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死にたがりと君  作者: アズキ


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第6話「廃校のプール」

学校の中は静まり返っていた。

長い廊下には2人の足音だけが響いている。コツコツと鳴る音は懐かしいような、あまり思い出したくないような気持ちを引き出していた。まだ暗くなる時間じゃないが、校内の雰囲気は暗く感じた。


「来る時も思ったけど、こんなに静かな学校初めて。学校、好きじゃないけど、こんなふうに誰にも邪魔されない空間だと、ちょっと好きになれるかも。」


「いいとこだよ。ここは。何をしてても、何を考えてても誰も邪魔してこない。誰も否定しない。」


「そんなとこに私が来ちゃって大丈夫なの?」


「だって、俺の事を手伝ってくれるんでしょ?その時点で俺を否定するなんてことないでしょ。だから、ユキは邪魔にはならないんだよ。」


廊下を2人で歩いて、一番端の教室に入った。中は机が後ろに固まって置いてある。元はきちんと並べられて、1つ1つが一定の距離を保って置いてあったんだと思う。ロッカーを見ても何も入ってない。空っぽの教室だ。


「きちんとした教室、覚えてる?ちゃんと机が並べられて、それぞれ席があって。」


「嫌だけど、覚えてるよ。学校を抜け出してきたばっかりだから。」


「2人だけの教室、作らない?さっき言ったけど、ユキは俺の邪魔にはならない。しっかり協力してくれる証として、席を2つ作ろう。」


中村は自分が雪のことを受け入れ始めていることに気づいていた。表面にはあまり出さなくとも、人生で初めての友達ができたと感じていたのだろう。でなければ、2人の教室を作ろうなんて提案するわけがない。

2人は机を2つだけ残して、残りを廊下へと出した。教室の真ん中に2つだけ残し机。こんな光景、田舎でも中々ないと思う。ここもかなり田舎の方ではあるが、さすがに20人近くは生徒がいるクラスばっかりだ。

2人は椅子に座った。こんなにいいクラス、ある訳が無い。ある訳がないからこそ、想像をしてしまう。もし、この2人だけのクラスならどれだけ良かったのかと。


「死ぬ時って、いつもここでやってるの?」


「ん?まぁ、大半はここだね。人も寄り付かないし、それに田舎ってのもあってか設備がまだ動くんだよ。誰も動かすと思ってないんだろうね。それに水とかも、水道から来てる訳じゃなくて、井戸水?なのかな、出てくるんだよね。」


「そうなんだ。どんな死に方を試したの?」


「1番覚えてるのはプールかな。廃校のプールってさ、汚い緑色の水が溜まってるんだけどさ、そこで溺れたら死ねるかなって思ったんだ。」


「結果は?」


「ご覧の通り、苦しいだけで、生き返ったら体が臭くてしんどかった。だから、もうプールの水は抜いてある。綺麗なプールだったら飛び込んでみたいけどね。いっぱい泳いで、綺麗な水で溺死。結構いい死に方だと思わない?」


「苦しいのを除けばね。提案なんだけど、2人でプール、掃除しない?で、水を溜めるの。」


「時間もあるし、いいよ。」


この時点で既に友達のような関係を築いていた。似た者同士はこんなにも早く打ち解けられるものなのかと不思議に思った。でも、綺麗な水のプールで泳いでみたかった。久しぶりに。最後に綺麗なプールで泳いだのは何年前なのか思い出せない。その時は死のうなんて考えて入ってはいなかったから、何も感じずにただ授業だからという理由で入っていた。でも、今は死ぬという明確な理由がある。楽しんで幸せな気持ちのまま少し苦しいけど死ぬ。ロマンチックだと感じるのは、もはや末期を通り過ぎている。

プールサイドに着いて、2人は道具を取り出して作業を始めた。中村はデッキブラシで床を擦った。雪はホースで水を撒いていた。

不意に雪が撒いていた水が中村にかかった。


「冷たっ!」


「あ、ごめん。」


「このー!」


中村は床に広がっていた水を手につけて雪にかけた。お互いに冷たがりながらも水を掛け合う。圧倒的にホースと手では分が悪い。でも、終わる頃にはまだプールに入っていないのに2人ともビショビショになっていた。

あとはプールの水を入れるだけ。

溜まるまでには時間がかかる。2人はプールサイドに座り、水が満タンになるのを待った。濡れた体に吹く風は普通に当たるよりも数倍寒い。でも、動いていたせいもあってか、涼しいと感じていた。2人は友達になったが、まだ距離はぎこちない。段々と水が溜まっていくのを見ている2人はその光景に釘付けとなり、話すことを忘れてしまっていた。

少し日が暮れてきた。夕焼けがそろそろ見える頃だ。プールの水は満タンになり、中村が水を止めた。戻ると雪が足を水につけていた。

その姿を見て、何を思ったのか、中村は雪の隣へと走り、真横でプールに飛び込んだ。大きい水しぶきが雪に襲いかかり、彼女は両手でガードした。

そんなこと知らずに中村はプールの中で、水の冷たさを感じた。目を開けると少しぼやけてはいるが、プールの中が見えた。濁った汚い水では見られない光景だ。

そして、上から泡が降ってきた。細長く、下へと降りていった泡が上へと上がっていき、泡の中から雪が現れた。お互い服のままプールに入っていて泳ぎにかったが、そんなこと気にもしなかった。

2人は同じタイミングで水面に出て息をした。


「濁った緑の水より全然気持ちいい。」


「プールに入ったのなんて久しぶり。なんだか、浮かんでるみたい。こんなにいいものだったっけ?覚えてないや。」


思うがままに泳いだ。お互いにお互いの姿を見ていた。途中、腕を掴んで泳いでみたりもしたが、あまり上手く泳げなくて、息をした時に2人で笑い、それがとても心地よかった。


「ねぇ、中村くん。」


「何?」


「お願いがあってさ、聞いてもらってもいい?」


「ん?」


「私と友達になってくれないかな?あなたが死んで私も死ぬから最後は友達のことを思って死ねたらなって思って…」


「とっくに友達だと思ってたよ。死にたい人に会うなんて人生で思いもしなかったから。」


「嬉しい。」彼女の目がそう言っているようだった。言われなくても分かる。近づいて両手を繋いだ。既にそこにあった友情がさらに深まったと感じた。


「ねぇ、ここで殺してくれないか?このまま、俺のことを水の中に沈めて、上がってこようとしたらそのまま抑え続けて、動かなくなったら上げていいよ。」


「分かった。やってみる、上手くできるかは分からないけど。」


「躊躇しちゃダメだからね?」


彼女は中村の肩に手を置いてプールの中へ沈めた。上を向いているから鼻に水が入ってくる。痛い、苦しい。でも、上がろうとしても手で押さえつけられている。苦しくてもう限界となり、そのまま前が真っ暗になった。

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