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死にたがりと君  作者: アズキ


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第5話「戸惑い」

彼女はポカンとした表情を浮かべていた。それもそのはず、いきなり赤の他人から「自分が死ぬのを手伝ってくれ」なんて無理な話だ。


もし自分がそんな状況に置かれたら断るに決まってる。例え、それがいくら自分を変えてくれたお礼だとしてもだ。なんでこんなことを頼んだのだろう。お礼がしたいと言われて素直に出た答えがそれだっただけなんだ。


やっぱり断ろう。


「変なこと言ったわ、こんな無理難題、承諾出来るわけ…」


「分かった。」


「は?」


純粋に驚いた。断られると思っていたし、なんなら自分から断るつもりでいたからだ。


「なぁ、分かってるのか?死ぬのを手伝うって、毎回死ぬところを見てなきゃならないんだぞ?」


「分かってる。さっき、飛び降りて血が出てるの見えたし。」


「そんな甘いもんじゃない。それに、俺が死ぬまで、君は死ねないってことになるんだぞ?」


「それでも、いい。とにかくお礼がしたい。あなたが死ぬところを見届けて、私もその時に死ねればいいから。」


呆れた。人間は感謝の気持ちだけで、ここまで大胆な行動ができるものなんだなと感心する気持ちまで込み上げてきた。どう捉えれば良いのやら、今まで1人だった自分にある意味友達ができたと喜ぶべきなのか。今すぐ死にたい人間の寿命を先延ばしにして、楽になるまでの時間をも延ばしている罪悪感に苛まれればいいのか。


承諾してしまったものはしょうがないと中村は諦めることにした。もしそれで本当に死ねるのなら中村としてはありがたい話だったからだ。


「じゃあこれから毎日、この学校に来て。言っとくけど、君が思ってるよりもずーっとえげつないからね、死ぬって。」


彼女は頷いた。顔にはまだ少し戸惑いが感じられる。それもそうか、人の死を目前にして無でいられる中村の方がおかしい。しかも、死んだ人が蘇らないことを祈りながら死体を見てなくてはいけないなんて尚更嫌気がさすだろう。


「別に、耐えれなくなったら言ってくれ。途中でやめても構わない。」


「いや、絶対やめない。最初は慣れなくても何とか頑張る。」


死を見ることに関しては戸惑った顔をしてたくせに、なんで中村に付き合うことだけは迷いがないのだろうか。純粋に向かってくる感情にまた罪悪感を覚えてしまった。それと同時に、突き放そうと思っても無理そうだなとも思った。


「今日、まだ時間あるけど、何か出来る?」


「いや、今日はなんだか疲れた。明日からにしよう。家に帰るまで時間あるなら、この中でも見てくか?」


そういえば疲れたなんて感じたのはいつ以来だろう。頭はよく疲れていたが、頭と体が同時に疲れるなんてことは久しぶりな気がした。


中村は横になっていた体を起こして、座った。さっきの質問に彼女は「見る。」とだけ答えた。「それじゃ、行くか」と腰を上げて立ち上がった。


やはり、体が疲れているような感覚。久しぶり感じた感覚に違和感とほんの少しの喜びを感じていた。レベルアップして、中村に欠けていた何かを手に入れたかのような感覚。


「まだ明るいな。学校見るって言ったけど、早めに終わっちまいそうだな。」


「そしたら、教室とかどこでもいいからゆっくりするよ。私もなんだか疲れたみたい。」


不意に彼女の方を見た。目の中に、少し輝いたものが見える気がする。屋上に来た時には絶望しか無かったその目に、1つの灯火でも灯されたかのようだった。まさか、中村を手伝うことで生きる希望でも見つけたか?いや、なら逆か、死ぬためへの課題的なものだろう。そんなものに希望を感じれるなんておめでたい。当たり前のことだが、それを口には出さなかった。表情に出ていなかったかと言われると自身はない。


「中村。」


「え?」


「俺の名前。呼ぶ時必要だろ?」


「あ、うん。私、雪。これからよろしくお願いします。」


「今更、かしこまるなよ。」


2人は少し微笑み合い、学校の中へと入っていった。

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