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死にたがりと君  作者: アズキ


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第11話「空腹」

雪は自分の感情を押し殺していた。中村を殺すよりもこの感情を殺す方が何倍も辛くて、泣き出してしまいそうだ。

恋人ができて、すぐ隣にいるのにこんなの笑ってしまうぐらい変な話だと思う。でも、実際そうだった。恋人になって思い出を作れるなら、生きる道を見つけてくれる、自分と新しい人生を歩んでくれる。そう思っていたのに、期待とは全く違う言葉が彼の口から出てきてしまったんだ。


仕方の無いことだと、思いを押し殺すしかないのだ。今は幸せな気分のままでいさせてあげたい。それに、せっかく恋人になれたのに、こんなことで破局したくない。自分だって喜びたい。喜ばなきゃいけない。

嬉しくない訳じゃないんだ。喜びで今のこの気持ちを打ち消すことなんて余裕なはず。でも、それをしちゃいけないような気がしてならなかった。諦めてしまうことになってしまうと思ったから。

だから、半分喜び、半分悲しさを背負った。

そんな彼をも愛さなければならなかったから。


「中村くん。嬉しそうだね。」


「そりゃ嬉しいに決まってるでしょ。ユキは嬉しくないの?」


「私だって嬉しいよ。中村くんの恋人になれたから、これから頑張るね。」


2人は立ち上がり、ハグをした。

雪の心とは別で、中村の腕の中は暖かくて、温もりを嫌という程感じてしまう。これが死にたいと言っている人間の包容力なのかと疑ってしまうほどだ。


頭に冷たい感覚が走る。何かが降ってきた。雨だ。天気はいいのに雨が降ってくる。天気雨というものだろう。そんな雨すらも気にせずに2人は抱き合っている。雪にとってこの雨は癒しの雨だった。中村の腕の中で泣いても雨だと言えるから。

ハグをやめてお互いの顔を見る。

雪は涙をバレないように拭いてから中村の顔を見た。


「ユキ、目が赤いけど、どうした?」


「雨が目に入ってきちゃって。」


「そうか、雨、すごいもんな。中に入ろうか?」


「いや、このままがいい。普通の雨より弱いし、私は全然気にしないよ。」


2人の服が段々と濡れていく。大雨ではないから、水溜まり模様みたいになって綺麗なアクセントを作ってくれているようだ。

中村は上を向いてみた。雨が目に落ちてくる。目が滲んでも空の青さをかき消すことはできない。今の2人の状況を雨ですら歓迎しているかのように思える。

2人がハグをし終えた時、タイミングを見計らったかのように雨が止んだ。


「雨、やんだね。あ!ねぇ中村くん、あれを見て!」


雪が指さした方向には虹がかかっていた。初めて見るわけじゃなかったのに、「綺麗だ。」と思わず声にしてしまうぐらい心奪われてしまったのだ。

そんな綺麗な光景に見とれている2人を遮ったのは中村のお腹の音だった。


「中村くん、お腹すいたの?」


「うん、だけど、こんなこと初めてだよ。今までお腹がすいたことなんて。」


「私、お菓子持ってきてるけど、食べる?」


「食べたい。」


衝撃的だった。今まで何も食べなくても、お腹は減らないし、餓死することもなかったはず。それなのに今になってなんでお腹がすいてるんだ?雪の弁当を食べたからか?分からなかった。とりあえずは、雪について行ってお菓子を2人で食べよう。それから考えようと思った。


「こんな綺麗な虹、初めて見た。あの時、ここから飛び降りてたらこんな綺麗な景色をあなたと見ることなんてできなかった。ありがとうね。」


軽く頷いた。彼女の言うことは正しい。中村もあの時、飛び降りるのを止めてよかったと思えている。

けれども、彼女の言葉の意図を読み取ろうとは思わなかった。考えもしていなかった。ただの嬉しさを表現した言葉だと、そう思っていたからだ。


教室に戻り、雪がカバンの中からお菓子を取りだした。板チョコに、ポテトチップス、じゃがりこ。


「どれから食べる?」


中村は板チョコを選んだ。雪は板チョコを丁寧に割って、ブロックごとにして銀紙から出した。

2人は椅子に座っていたが、机の間の距離が邪魔でお互いの机をくっつけることにした。まるで今の自分たちを体現するかのような感じだ。今日の朝までのぎこちない距離感とは違い、もうお互いの間にあった空間はなくなっている。そして、机に置いてあるチョコレートを1つずつ食べる。

その光景は休み時間におやつを食べる学生の姿そのものだった。こんな学生生活を送ってみたかったと雪は思っていた。

ポテトチップス、じゃがりこも2人で分けながら食べた。なんでもない時間。その時間こそが幸せだった。今はどんな事でも幸せと感じられる。それは2人とも同じだった。嘘偽りの無い愛がそこにはあったのだ。ただ、1つだけ、たった1つだけ、形が違うだけの愛が。

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