良かったと思う。


しばらくして安心を確認すると、俺は彼女の手を取って、立ち上がる。


「帰ろうか」

「そうしよう。今日はゆっくり休んだほうがいいよ」


彼女はようやく表情を緩めたので、俺も普通に戻ったのだった。

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