第14話「寝れない夜」
家に帰った雪は虚無感を覚えていた。
シャワーを浴びた時の熱いお湯が体を打つ感覚も、夕飯を食べた時の食道を通って胃に入る感覚も何もかもがどうでもよくなっている。
あの時、「またね。」って言ったけど、またなんて無かったらどうしよう。そう思っていたからだ。もし、その言葉が呪いの言葉で彼があのまま死んでいたら、自分の願いは叶わなくなってしまう。
もし彼が死んでいたら答えは簡単。自分も死ねばいい。でも、今の気持ちのままでそんなことができるんだろうか。
中村が死んだ時、死後の世界から彼は雪に自分と同じように死んでくれと願うはず。恋人になったのだから。普通ならそうはならないだろう。家族や大切な人が死んだ時、取り残された人間に対しては「生きて欲しい」そう願うはずなのだから。
不安が募る。「またね。」があらぬ形で叶わなくなってしまうことを恐れた。
まずは彼があのまま死んでしまっていないかということ。
もう1つは本当に自分とずっと一緒にいてくれるのだろうか。
一途とか、そんな都合のいい言葉がこの世界にはある。それが成立するのは動物の世界だけだと思っていた。人間は心変わりが激しい生き物。感化されればコロッと意見なんか変わってしまう。手のひら返しというやつだ。
雪自身は、彼と一生を添い遂げる覚悟があった。それにはなんの迷いもなく、ただ純粋に中村のことを愛していたいという思いだけがそこにあった。
足りないものは彼を信じることだけ。
「ねぇ、お星様。私、なんで彼のことを信じられてないのかしら。自分の気持ちには正直になって、信じきるって自信があるのに、なんで。」
星は何も答えずにただ、雪のことを見守っていた。
何も持っていないことの違和感をやっと思い出し、いつものように、ぬいぐるみを抱いて窓から星を眺めた。やはり、ぬいぐるみではもう足りない。
星を見ていても何も答えが出る訳じゃないのに、子どものようにずっと話しかけていた。
「中村くんが死にたいって思ってるから、信じてあげられないのかな。私といて、その気持ちが変わらないから。私が中村くんの人生になんにも影響を与えられてないのかなって思うの。」
怖かった。言っていることが矛盾する。すぐに生きたいという気持ちになってくれていたら、心変わりの早い人なんだと思ってしまうだろうし、恋人もコロッと変えてしまうのではないのかと。自分はなんてめんどくさい人間なのだと常々思った。
すぐに心変わりしないのなら信じてやればいいじゃないか。なのに、生きたいという気持ちにさせることができなかった時の不安が絡んでくる。
雪の願いはただ1つだけなのに。それを叶えることの難しさは言葉では言い表せないものに膨れ上がっていたのだ。
「私、中村くんと生きたい。生きて、生きて、最後に2人で死にたいの。」
星を見上げて、一生を中村と添い遂げて、その結果、死んだ時にあの星のようになりたいと雪は思った。
2人で1つになって星のようになるという願いはお互い同じ。ただ、目的が違う。目的が違うだけで、ここまですれ違いが起きてしまうものなのだ。




