第3話「出会い」
寝っ転がっていた中村は体を起こした。
こんなところに来るのは自分だけだと思っていたからだ。この屋上の扉が開くなんて夢にも思わなかった。
まさか、今になって見回りにでも来たのだろうか。そうなればここも終わりだ。解体工事がされて新しい建物ができてしまう。これからはどこで考え事をすればいいのか分からなくなってしまう。
けれども、そんな不安はすぐに消えた。
扉を開けたのは高校生ぐらいの女性だったからだ。顔は暗く、深い闇の中にいるように感じられた。下を向いていたが、中村に気がつき、「なんでこんな所に人が」という表情を見せた。状況は違えど、思っていることは同じか。
2人は少しの間、お互いを見つめたまま動かなかった。話しかけた方がいいのか、それとも何もせず気にしない方が相手のためになるのか分からない。
未だに扉の横で立ち尽くす彼女に向かって中村は痺れを切らして聞いた。
「なんでこんなところに来たの?」
彼女の顔は強ばったまま、横を向いた。どこを見ているのだろうと中村も同じ方向を向いた。
「死のうと思って。」
彼女が一言だけ漏らした。そのまま中村を気にせず端の方に歩き出した。端で立ち止まり、下を覗いた。
中村には止める理由は無かったし、止めたいと思った訳でもない。でも、何故だろう、自分の経験を忠告に使わずにはいられなかった。
「飛び降り自殺はやめた方がいいよ。」
「なんで?自殺を辞めさせるための口実?」
中村は立ち上がった。両手をポケットに入れ、得意げに話した。
「いや、そんなんじゃないよ。ただ、自殺するんなら即死の方法の方がいいってだけだよ。苦しまずに逝ける。」
「飛び降りじゃ、即死じゃないっていうの?」
「あぁ、そうだよ。落ち方にもよるけど。頭から地面に衝突すれば即死なんじゃないかな。でも、空中でそんなコントロールが効くかって言われたら無理でしょ。」
中村の方を見ていた彼女はもう一度、下を見た。下を見てから端から少し後ずさりした。
「やっぱり、痛いのは嫌だよね。」
彼女のことなんか気にせずに中村が続ける。
「背中から落ちた時なんて最悪だよ。背骨がイカれて、全身に電撃でも走ったんかってぐらいの痛みがするんだ。その痛みを背負ったまま意識がどっかに行くのを待たなきゃいけない。」
彼女の呼吸が荒くなっているのが分かる。顔は来た時と同じで強ばったまま中村を見つめている。だが、何か疑問がありそうな表情が増えている。
「なんで、そんなこと知ってるの?死んだことないくせに。」
「あるよ。何回も。」
彼女の顔がさらに強ばる。「嘘つき」という顔だ。そうだな、そう思うのが普通だろう。こんな話を信じろという方が難しい。義務教育で習った「命は1つ」だと。今はそんなことを教えた教師をぶっ飛ばしてやりたいが。死にたくても死ねない人の気持ちなんて誰も分からないからだ。なんで死ねないのかは自分でも分からない。
「嘘よ。死ねるわけないじゃない。だったら見せてよ、あなたが死ぬところ。」
「ここで死ぬ方法か、それって飛び降りしかないと思うんだけど。ちょっと痛いけど、いいよ、見せてあげるよ。」
中村は先程、彼女がいた場所まで歩いた。振り返ってみた。「え、まさか」という顔をしている。「そのまさかだよ。」と嘲笑うかのように彼女の方に体を向けて後ろに倒れ込んだ。
何回も経験した感覚、体がふわっとした感覚になり、地面に衝突した瞬間、強烈な痛みに襲われる。
そして、後どのくらいで死ぬのかと考える。意識が段々と薄れていく。




