第9話「同じ星空の下」
雪は自分の部屋がいつもと違うように見えた。唯一の居場所だと思えていた場所が、今はなんだか違って見える。
両親は自分には無関心。暴力とかそういうのがないのは救いだ。でも、学校のこととか、自分のことは一切聞いてこないし、言っても何もしてはくれないだろう。
いつもぬいぐるみを抱いて話しかけては慰めてもらえることを期待していた。
今日も同じようにぬいぐるみを抱いてみるが、何かが違う、何かが足りない。
窓から入ってくる光につられて窓を開けた。星空の下、思いを馳せたのは中村のこと。あんなに楽しい日を過ごしたのはいつぶりだろう。家族とでさえもあそこまで楽しい日々は思い出せない。
人の温もりを感じたのも久しぶりだった。
「私、寂しかったみたい。」
雪の目から涙が溢れて、ぬいぐるみへと落ちた。
星空を眺めると涙のせいで星が滲んで見える。でもなぜだかそれが綺麗で涙を拭わずにそのままにしていた。声もあげずに、ただ一人で静かに泣いている。その姿はいたいけな少女という言葉があまりにも似合う程だった。
「ねぇ、お星様。私ね、好きな人が出来ちゃったみたいなの。今日の朝まで死のうとしてたのに笑えるでしょ?でも、あの人といると楽しくて、初めて自分のことを肯定された気がしたの。それでね…私…」
言葉が詰まった。上手く喋れない。1度落ち着くために、ぬいぐるみに顔を埋めた。さっきの涙のせいで濡れている。けれども、冷たくは無い。不思議と暖かい感覚。息を整えて、もう一度星空を見た。涙が無くなって、ようやく本来の星の姿を見ることが出来た。滲んで見えた時と場所は変わっていない。その場に留まり、雪の話を聞いてくれているかのようだ。
「私ね、彼と。中村くんと恋人になりたいなって思っちゃった。出会ってすぐなのにバカみたいでしょ?でも、本当に心の底からそう思えたの。それにね、中村くんとなら『生きたい』って思えた。でも、今の彼は死ぬことを目指してる。私と一緒に楽しい日々を送ることができたのなら、中村くんも生きたいって思ってくれるかな?」
星は何も答えない。ただ、雪を見守り、光で照らしてくれているだけだ。けれど、雪にはそれが応援のように感じられた。
お礼として死ぬ事の手伝いをする。そして、彼が死ねたのなら自分も死ぬ。幸せな記憶のまま。
でも、雪は中村となら生きていたい。手伝いはするけど、その中で彼が自分と生きてくれることを期待した。明日会って、そう言ってしまおうか。いや、それで関係が崩れたくはない。2人はまだ『友達』なのだから。
雪は星に願った。まるで小さな子どものように。
「彼と生きたいの。やっと生きる目的を見つけることができた気がするから。お星様、どうか、お願いします。」




